冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 翌日からスパルタ教育が始まった。まずは殴る蹴るなどの動きを見ていくミューリ。
「筋がいいねぇ。本当に初めてとは思えない」
 二日みっちりかけて、体術の知識と動きを叩き込む。
「あとは力加減だけど、木や岩相手にしてそこは覚えておいた方がいいね。自在にそれができれば、もう完璧だよ」
「分かった。さっそく特訓してくる。夜には戻る」
 ヴォーグはそれだけ告げると丸腰で、森に入っていった。
 その背を見送ったミューリは、しばらく放っておこうと思った矢先、木が折れる音を聞いて驚く。
「どれだけ力が強いんだか」
 ミューリは思う。あの子は強者になるために、生まれてきたのかもしれない、と。
 筋がいいと言っておいたが、次元が違うと気づいたのは最初だった。やらせてみた素振りが、恐ろしいくらいに出来がよかった。
 しかも会得するスピードも異常に早いだけでなく、無駄な動きを一切しない。生まれ持った才なのかは分からないが、こんなにセンスのある子だったとは思いもしなかった。
 ――次は銃器の扱いだねぇ。
 教えることを楽しみにしている自分に苦笑しながら、ミューリは家に入った。
 
 そのころ、ヴォーグはというと。
 森の奥に入り、近くにあった木に向かって蹴りを繰り出す。蹴った衝撃が強かったのだろう、そこからぼきりと折れて長い木が倒れてしまった。
「蹴りひとつで、木が折れるほどの力があったのか……」
 自分でやったことなのにあまりにも驚くべき結果だったため、少し口を開けてしまう。
 ――もっと頑丈なところを探さないとな。
 ヴォーグは巨大な岩がある場所に向かって駆け出した。
 川の近くにでんと置いてある巨大な岩の前にいくと、ヴォーグはふうっと息を吐き出す。
 岩を睨みつけ、左右の拳を交互に叩き込む。
 本気で殴っても、岩が凹む程度で、それだけでは崩れなかった。蹴りも織り交ぜてひたすら岩を殴ること、二時間が過ぎた。
 あれだけがっしりしていた岩は、半分以上砕かれた。
 何度も何度も岩を、力加減を変えながら殴った。
 日が暮れたことでヴォーグは、夜目が利いていることに気づく。
 急いでその場を後にして、家に戻る。

「遅くなった!」
 家のドアを開けて言いながら入る。
「大丈夫さ」
 ミューリはニヤリと笑ってみせる。
「夜になって暗い森の中にいたから、気づけたことがある」
「うん?」
 ミューリは首をかしげた。
「夜目が利いているようなんだ」
「それはよかったね。じゃあ、明日からは銃器の扱いを、教えるから」
「頼む」
 ヴォーグは頭を下げた。