冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 骸を切断し終えると、それぞれ麻袋に放り込んで、血が染み出ないようにする。麻袋は台車に積んでいるので、一見すると運び屋にしか見えない。それが実は骸を運んでいるとは、誰も思うまい。
 証拠隠滅と他人の目を欺くのに特化した彼らは、裏の世界でこう呼ばれている。〝分配人〟と。
 二野はそこの元締めを、務めている。
 片付けと荷造りがすんでから、二野は現場を見て回って、きっちり仕事ができているかを確認。
 二野のよしという言葉が出るまでの間、彼らは気が抜けないのだ。
 じっくりと見て確認し終わると、二野が言う。
「よし。引き上げ準備!」
 男達が荷車を曳きながら、根城へと向かった。二野は根城に向かうまで彼らとともに歩く。まあ、本人曰く「元締めらしさ、なんていらないんだよ」と周囲に言っている。偉ぶるのは性に合わない、ということだろう。
 なるべく早く根城に戻った彼らは、それぞれの骸を集めているマニアを呼び集めて、品評会を開催。
 なるべく多くのマニアを集めて、骸が無駄にならないように買い付けを行う。
 人肉を取り扱っているというだけで、雰囲気は魚の品評会と、さして変わらない。
 決して、表の世界では取引されないような、高価な額がつけられていく。
 ヴォーグから骸を仕入れるようになって、変わった点のひとつが、それでもあるのだ。
 なにもかもがいい方へと、変わっていった。
 同じ暗がりにいる者同士のこの関係は、大事にしなければとも思う、二野なのであった。
 
 そのころ、ヴォーグはというと。
 坂埜の診療所を訪れて、本人からのお小言というか、お説教タイムの真っ最中であった。
「さっさと診せて! っていうか、本当に酷いんだから!」
 着ている服と、指ぬき手袋を外したヴォーグに対し、怒りをあらわにする坂埜。
「悪い」
「怪我してすぐなんでこないの? 言い訳なら聞くよ?」
「言ってはみるが、どうせ聞きやしねぇだろ。まあ、雑魚が多すぎただけだ」
 坂埜が、キッとヴォーグを睨む。
「一言余計なの! 敵なんてほっぽってきてほしいよ」
「無茶を言うな」
 ヴォーグは溜息混じりに、言い返す。
「もー、それで、優月ちゃんはどう?」
 苛立ちをあらわにしながら、坂埜が話を変える。
「きちんと薬も飲んでいるようだし、歩いてもいないようだ」
 ヴォーグの一言に、安堵する坂埜。
「それはなにより。無茶して歩いていないか、心配だったんだ」
「あいつはなんでもかんでも、独りで抱え込みすぎちまった」
「そこはどっかの誰かさんと、同じじゃない?」
 にこりと笑った坂埜に、ヴォーグは難しい顔をする。