冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「これ以上、こいつに苦痛を与え、せっかく芽生えてきた気持ちを、踏みにじられるわけにはいかねぇんだよ! 人の痛みが分からないんだろう? 結局は自分の願望を叶えるためだけに、捨て駒として使うだけだろ? そんなクズ、生かしてはおけねぇなぁ!」
 ヴォーグはよほど頭にきていたのか、怒気を纏って言い放つ。
「ひっ⁉」
「貴様には〝痛み〟を味わわせてやるよ。そうすれば嫌でも、分かるだろ」
 口端を吊り上げて嗤い、ヴォーグは金座の醜い身体に、弾丸を撃ち込んでいく。
「いいい、痛い痛い痛い!」
 ――やはり読み通りか。こういうタイプは〝痛み〟に、耐性がほぼない。
 たかが弾丸一発で、子どものように痛みを訴えるその姿は、醜いしなにより見ているこちらが不愉快だ。
「気が変わった。さっさと黙れ」
 ヴォーグは立て続けに、引き金を引いた。
 喉と頭、心臓を撃たれ、散り際の言葉さえ、(ゆる)さなかった。
 
「これで全滅、か」
 ヴォーグはその場を優月とともに後にする。
 不快な匂いが立ち込める中、武家屋敷の外へ出る。
 優月の視界を遮っていたコートを外し、返り血に塗れても構わず羽織る。
「終わったの……?」
 眩しい陽の光に目を細めながら、優月が(まばた)きをする。
「ああ。怖かったよな?」
「まあね。でも助けにきてくれると、思ってなかった」
 殴られた傷痕だらけの優月が、少し驚いた顔をする。
「助けないという選択肢は、最初からない。とにかく、手当てをしなければ」
「それはあなたの方でしょう?」
「お互いにな」
 ヴォーグは言いながら、優月を抱きかかえる。
 車椅子を破壊して、使えないようにする。
 どうせここには誰もこないが、念を入れておくことに、越したことはない。
 壊滅させた武家屋敷に背を向けて、二人はその場を後にした。
 
「開けてくれ」
「自分で開けなって! え? さっさと入って⁉」
 不満そうな坂埜だったが、優月の怪我を見て血相を変える。
「分かったよ」
 ヴォーグは苦笑しつつ診察室に入ると、ベッドに優月を下ろす。
「先に優月を。俺はその後でいい」
「了解」
 短い会話を終わらせたヴォーグは、前の部屋へ移動した。
 
「こんなに殴られて……。なにがあったの?」
 見れば優月の腕には、拘束具によってできた両手首の内出血など。殴られた痕だらけだった。
「よく知りもしない人に、攫われてしまって。内出血は抵抗したときにできました。意識を失うまで殴られて。醜い人に〝面倒を見てやる〟なんて言われて、勝手に攫っておいてなに言ってんの? って思ったんです」
 ぽつぽつと優月が話していく。
「自分勝手すぎるね。血が出ているところはなさそうだけど、治るまでにしばらくかかる。できるだけ、あちこちにぶつけないように。せっかくの着物がボロボロだ」
「……うん」
 優月はただうなずくことしか、できなかった。