冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「その誰かとは、違うに決まってんだろ。あいつはなにひとつ、罪を犯していねぇんだ。なのに、どうでもいいクズらが目をつけて、厄介な呪いをかけちまった。俺は心の癒し方を、知らん」
 不機嫌そうに、ヴォーグが言い放つ。
「そうだね。でも、確実に彼女はよくなってると思うよ? 心の癒し方が分からなくても、誰かがそばにいるって、結構強力なんだよ」
 坂埜は、笑みを見せて言う。
「そういうものかぁ?」
 ヴォーグは、首をかしげることしかできない。
「うん、また彼女も連れてきて。この傷だと当分は、休んでもらわないと」
「……分かったよ。面倒だな」
 低い声で吐き捨てたヴォーグは、身支度を整えて金を払うと診療所を去った。
 
 ヴォーグはフードを目深に被り、両手をポケットに突っ込んで歩いていた。
 なるべく日に当たらないように、と思ったからだ。
 こんな人が多いところで、人間ではないことを自分から明かすなど馬鹿でしかない。
 そうなりたくはなかった、意地でも。
 そんなことを考えて歩いていると、洋館の前に到着。
 
 思考を切り替えたヴォーグは、なにごともなかったかのような顔をして、洋館に入って鍵をかけた。
 自室にいき着替えをすませると、優月の部屋に入ろうと思いドアを叩く。
「……どうぞ」
 その声を聞いてから、ヴォーグが中に入る。
「叩き起こしてしまったか?」
「声だけで、叩き起こしにはならないでしょ」
 眠そうな目をした優月が、つい突っ込みを入れる。
「確かに」
 近くにあった丸椅子に座る、ヴォーグがうなずく。
「それで、依頼はどうなったの?」
 くすくすと笑って、優月が尋ねる。
「もちろん完遂してきた。余計な連中も殺したが」
 低い声で言う彼の横顔には、不愉快そうな表情が浮かんでいる。
「……そっか。どこ怪我したの?」
「右肩、右腕、左肩。手当てはしてもらった」
 ぼそっと言うヴォーグが面白いのか、優月が笑う。
「怒ったりしないから。そんな顔しないでよ」
「いや、泣くかもしれないと思ったんだが?」
「そっち? そんなによく泣くタイプじゃないよ」
 思わず優月は苦笑する。
「確かにそうかもしれないな」
 ヴォーグはつい苦笑する。
「しばらく休まないといけないんだよね?」
「本音を言えば依頼を引き受けたいところだが。それをすると坂埜の怒りを買うのが目に見えている。面倒だしな」
 ――怒りを買うのが面倒、という理由で仕方なく休むって。大事をとって休む、って言わないのねぇ。
 優月はそんなことを思いながら、苦笑する。
「せっかくだから、少し話でもしようと思ったんだが?」
「構わないけれど、なにがせっかくだからなのか、さっぱり分からないんだけど?」
「まあ……それは気にするな」
 困ったように笑って、誤魔化すヴォーグ。
「はいはい。それで、なんの話?」
 仕方ないと思った、優月が尋ねる。