冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 突き当たりの部屋に足を踏み入れると、洋装の男が待ち構えていた。
「ここまでくるとは、思っていませんでした。奪還して帰るものだ、と思っていたので」
「そうしたいのはやまやまだが、せっかくきたんだ。崩壊する(さま)を見たくなってな」
 ヴォーグは優月を部屋の端まで連れていき、その場に置いて男の前まで戻る。
「あの、一応。そこの女性を置いて、帰ってくれませんか?」
「はっ、断る」
 ヴォーグは鼻で嗤いながら、左手にリヴォルバーを構える。
「やはりダメですか。仕方ありませんね」
 男は袖の中に隠していた、ふたつの苦無を構えた。
「俺は全員を殺すまで、居座るぞ?」
「それは困ります」
 言うやいなや、苦無で斬りかかる男。
「貴様らは俺の怒りを買っている。それが分からないとは、言わねぇよなぁ?」
 腹をざっくりと斬られても、ヴォーグは冷然と嗤う。
「喧嘩を売ったかもしれませんが、そこまで怒るようなことですか? 彼女は人以下なのですよ!」
「人以下か。それは貴様らの方だろう? 人の最も嫌がることをして平気な顔をしていられるんだからな!」
 ヴォーグは怒気を(まと)って、言い放つ。
「なんですって?」
「〝痛み〟に気づかない人間ほど、愚かな奴はいない」
 男の怒りを買ったのに気づいたヴォーグは、さらに言う。
「あなたとは、意見が違うようですね。人以下である彼女らの面倒を見る、と言っているのです。これが救いでなくて、なんだと?」
「まったく、どこまで上から目線なんだよ。面倒を見ると言っておきながら、絶望の淵に叩き落としているのに、〝救っている〟と? 貴様らの神経を疑う」
 鼻で嗤ったヴォーグは、顔をしかめて吐き捨てる。
 話しても無駄だと思ったのか、男は苦無を握って斬りかかってくる。
 突きを右腕で、受け止める。お返しと言わんばかりに、左手に構えたリヴォルバーの引き金を引く。
 足に命中し、そこから鮮血が零れる。
 痛みに顔をしかめた男は、刺さった苦無から手を離し、距離を取る。
 ヴォーグはいったん左手に構えていたリヴォルバーをホルスターに仕舞い、右腕に刺さった苦無を抜く。
 男の足許に放り投げ、鮮血が滴る右腕を、冷ややかな目で一瞥。
 傷ついてボロボロの両腕なのに、痛みに怯むことがないし、庇う様子も見られない。
 そんな姿を目にして、男は戦慄する。
 ――怖いですね、まるで痛みと己を切り離しているような気がします。
 震えつつも苦無を握った。
 それを読み取ったヴォーグが、さらに嗤う。
「俺が怖いのか。まあ、そう思われても仕方ねぇな」
「相手が誰であろうと! (めい)(まっと)うするのみ!」
 男は叫ぶと、苦無による二連続の斬撃を繰り出してきた。
 一撃ずつ両腕で受け止めたヴォーグは、右手に構えたリヴォルバーの引き金を二回引いた。