冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 まずはここから近いところにいた、異常なほどまでの精神攻撃をしていた男。
 適当に嘘を言って連れ出し、人けのない路地裏にともに向かう。
 そこまで向かう間に聞こえてきたのは、嫁だった者への文句だった。突然離縁させていただきますという文を残して、姿を消したとのこと。あちこち探しまわったが見つけられずに、知り合いのひたすら文句を言い続ける日々を送っていたらしい。
 その知り合いも不運だったなと、ヴォーグは思う。
 こんな奴の話なんか、誰も聞きたくねぇよな、というのがヴォーグの本音。
 自分が上だから、女になにをしてもいいと、本気で思って疑わない。
 ヴォーグは延々と喋り続ける男に対し、盛大な溜息を吐く。
「俺は貴様の知り合いでもないし、愚痴をぶつける相手でもないぞ。もう黙れ」
 ヴォーグはぞくりとするほど、恐ろしい笑みを浮かべて、右手にリヴォルバーを構えて銃口を向ける。
「ひっ……!」
 男は血の気のない顔をして、リヴォルバーとヴォーグを見つめている。
「いつまで自分が〝誰かより上〟だと思っている? それと、人の心を目に見えない刃物で抉っておきながら、それが正しいと思い込んでいる、貴様には虫唾が走る」
「なんだと!」
 男は怒りをあらわにするが、それ以上の行動には出ない。いや、出れない(・・・・)というのが正確だ。リヴォルバーのカチリ、という音に怯えたのだ。
「あの女はぼくを、支えるべきだったんだ! それをこんな形で放棄して、許されるわけがない!」
「貴様、なにかあるごとに女に対して、暴言を吐いていたそうじゃねぇか」
 殺気を纏った冷たく鋭い蘇芳色の目を見て、男はさらに怯え出す。
「なんで、それを……?」
「貴様に教えたところで、意味はねぇよ。気づいていないようだから、言ってやる。貴様のことはただ鬱陶しい奴だ、と周りは思っているだろうよ。面倒だから口にしないだけで」
「嫌がられてるって、言いたいのか!」
「まったく。頭の回転が悪いな。そうだよ」
 ヴォーグは、溜息を吐きながら言う。
「なんだと! みんな話を、聞いてくれるのに!」
 男が血の気のない顔をして、叫ぶ。
「嫌だけど、断れないから聞いている、だけだろうさ。断ったら怒るだろ?」
「断る方がおかしい!」
「貴様、まさか自分の話は誰もが聞いてくれるのが当然、と思っていないか?」
 引きながら、ヴォーグが尋ねる。
「そうでしょ! だってぼくは、暴力は振るっていないもの!」
「この馬鹿野郎が! 暴力を振るっていないから、言葉だけの攻撃ならしてもいいだと?」
 ヴォーグは思わず、怒号を上げる。それは空気を震わせるほどだった。
「ひっ!」
 怯える男を睨みつけ、ヴォーグは言葉を続ける。