冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 さまざまな想いを抱えながらも、決して彼らにはなにも言わなかった。
 それだけが優月のできる、最後の抵抗だったからだ。
 黙っていさえすれば、いずれ、いずれ、自分を殴ることに飽きてくるはず。
 
 けれど、そんな〝飽き〟はいっこうにこず、二十歳になった。
 成長した分だけ、痛みの質は上がる。
 殴られたことによる傷や痣などはもう、日常茶飯事だった。
 こんなクズどもに、殴られ続ける日々は、一体いつ終わるのか? そんなことをずっと思いながら。
 人の命を奪っておきながら、人を傷つけておきながら、己の手を穢していくクズども。
 真っ当な人間じゃないことは、分かっていた。おそらく、自分もそうなんだろうと思っていた。
 普通に生きたいと思っても、それが赦されず。ただただ奪われるだけの、日々の終わりを、ずっと、ずっと願っていた。

 * * *

「と、いうわけ」
 暗い表情で言う優月。
「俺が殺して正解だったな」
 ヴォーグは、口端を吊り上げて嗤う。
「そう言いながら嗤う時の顔、結構怖いの、分かってる?」
 つい優月が吹き出す。
「まあ、自覚はあるかな」
「本当に?」
 くすくすと笑いながら、優月が尋ねる。
「まあ、それ以上聞くな。なんだか面倒な予感しか、しねぇから」
 苦笑して、その話をヴォーグが躱す。
「それは、そうかもしれないわね」
 相変わらずのくすくす笑いに、ヴォーグは困ったような顔をする。
「お前はたった独りで、耐えるしかなかったんだろうが。あまりに、過酷だったはずだ。そんな状況になっちまえば、誰だって死を望んじまう」
「なに言ってるの? あたしだって死を願ってたわよ? 自分かクズどものね」
「なんでそこに自分が含まれてんだよ」
 ヴォーグは思わず、優月の頭をぽんと叩く。
「ん?」
 優月はポカーンとした顔で、見つめてくる。
「クズどもの死を願うのは当然としても、だ。自分の死なんて、願っちゃいけねぇよ。散々傷つけられてきた。心も身体も限界なのに。その悲鳴は決して、あいつらには届かなかった。人の痛みに、罪の重さに気づけない阿呆なんてな、死をくれてやるしか、薬になるもんはねぇよ」
 ヴォーグは真面目な顔をしつつ、冷ややかな声で吐き捨てる。
「暴力に対してなにか、切り札と呼べるものは、一切ないの。逃げることも、できなかったし。結局捕まって、殴られ続けた」
 遠い目をして優月が呟く。
「話してくれたことには、礼を言う。お前の出来事がようやく〝過去〟に変わった。だからといって、傷つけられたのを一切忘れろ、というわけではない。あっさりと忘れられるものではない、と重々承知の上だ。少しずつでいい。これからのことに目を向けていけると、いいな」
 ヴォーグは、優しく微笑む。
「そう、だね」
 泣きそうになりながら、優月はうなずいた。