冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「そう。お嬢ちゃん、その話を聞いて、どう思った? 正直に教えて?」
 野々宮が、真剣な表情で尋ねる。
「逃げたからこそ、野々宮さんと出会えたと考えれば、ものすごく幸運だったのかもしれない。逃げなきゃ、生きなきゃ、というような強い意思を感じた。あたしは、逃げることすらもできなかった……」
 優月は暗い顔をする。
「ごめん、嫌なことを思い出させたね」
 慌てて野々宮が謝る。
「いえ、もう過去のことだし、大丈夫」
 強がっているようにも見えたヴォーグだったが、それについては口にしない。
「本当に、いい子じゃないか」
「そうだな」
「愛想尽かされないようにね」
「は? さっぱり分からんことを言うな」
 その流れを見ていた、優月がくすくすと笑う。
「二人とも、面白いね」
「心外な」
 同時に言ってしまい、野々宮とヴォーグは顔を見合わせる。
「あははは!」
「くくくく」
 互いに吹き出してしまう。
 三人で思う存分笑い、他愛のない話をした。

 野々宮が洋館を出たのを見送ったヴォーグは思う。
 ――本当に面白い人だな。優月があんなに笑ったのは、初めて見たかもしれない。
 その時の光景を思い出したヴォーグの横顔には、笑みが刻まれていた。

 部屋で待つ優月も、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
 作ってもらった巾着袋を、ぎゅっと抱きしめている。
「本当に、いい人達でよかった」
 しみじみと思う。
 助けてもらっただけでも十分なのに、ヴォーグはそれ以上のことをしてくれている。野々宮も、なんだかんだ言いながら、自分とヴォーグのことを気にかけてくれている。
 ――本当にいいことばかりで、ちょっぴり怖いけれど。
 その言葉だけは心の内に留めておく。
 なにか嫌なことや、悪いことが起きないことを、願うことしかできない、優月なのだった。