冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 パチパチと音を立てながら、家が炎に呑まれていく。
 ついにはゆっくりと倒れ、ただの燃え(かす)と化していく様を見守る。
 
 しばらくして十分燃えただろうと思った二野が、声を張る。
「消火開始!」
 男達が持っていた、木桶に入っている水を家にかけ始めた。
 何度か繰り返していると、火が収まってきた。
 まだ熱いと思われたため土足では入らず、炭と化した家だった場所を二野が検分する。
「これならただの炭としか、思えないから大丈夫。じゃあ、引き揚げるよー」
 二野の一声で、全員が証拠を消した場所から立ち去った。

 そのころヴォーグはというと、坂埜の診療所を訪れていた。
「いるか?」
「また君? もう少し寝かせてよー」
「終わったら、寝ればいいだろ」
「冗談だって」
 坂埜が苦笑する。
 溜息を吐きながら、ヴォーグは坂埜を睨みつける。
「急いだ方がいいなら、その辺にしておけ」
「おー、ホントに怖いよ。入って」
 坂埜はにっこりと笑って、診察室まで入っていく。
 ヴォーグはその背中を追う。
 
「じゃ、準備するから、服脱いでそこ座って」
 なにやら用意し始めた坂埜を見ながら、ヴォーグは背負っていたライフルと、リヴォルバーをホルスターごと外す。床にそれらを置き、コートとワイシャツを脱ぐ。
「あらら……。一か所だけにしては深いじゃん。背中も貫いてるのかな?」
 傷を診た坂埜が尋ねる。
「まあな」
「涼しい顔して言わないでよ。もう」
 坂埜は溜息を吐きながら、二か所の傷を縫う。
 油紙二枚を貼りつけて、晒し木綿で覆うように背中と腹を巻く。
「感謝する。完治までどれくらい、かかりそうだ?」
 ヴォーグが、ワイシャツを着て尋ねる。
「十四日くらいかな。三日経ったらきて、優月ちゃんも一緒に」
「分かった。またな」
 ヴォーグは右手を上げて、診療所を後にした。
 
 どんよりとした曇り空。
 洋館の前で誰かの気配を感じたヴォーグが振り返ると、そこには依頼人がいた。
「全員殺した。これでお前の言う〝鎖〟は無くなった。最期に、家族らはお前じゃなく、お前を歪めた軍を、憎んで死んでいった」
「そうですか。ありがとうございました!」
 ほんの少しだけ哀しい表情をした軍人だったが、瞬時にかき消して、礼を述べると立ち去った。

 その背を見送ったヴォーグは、洋館の鍵を開けて中に入ると、施錠する。自室で着替えをすませて優月の許へ。
「戻ったぞ」
 優月の声を聞いて、ドアを開ける。
「あ、お帰りなさい」
「ちゃんと寝ていたのか?」
 少し元気のない声を聞いた、ヴォーグが尋ねる。