冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「俺はできることをしただけだ。それで? これからここで、仕立ててもらうのはどうなりそうだ?」
「女達からすれば、あんたは恩人だよ。特別に許そうじゃないか。あんた達、異論反論は認めないよ?」
「構いません、姐さん!」
「慕われているのが、よく分かる」
 くつくつとヴォーグが嗤う。
「怖いけど、美しい笑みだね」
「そりゃ、どうも。それに、お前の問いに答えていなかったな。ここだけの秘密にできるか?」
 真剣な顔をして、ヴォーグが尋ねる。
「できるさ。じゃないと話してくれないでしょう?」
 野々宮が断言する。
「俺は吸血鬼だ。人間には水が必要だろう? 俺には血が、必要なんだ」
「……血が必要不可欠ってことかい?」
 野々宮は驚きながら、言葉を返す。
「人間が水を欲するほどではないが、完全に絶つのは無理だな」
「ずいぶん酷い目にも遭っただろうに。ここにはあんたを傷つける者は誰一人いない。だから、そんなに殺気立たないで?」
 野々宮は優しい口調で言った。
「殺気ばかりは抑えられん。だが、その気持ちだけで十分だ。これからも、よろしく頼む」
 ヴォーグはそこまで言って、頭を下げた。
「こちらこそ」
 野々宮と女達は笑顔を見せた。

 * * *

「正体を告げても態度を変えないどころか、寄り添ってくれる奴らがいることを俺は初めて知った。依頼のことはあまり話さなかったが、女達と野々宮の想いは、服に込められているのだろうなとも思った。きちんとしたいい仕事をしてくれるからな。あいつらは」
 遠い目をしたヴォーグが、そんな言葉で過去を締め括る。
「いい人達で、よかったね」
 優月は微笑んでうなずく。
「ああ。俺の汚れ仕事も人の役に立つ場合があると、教えられたよ」
 ヴォーグはほんの少しだけ、笑みを浮かべた。
 
 それから数日後のある日。
 優月を抱きかかえ、診療所で手当てを受けた帰り、洋館の前にいる軍服を着た男が声をかけてくる。
「頼みたいことがあり、こちらまでうかがった」
「少し待ってくれ。話は後で聞く」
 ヴォーグはいったん、優月を部屋のベッドまで運ぶ。
 
 すぐさま引き返し、軍服を着た男に声をかける。
「ここで話を聞くことは、可能か?」
「どこでも構わん」
「ならば内容を」
 ヴォーグが低い声で促す。
「〝射手の神〟で相違ないか? 開国派と鎖国派、どちらかに与しないというのはまことか?」
「ああ。俺はどちらにも与しねぇよ」
 ヴォーグは、きっぱりと告げる。
「承知した。では依頼をしたい」
「聞こう」
「軍人らしくありたいが故に、弱みとなるものをすべて斬り捨てたい」
「は? そこまでしなきゃ、いけねぇのか?」
 ヴォーグは思わず聞き返す。
「愚問である」
「誰を殺せって言うんだ?」
 ヴォーグが溜息混じりに言う。