冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「それは、こっちだって同じだよ。お互い様ってことで」
 野々宮が言いながら、奥の部屋へ案内する。
「……これは。驚いたな」
 そこにはハンガーにかけられた洋服一式と手袋が置かれていた。
 ここに初めてきた時に、着ていた服とはまったくの別物であると、理解できる。
「驚くようなこと、ないんじゃないかと思ってたのに。あるんだねぇ」
 野々宮は嬉しさを隠しきれずに、ニヤニヤとしてしまう。
「こんなに丁寧で、生地もしっかりしている。前のがどれだけ酷かったのか、よく分かるよ」
 たっぷり眺めた後、ヴォーグが言う。
「嬉しそうなのは、伝わってるから、着てみてごらんよ? なに緊張してるんだい!」
 パシッと野々宮が、ヴォーグの背を叩く。
「こんなにいいものなんだ。緊張だってする」
 思わず、身体がびくりと跳ねたことに苦笑しつつ、ヴォーグが言い返す。
「着てみた感想、待ってるから早くおし」
 ヴォーグから離れた野々宮は、振り返って様子を見ていた女達を睨みつける。
 女達はその迫力に怯えて、逃げ出した。
 
 そのころヴォーグは緊張しながら、着替えをすませる。
「終わった。……本当に凄いな」
 そこには仕立てた服と、指ぬきグローブを身につけた、ヴォーグがいた。
「なにがだい? それにしても、よく似合うじゃないか」
 野々宮がにこりと笑う。
「どうも。前のものよりはるかに動きやすそうだ。要らん気遣いも、無用と見たが?」
「それはなにより。また戦った時の感想も、教えてくれると助かるよ」
「おう」
「本当に、全員殺すのかい? しかも、無傷の勝利じゃあない。そこまでしてでも、女達の信頼を得たい?」
 うなずくヴォーグに、恐ろしいほど真剣な目をした、野々宮が告げる。
「無論だ。女達の恐怖を取り除けるのであれば、それに勝るものはない。それに、女達が恐怖に晒され続けているのはよくない、と分かったから、引き取ったのでは?」
 真剣な口調で、ヴォーグが言葉を返す。
「なんでそこまで、分かるんだい?」
 野々宮はついムキになる。
「人間の闇ばかり見ているせいか、そういうことには、敏感なのかもしれねぇな。女達はあんなクズに、苦しめられ続けている。せめて、命を奪わねば割に合わん。過去は変えられねぇが、現在と未来なら変えられる」
 ヴォーグはすうっと、目を細める。
「まるで、人間じゃないみたいな言い方。……そこまで残酷にならなきゃ、ならなかったんだね」
「それだけで見抜いてくるか。その辺の阿呆の女より、だいぶマシだな」
 ヴォーグはくつくつと嗤い出す。
「人間じゃないなら、何者?」
「それは、女達の恐怖を取り除いてからだな。では、いってくる」
 ヴォーグはそこまで言うと、颯爽と服屋を出た。