冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「そんな深手を負うことも、想定の範囲内だっていうのか?」
 男が怯えながら声を出す。
「そんなの、当然だろうが。無傷の勝利は、大嫌いでな」
 吐き捨てるヴォーグに、男は首をかしげることしかできなかった。
「本当に息子が、言ったのか?」
「そうだ。貴様らは〝己を縛る鎖〟だと、見做されたようだな」
「鎖……。なら、断ち切るのが筋、と。軍にいってから人が変わってしまったのか。もう、軍にいく前のあの子には、会えないわけだ」
「そうだな。きっと、家族想いの気持ちは、軍にいったことで、握り潰されたか、持つべき感情ではないと、思ったのだろう。軍人ならそんな想い、邪魔なだけだからな」
 ヴォーグは残酷とも言える、言葉をぶつける。
「軍が憎い。あの子を根本から変えてしまったこと、死んでも赦さない……!」
「さらばだ」
 ヴォーグは男の心臓を撃ち抜くと、骸となったそれはどさりと倒れた。
 ――こういう恨みもあるのだから、さっさとどちらかに決まればいい。いつまでも対立しているだけじゃ、恨みや憎しみを生むだけだ。
 ヴォーグはそんなことを思いながら、出入口へと向かう。

 出ようとして人影を見つけ、足を止めた。
「お前か」
「骸の回収と、できる限りの証拠の隠滅にきたんだけど?」
 そこには町人の恰好をした、不思議な雰囲気を持つ二野がいた。
「指笛も吹いていないのに」
「あれだけ銃声が聞こえたら、嫌でも分かるって。ホーエンの若旦那! そんなに殺気立たなくても」
 二野は苦笑を浮かべている。今様色の着物を着ていて、足は()(そく)のブーツを履いている。目の色も髪の色も黒。髪は短いながらも撫でつけている。
「名前を知ってても、殺気まで消せと言われても困るんだよ。この場は任せてもいいか?」
 ヴォーグは溜息混じりに言うと、腹の傷を一瞥。
「いいよ。早く手当て、受けた方がいい」
 ヴォーグはうなずくとその場を去った。

「さて、お仕事お仕事!」
 二野は背後にいる男達にも分かるように、二度手を叩く。
 男達は無言で、骸を運び出し始める。荷車には幾重にも巻かれた大きい布が敷かれている。血が荷車につかないようにするためである。
 骸を運び出した後は、血痕の処理をどうしたものかと考えた二野は、ひとつ案を思いつく。
「一軒だけだし……。燃やしちゃった方がいいかもしれない。用意はある?」
 二野が言うとその中にいた男が、油と(かがり)()に使いそうな木と火打石を持ってきた。
「じゃあ、燃やすからみんな出てー」
 気軽なその声を聞いた、男達全員が家から出る。
 二野はそれを横目で見ながら、油が撒かれたのを確認し、火打石を使って篝火に火をつけると、家の中にそれごと放り込んだ。