冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 * * *

「あなたが進言したの⁉」
 話を聞いた優月が驚く。
「そうだ。少しでもこの国を変えたくてな」
 あっさりと、認めるヴォーグ。
「そんなに長く生きてるなんて、思わなかったわ」
 優月がぽつりと口にした。
「それについては、また今度な。……今も昔もこの国は、闇で溢れ返っている」
「開国派と鎖国派で、争ってるんだもの。そりゃそうなるでしょ」
 苦笑交じりに優月が言う。
「触れが出て、掟が人々に浸透したにもかかわらず。初めてこの地にきたときと、なにひとつ、変わっていない。触れのひとつで、この国が変わるなんて、思っていないがな」
 溜息混じりに、ヴォーグが言う。
「でもよく、その時の将軍が許したわよね」
「脅してやらせただけだよ」
 くつくつと、ヴォーグが嗤う。
「なーんだ。でもそっちの方が、あなたらしいかもね」
 苦笑しながら優月が言う。
「褒め言葉をどうも」
「ずっと、気になっていたのだけれど」
 優月が首をかしげる。
「なにを?」
 ヴォーグが聞き返す。
「なんであなたは、鎖国派と開国派のどちらかに(くみ)しないの?」
「それはな……」
 低い声でヴォーグが、語り出した。

 * * *
 
 ヴォーグが陽の国にきてからしばらく経った時。
 暗殺稼業をしているさ中に、どちらの派に与しないか? と打診があった。
 その申し出をどう返答するか悩みつつ、この国の情勢について徹底的に調べ上げた。
 それで分かったことは〝どちらかに与せば、乱世を終わらせられる。乱世を終わらせるためだけに、どちらかに与するのは、面倒だ。どうせ俺ができるのは殺しだけなのだから〟という結論だった。俺がどう身を振ろうと、この情勢をひっくり返すほどの力はないと、本気で信じていたのだ。
 のちにそれは、ただの夢というか幻にすぎなかったのだと、気づかされることになる。
 
 依頼をこなした帰り道、身なりのいい武士に呼び出され、連れてこられたのは時の将軍の御前。
 わけが分からないという顔をしているのに、時の将軍が口を開く。
「鎖国派に与せよ」
「理由もなく命じられてもな。断らせてもらう」
 ヴォーグは、臆さず即答する。
「将軍直々の(めい)である! 考えをあらためよ!」
 老中らしき男が声を張り上げる。
 ヴォーグはただ、殺気に染まった目で睨みつける。
「っ!」
 老中は顔を青くして黙った。
「開国派を抑え込むため、そなたの力を借りたいのだ」
「おいおい。この国の出身でもない俺に力を貸せと? 血迷っているようにしか見えないが?」
 ヴォーグは嘲笑う。
「そなたの力は、我らの切り札ともなりえるほどの、強い力なのだ! どうか、この国のために、力添えできぬか?」
「俺のことをどこまで、調べたのかは知らないが。それほどの強い力を俺が持っているとしたら、なおさらどちらにも与さない。誰に言われようとも、これだけは曲げられねぇ」
 低い声でヴォーグが言ってのけると、とある沙汰が下された。
 ヴォーグはその沙汰を聞き、頭を下げて御前を後にした。