冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 ヴォーグが尋ねる。
「そう。……いつの日からかそうなっていて。初めて骸を見たときから、ずっと続いてる。なんでなのか、あたしでも分からなくて」
 優月は困った顔をする。
「そうか。いつからあんな目に遭っていた?」
「小さいころから、ずっと」
 ヴォーグは足を止めて、優月の顔を凝視する。
「そんな昔から……」
「足はいつも傷だらけだった。我慢し続けても酷くなるばっかりで、もういいやって思ってたの。別に、死んでも、よかった」
 低い声で言葉を紡いだ優月は、とても暗く辛そうな目をしていた。
「あんまりだ。自棄になりすぎなんだよ」
 ヴォーグは抱き上げている腕に力を込める。
「え……?」
 優月はきょとんとしている。
「あんなクズには誰の命であろうと、くれてやる気はねぇ。さんざん人を(おとし)めた連中が、なんの罰もなく暮らしている方がおかしい」
 ヴォーグは低い声で、吐き捨てる。
「どうして、あたしなんかを助けたの? 医者に連れていくって言ったって、お金ないよ?」
 優月は疑問を口にする。
「その理由は、治療の後にする。金なら俺が払う。だから、大人しく治療を受けてくれ」
「……ええ?」
 優月はなぜヴォーグがそこまで言うのか、まったく分からなかった。
 
「着いたぞ」
 びっくりした優月は、建物を見上げる。
 看板を見た優月は読み書き能力がないため、首をかしげることしかできなかった。
「なんて読むの?」
坂埜(さかの)診療所だ。腕がいいようでな。……おい! 開けてくれ!」
 ヴォーグが声を張る。
「ったく! 引き戸くらい自分で開けて! って、え?」
 白衣を身に纏った男が、きょとんとした顔をする。
「今回は彼女を診てくれ。足の出血が止まらん」
「色々聞いても?」
「最初っからその気だろ」
 ヴォーグは溜息を吐きながら、吐き捨てる。
「もちろん! ささ、中へ」
 男がにっこりと笑うのを見て、優月は困惑する。
「こんな奴だが、腕は確かだ」
「一言多いんだよ!」
 ふっと笑うヴォーグを見た優月は、とりあえず、身を任せてみることにした。
 ――この二人は少なくとも、あたしが見てきた人達とは違うかもしれない。
 そうであってほしいと願いながら。
 
 ヴォーグは診察室に入ると、ベッドに優月を横たえて、コートを(めく)った。
「っ⁉」
 ヴォーグはあらわになった優月の姿を見て、目を見開く。
 肌が見えているところは、痣がいくつもある。
 柄が分からないほどすり切れた着物を着ていて、何か所も(つくろ)われている。
「ん?」
 優月が小さな声で聞くと、我に返ったヴォーグはなにごともなかったかのような顔をして、診察室を出た。