洋館に戻った二人は、しばし休憩を取った。
それから二時間後、ヴォーグは優月の部屋を訪れる。
「どうしたの?」
優月が気配に気づいて声をかけてくる。
「少し、話がしたい」
「なんの?」
低い声で紡がれるヴォーグの言葉を聞きながら、優月は首をかしげる。
「この国にある二つの掟、なんだか分かるか?」
「えーと〝代償を差し出す者は悪ではない〟それと〝咎人を憎んではいけない〟よね?」
顎に人差し指をあてて、考え込みながら優月が言う。
小さな丸椅子に座ったヴォーグはその仕草にドキッとしつつ、スルーを決め込む。
「そうだ。その掟ができた理由を、まず話そうと思ってな」
* * *
ヴォーグが初めて陽の国を訪れたのは、今から四十年ほど前。
ちょうど、他国の武装船が停泊し、陽の国に対して、開港を迫っていた。
その船に乗っていたのが、ヴォーグである。
船の圧倒的な強さに呑まれた時の将軍は、開港と停泊を認めた。
のちに、開港と停泊が認められた地は、異国人がひしめく街となる。
しばらく、陽の国のあちこちを歩き回り、この国の悲惨さ、悲しい差別などを知ったヴォーグ。
すぐさま時の将軍の許に引き返し、進言をする。
「この国にふたつの掟を作りたく思います」
「掟?」
時の将軍が首をかしげる。
「はっ、咎人も弱者も増える一方。私はこの国を、この目で見て、思ったのです」
「なにを思ったというんじゃ?」
「この国には、なんの犠牲もなく、咎を犯し続けている人間が多い。そして、弱者を救う者が誰もいない」
思ったことをそのまま、口にするヴォーグ。
「どういうことじゃ?」
「咎の重さの再認識と、弱者を救うために、私が動きます」
「動くとは?」
「いずれお分かりになるかと。掟の件をまず先に」
頭を下げてヴォーグが言う。
「どのような掟にせよと申すのじゃ?」
「〝代償を差し出す者は悪ではない〟もうひとつは〝咎人を憎んではいけない〟」
「何故じゃ?」
訝しげな顔をする時の将軍。
「なんの代償も差し出さずに、咎を犯している者は、見つけ次第殺めます。もうひとつの理由は、弱者の心の救済も兼ねています」
「……救済?」
「人間という生き物は、憎悪に染まり切ってしまうと周りが見えなくなり、咎を犯すまで誰の話も聞きません。それを抑えるために、まずは憎むことをやめさせようというわけです。……気休めなのは承知の上です」
ヴォーグは、きっぱりとした口調で告げた。
「して、わしはなにをせよと?」
「掟として浸透するように、触れを出していただきたいのです。十年もすれば、誰もが知る掟となりましょう」
「では、そのように手配しよう」
「感謝いたします」
頭を下げたヴォーグは、将軍の座する場から立ち去った。
それから二時間後、ヴォーグは優月の部屋を訪れる。
「どうしたの?」
優月が気配に気づいて声をかけてくる。
「少し、話がしたい」
「なんの?」
低い声で紡がれるヴォーグの言葉を聞きながら、優月は首をかしげる。
「この国にある二つの掟、なんだか分かるか?」
「えーと〝代償を差し出す者は悪ではない〟それと〝咎人を憎んではいけない〟よね?」
顎に人差し指をあてて、考え込みながら優月が言う。
小さな丸椅子に座ったヴォーグはその仕草にドキッとしつつ、スルーを決め込む。
「そうだ。その掟ができた理由を、まず話そうと思ってな」
* * *
ヴォーグが初めて陽の国を訪れたのは、今から四十年ほど前。
ちょうど、他国の武装船が停泊し、陽の国に対して、開港を迫っていた。
その船に乗っていたのが、ヴォーグである。
船の圧倒的な強さに呑まれた時の将軍は、開港と停泊を認めた。
のちに、開港と停泊が認められた地は、異国人がひしめく街となる。
しばらく、陽の国のあちこちを歩き回り、この国の悲惨さ、悲しい差別などを知ったヴォーグ。
すぐさま時の将軍の許に引き返し、進言をする。
「この国にふたつの掟を作りたく思います」
「掟?」
時の将軍が首をかしげる。
「はっ、咎人も弱者も増える一方。私はこの国を、この目で見て、思ったのです」
「なにを思ったというんじゃ?」
「この国には、なんの犠牲もなく、咎を犯し続けている人間が多い。そして、弱者を救う者が誰もいない」
思ったことをそのまま、口にするヴォーグ。
「どういうことじゃ?」
「咎の重さの再認識と、弱者を救うために、私が動きます」
「動くとは?」
「いずれお分かりになるかと。掟の件をまず先に」
頭を下げてヴォーグが言う。
「どのような掟にせよと申すのじゃ?」
「〝代償を差し出す者は悪ではない〟もうひとつは〝咎人を憎んではいけない〟」
「何故じゃ?」
訝しげな顔をする時の将軍。
「なんの代償も差し出さずに、咎を犯している者は、見つけ次第殺めます。もうひとつの理由は、弱者の心の救済も兼ねています」
「……救済?」
「人間という生き物は、憎悪に染まり切ってしまうと周りが見えなくなり、咎を犯すまで誰の話も聞きません。それを抑えるために、まずは憎むことをやめさせようというわけです。……気休めなのは承知の上です」
ヴォーグは、きっぱりとした口調で告げた。
「して、わしはなにをせよと?」
「掟として浸透するように、触れを出していただきたいのです。十年もすれば、誰もが知る掟となりましょう」
「では、そのように手配しよう」
「感謝いたします」
頭を下げたヴォーグは、将軍の座する場から立ち去った。
