「何故、ホーエンツォルと名乗るようになったのか、話しておこうと思ってな」
「由来みたいな? 知りたい!」
食いついてきた優月を、微笑ましく思いながら、ヴォーグは話し始めた。
* * *
その国でリヴォルバーやライフルの修繕を、任せている男の発言がきっかけだった。
「名前だけでもいいけどよ、苗字も何かあった方が楽だと思う」
「何故?」
ヴォーグは首をかしげる。
「あった方が、バランスが取れるって感じがする」
「なんだ、なんとなくじゃねぇか」
「なんで分かるんだよ」
男が困ったような顔をする。
「目が泳ぐからな」
「抜け目のない奴」
言いながらも、男は笑っている。
そんなヴォーグにも、笑みが浮かんでいる。
「褒め言葉として、受け取っておこう」
「それで? これがいいとかってあるのかぁ?」
「俺の希望で、いいのかよ」
思わず突っ込みを入れる。
「そりゃな。だってお前の名だし」
「ふたつの名前を掛け合わせるのも、ありかもしれん」
「ふたつ?」
男が作業をしながら、首をかしげる。
「ホーエンハイムとツォルからとって、ホーエンツォル」
「誰の名だ?」
「どちらも死んでいるが、父と初恋の相手だ」
照れる様子もなく、ヴォーグが言う。
「よく無表情で言えるな」
男がつい苦笑する。
「無表情で言えるのが、ある意味、俺らしいと思うが?」
「確かに」
くつくつと嗤うヴォーグ。
「ほら、済んだぞ。大事に使えよ」
「いつも助かる。それはもちろんだ」
片手を上げたヴォーグは店を出ていった。
* * *
「そうなんだ」
優月がうなずきながら、口にする。
「今日のところは、ここまでとしよう」
「また、話、聞かせてくれる?」
「もちろんだ。こんな感じでいいのなら」
「こんな感じって、なによ?」
くすくすと優月が笑う。
「話を聞くのは疲れるからな。休むんだ」
その言葉を最後に、ヴォーグは自室に引き上げた。
右手にワインの入ったグラス、左手に黒の煙管を持ち、ヴォーグは溜息を吐く。
さすがにその後の話はできなかった。する勇気がなかった。
あらためて話すしかないと思った、というのもある。
まだ早い。心の準備ができていない。
あんなにも傷だらけになって、歩けもしない状態にまで追い込まれて。
ただただ己の死と、クズどもの死を願う。何の武力もない女が、願うのは至極当然なことで。
逃げられもしないし、目を背けることもできずに。
生きることすらも、傷を治すことも放棄していた。突然現れた男に助けられても、今さらなんだと思ったかもしれない。
助けるならこんなになる前に、もっと早く助けてよ、と思っているかもしれない。
本人に聞いてみなければ分からない、なにも。聞くつもりではいるが、かなり勇気のいることではある。
「由来みたいな? 知りたい!」
食いついてきた優月を、微笑ましく思いながら、ヴォーグは話し始めた。
* * *
その国でリヴォルバーやライフルの修繕を、任せている男の発言がきっかけだった。
「名前だけでもいいけどよ、苗字も何かあった方が楽だと思う」
「何故?」
ヴォーグは首をかしげる。
「あった方が、バランスが取れるって感じがする」
「なんだ、なんとなくじゃねぇか」
「なんで分かるんだよ」
男が困ったような顔をする。
「目が泳ぐからな」
「抜け目のない奴」
言いながらも、男は笑っている。
そんなヴォーグにも、笑みが浮かんでいる。
「褒め言葉として、受け取っておこう」
「それで? これがいいとかってあるのかぁ?」
「俺の希望で、いいのかよ」
思わず突っ込みを入れる。
「そりゃな。だってお前の名だし」
「ふたつの名前を掛け合わせるのも、ありかもしれん」
「ふたつ?」
男が作業をしながら、首をかしげる。
「ホーエンハイムとツォルからとって、ホーエンツォル」
「誰の名だ?」
「どちらも死んでいるが、父と初恋の相手だ」
照れる様子もなく、ヴォーグが言う。
「よく無表情で言えるな」
男がつい苦笑する。
「無表情で言えるのが、ある意味、俺らしいと思うが?」
「確かに」
くつくつと嗤うヴォーグ。
「ほら、済んだぞ。大事に使えよ」
「いつも助かる。それはもちろんだ」
片手を上げたヴォーグは店を出ていった。
* * *
「そうなんだ」
優月がうなずきながら、口にする。
「今日のところは、ここまでとしよう」
「また、話、聞かせてくれる?」
「もちろんだ。こんな感じでいいのなら」
「こんな感じって、なによ?」
くすくすと優月が笑う。
「話を聞くのは疲れるからな。休むんだ」
その言葉を最後に、ヴォーグは自室に引き上げた。
右手にワインの入ったグラス、左手に黒の煙管を持ち、ヴォーグは溜息を吐く。
さすがにその後の話はできなかった。する勇気がなかった。
あらためて話すしかないと思った、というのもある。
まだ早い。心の準備ができていない。
あんなにも傷だらけになって、歩けもしない状態にまで追い込まれて。
ただただ己の死と、クズどもの死を願う。何の武力もない女が、願うのは至極当然なことで。
逃げられもしないし、目を背けることもできずに。
生きることすらも、傷を治すことも放棄していた。突然現れた男に助けられても、今さらなんだと思ったかもしれない。
助けるならこんなになる前に、もっと早く助けてよ、と思っているかもしれない。
本人に聞いてみなければ分からない、なにも。聞くつもりではいるが、かなり勇気のいることではある。
