冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 時を少し(さかのぼ)る。
 優月は椅子に乗せられたまま、牢に入れられた。
 牢の中には二人の男達が待っていた。
 見るからにごつい身体つきをしている。
 戸が閉まるやいなや、大きな拳で左肩を殴られる。
「っ!」
 痛みに顔をしかめる優月だったが、それが面白いと感じ取った男達は、顔以外を容赦なく殴り続けた。
 息も吸えないほどの間隔で殴られ続け、優月はまるでヴォーグに助けられる前に逆戻りしたように思っていた。
 数多くの痛みを感じながら、優月は次第に、意識を手離してしまった。
 
 現在。
 優月を発見したヴォーグは、様子を探ろうとするが、男達が邪魔で一切見えなかった。
 牢の中ではひたすらに、殴る鈍い音が聞こえてくる。
 ここには看守はおらず、木でできた牢を睨みつける。ヴォーグは少しでも気を逸らせるために、まずはリヴォルバーで円を描くようにいくつか撃ち込む。
 姿をあらわしても一切気にしない彼らを睨みながら、円を描いて撃ち込んだところの亀裂が広がるように、何度か殴る。
 ――バキッ!
 大きな音を立てて木の牢が破壊され、使い物にならないそれを、壁に叩きつけた。
 男達が振り返る。
 その際に、気を失っていると思われる優月を目にする。ヴォーグは頭の中でなにかが、ぷつんっと切れた音を聞く。
 口を開こうとしたヴォーグだったが、片方の男がなにかを構えて、優月に向かって振り下ろす。
「これ以上、黙って見ているわけにはいかん」
 優月の前に立ちはだかったヴォーグは右腕にその攻撃を受ける。怒気を纏った低い声で言い放つ。
 男が振り下ろしたのは短剣であった。
 ヴォーグが楯になっていなければ、優月の腕を刺し貫いていたことだろう。
「邪魔をするんじゃない。そいつになにをしてもいいって言われてんだ。人以下の奴を守るだなんて、お前の方がおかしい!」
「……ああ?」
 声高に言い放った男を、刺すような視線で睨みつけ、声のトーンが一段下がる。
「ひっ!」
 男達が青い顔をする。
「命じた奴は、どこにいる?」
「ここから出て、屋敷の最奥!」
 一人が素直に居場所を吐いた。
「貴重な情報、どうも。だが」
 そこで言葉を切ったヴォーグは、リヴォルバーを構えて、引き金を引く。
 頭を撃ち抜かれた男は、その場に倒れる。
「おらああああっ!」
 さらに血の気のない顔をした男は、隠し持っていた短剣を構えて突っ込んでくる。
「……はあ」
 ヴォーグが呆れたように溜息を吐く。
 目の前に構えた左腕で短剣を受け、蹴りを繰り出す。
 すんでのところで躱した男の額に、弾丸が埋め込まれる。
「あれ……?」
 男は不思議そうな顔のまま、絶命した。