冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「終わったか。金なら払った」
 坂埜に呼ばれたヴォーグが入ってくる。
「うん」
 うなずいた優月を見ながら、ヴォーグはコートを脱ぐ。
 きたときと同じように全身をくるむと、さっと抱き上げた。
「坂埜」
「なに?」
「次はいつくればいい?」
「明日。こまめに換えて、清潔にしておきたいから」
「ん」
 なにか言いかけた優月を、ヴォーグは目で制した。
 
「お前の家に行く」
「どうして?」
「この目で見ておきたい。それと別れはしておくべきだ」
 優月は首をかしげることしか、できなかった。
 ぽつぽつと優月が道を案内し、辿り着いた場所には〝家〟と呼べない建物があった。
 ヴォーグは絶句した。
 雨風を防げない。寝具もない。暖など取れない。せいぜい近くに井戸があるだけ。
 こんなところに居続けるのは、いくらなんでも無理だ。
「ここにくることは、もうない」
 ヴォーグは言い放った。
「なんで?」
 優月が聞き返す。
「ここはただの廃墟。家じゃあない。こんなところに置いて帰れない」
「じゃあ、どこに行くの?」
「俺の家。空き部屋ならある」
「ええ……」
 優月は言葉を失う。
「俺は困らんから、余計なことをいちいち考えるな」
「初めて会っただけなのに、どうしてそこまで……?」
「お前は誰よりも、人の痛みが分かる。それに、あんな状態のお前を放っておけなかった」
 低い声でヴォーグが言う。
「……あたしなんか放っておいてくれてよかったのに」
 優月は唇を尖らせる。
「俺はあんなにボロボロなのに、必死に耐えているお前を見て驚いた。強い意思を感じたんだ。〝こんな奴らに負けてたまるか〟という言葉が聞こえてきたくらいだ」
 ヴォーグは苦笑した。
 優月は困ったような顔をするので、精いっぱいだった。

 この出会いが、優月の中の〝普通〟をひっくり返すものであった。
 そして、優月が感じた激しい痛みの数々が〝過去〟に変わった瞬間だった。