冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「しょうがないでしょ? 大怪我してくるんだから! あ、それと、せっかく手当てしたんだから、血塗れのコート着ちゃだめだよ!」
「ちっ」
 不満げな顔をしたヴォーグは着ようとしていた、コートを腕に引っかけた。
「三日後においで」
「おう」
 ヴォーグは金を払い、片手を上げた。
 優月を抱き上げて、その場を後にした。

 ヴォーグは優月にちょうど服が尽きていたから、ノッカスに寄ろうと告げた。うなずいた優月を抱え、ノッカスのガラス戸を三回叩いた。
「ホーエンツォルの旦那に、優月ちゃん! って、二人とも、その恰好どうしたの?」
「驚かれるとは思っていたさ。野々宮はいるか?」
「そんなところで、くっちゃべってないで、おいで」
 奥から野々宮の声がした。
「では、遠慮なく」
 奥に入っていくと、椅子に座った野々宮がいた。
「旦那はともかく、お嬢ちゃん、なにがあったのさ?」
「よく分かりもしねぇ奴に、攫われて殴られたんだよ」
 ぶっきらぼうにヴォーグが話す。
「それは大変だったね。ぼろぼろの理由が分かったよ。まずはお嬢ちゃんから。旦那はその後でいい?」
「ああ、構わねぇよ」
 ヴォーグは言いながら優月を丸椅子に座らせると、店の中へと戻る。

 なんだかんだと騒ぐ女達にヴォーグが言い放つ。
「俺なんかに構うんじゃねぇ。仕事しろ」
 くすくすと笑いながら女達は仕事に戻る。
 
「旦那も、素直じゃないねぇ」
 ニコッと野々宮が笑う。
「え?」
 優月はなんのことだろうと思い、首をかしげる。
「ここの女達は皆、男に傷つけられた者達だ。旦那はね、彼女らの〝痛み〟に寄り添おうと手を尽くした。彼女らに敵ではないことを、示し続けた。中には、殺しの依頼をした者だっている。でも、旦那は誰一人として、軽蔑しないし、色眼鏡で物事を見なかった」
「……〝痛み〟に寄り添う……?」
 優月は、首をかしげることしかできない。
「ただ、旦那のことが、心配なんだよ。毎回毎回、服は斬られたり、血なんかでまともに使えやしない。それはいい。でも、旦那の〝痛み〟には、誰が寄り添うって言うんだい? たった独りで抱えるには、はっきりと言うけれど、重すぎるものじゃないかね。人の命を奪っているんだ。冷静でいる、旦那が怖いよ」
 野々宮は、低い声で言う。
「冷静でいるヴォーグが怖い……。それはあたしも思ってた。でも、それを言ったら、困らせてしまうかもしれないと思って、ずっと言えなかった……」
 優月が唇を噛む。
「こんな言い方しかできないのが、腹立たしいけれど。お嬢ちゃんと旦那は、出会わなくてはならなかった、と思うよ」
「え……?」
 優月は聞き返す。
「お嬢ちゃんは、心が強いから」
 ふふふと野々宮が笑う。
 きょとんとすることしかできない、優月であった。
 話している間に、着付けがすんだのか、野々宮が声を張った。