冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「挨拶は後でもいいだろ、さっさと入れ」
 手にしている風呂敷を見ながら、ヴォーグが告げる。
 さっと入った野々宮は、玄関を見つめて一言。
「こんな感じに、なってるんだねぇ。なんだかんだで、初めてきたよ」
「そうか。それで? 用は?」
 ヴォーグは苛立ちを、あらわに尋ねる。
「もちろん、お嬢ちゃんと旦那に、用があってきたのさ。まあ、ここまできたのはただ、実際に目にしたかっただけなんだけど」
「服なら近いうちに、出向くつもりだったぞ?」
 ヴォーグは眉を上げる。
「女達のいないところで、じっくり話をしてみたかったんだよ」
「優月も一緒でいいか?」
「その方が助かるねぇ」
 野々宮はにこりと微笑む。

 二人は他愛のない話をしながら、優月の部屋の前までいく。
「入るぞ」
「どうぞ」
 優月の声を聞いたヴォーグは、ドアを開けながら言う。
「俺達に客だとさ」
「野々宮さん! 珍しい!」
 優月が目を丸くする。
「珍しいっていうか、ここにくるのは初めてだよ」
 苦笑しつつ、奥の丸椅子に野々宮が座る。
 その手前の椅子に、ヴォーグが腰かける。
「たまには、女達抜きで話がしたくてきたのさ。それとこれ」
 野々宮がそこまで言って、手にしていた風呂敷をベッドの上で広げる。
「わあ!」
「これは!」
 優月とヴォーグが驚きの声を上げる。
 そこには小物が入りそうな青系の勿忘草色をした巾着袋と、黒い革で作られた大きめのポーチがあった。
「これは、お嬢ちゃんに。歩けるようになったら、持ち歩いてもいいかなって」
「ありがとうございます! わー、嬉しいです!」
 優月は大事そうに、巾着袋を抱えた。
「気に入ってくれたようでよかったよ。旦那にはこれ。腰につけてるポーチ、そろそろ新調したらって思って、作ってみたんだけど。弾丸入れるだけなら、内ポケット要らないよね?」
 野々宮は言いながら、ポーチを渡してきた。
 ヴォーグが中を確認すると、革で作られているせいか、かなりしっかりと作られており、丈夫そうだなとは思った。
 なんだかんだあって、ポーチまで新調しよう、という気が回らなかったのだ。
「ああ。かなりいいじゃねぇか。明日から、さっそく使わせてもらう」
「よかった。お嬢ちゃん、足はどうなんだい?」
「まだ、歩いてもいいって、言われてない。治るまでまだかかるみたいで」
「まあ、あの傷じゃあね。でも、歩けるってなったら、楽しみになってきてるんじゃないかい?」
「それはね」
 優月は思わず、本心を言い当てられて苦笑する。
「旦那、聞きたいんだけれど。女達の依頼を受けたときの話、お嬢ちゃんにしたの?」
「まあ、ざっとは話してある」
 ヴォーグは即答する。