冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「なんで分かっちゃうのー? ちょっとしか寝れなくて」
 拗ねたような顔をしながら、優月が言う。
「俺のことが心配だった、と?」
「心配するくらいしかできないから。ちょっと前のことで魘されてた、ってのもあるけれど」
「怪我はしたが、帰ってきたぞ」
 困ったような顔をしながら、ヴォーグが言う。
「帰ってきてくれなきゃ、困るの。まだあたし歩けないし。今回はどこを怪我したの?」
「腹をな。背中まで刺し貫かれて、傷を抉られたな」
 ヴォーグは掠り傷だと言わんばかりに、あっさりと答える。
「深手って、思ってないんだね」
 優月が盛大な溜息を吐く。
「次は三日後だと。一緒にいこうな」
「はーい」
 優月は足を一瞥して返事をする。
「まったく。さっさと開国か鎖国か、決まればいいんだがな」
「どうしてそう思うの?」
 優月がきょとんとする。
「どちらかに決まってしまえば、少しは恨みも減るんじゃねぇかと、思っただけさ。いつまでも膠着状態ってのも、いいとは思えねぇ」
「まあ、様子を見ていくしかないよね、多分」
「それしか手の打ちようがねぇし。まずは歩けるようになってから、考えればいい。焦るなよ?」
「うん、ありがとう」
 優月はにこりと笑った。
 ヴォーグはその言葉にうなずくと、優月の許を後にした。

 傷が痛んだが無表情でやり過ごし、ベッドに身を投げた。
 ――まったく。自分のことしか頭にねぇ奴もいれば、ただ人が変わってしまったことを嘆く者もいる。いろんな奴がいる。それはいい。だが、この戦い、長引かせてなんになるってんだ。さっさと終わらせろよ。とは思ったが、あの連中にはそれができるとは、思えねぇんだよな。どちらの派閥も、決め手に欠けているのかもしれんが。今の俺にできることはない。
 せめて、あいつの足が早く完治してくれることを、願うくらいしかできねぇや。
 ヴォーグはそんなことを思いながら、眠れないだろうなと思いつつ、目を閉じた。

 翌朝、横になったまま寝てしまったと気づいたヴォーグは、顔をしかめる。
 身体を起こす際に、傷が痛んだのだ。
 少しは寝れたようでよかったんだろうな、などと思いつつ、ヴォーグはベッドから起き上がる。
 窓から外を見下ろすと、見慣れた背中を見つけた。
 ――こんな時刻に。なんの用だって言うんだ。
 ヴォーグは駆け足で、玄関に向かうと、チャイムが鳴った。
「こんなところまでなにしにきた?」
 ヴォーグがドアを開けながら言う。
「おはよう、ホーエンツォルの旦那」
 そこにいたのは、野々宮だった。