冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 屋敷を出て、二時間が過ぎた。
 馬車を追い駆け、武家屋敷が見えてきた時には、目を疑った。
 しかし、その中に吸い込まれるように馬車が入っていく。
 まるで、客人としてもてなそうとでもいうのか、追い駆けてきたことには気づかれていたようだった。
 とりあえず、堂々と中に入る。
 案内は必要ないとだけ告げ、独りで屋敷内を散策し始めた。
 
 優月はよく分からない機械に座らされ、両手をそれに固定された。そのままとある人物の許に案内された。
「戻ったか、酒寄(さかよ)
 そこには一人の和装の男がいた。
 でっぷりと太っていて、かなり見苦しい。思わず不快そうに顔を歪めてしまった。
「はは、金座(きんざ)様」
 洋装の男は、見苦しい男に向かって頭を下げる。
「して……。そこのが、人以下の?」
 明らかな蔑みを感じ取った優月は、悔しそうに睨むことしかできない。
「しかし、このような者、どうするおつもりなのですか?」
「決まっておろう。わしの監視下に置いて、身も心も破滅させるのだよ」
 とてつもなく嫌な笑みを浮かべて、言い放つこの男。
 さらなる地獄を味わわせようとしていると分かった優月は、その場で暴れ出すも、両腕の拘束が外れることはない。
「抵抗など許されぬ。牢にぶち込んで〝躾〟をせい!」
 その言葉は優月にとって地獄を告げる声だった。
 
 そのころ、ヴォーグはあちこちを駆けずり回っていた。
 一人一人の声に耳をかたむけ、なにか優月に繋がるヒントがないか血眼になっていた。
 この屋敷には牢がふたつあるらしいと、ここから近いことを知り、まずはひとつ目の牢へと向かった。
 
 物陰に潜み、看守に銃口を突きつける。
「質問に答えろ」
「ひっ!」
 看守が青い顔をする。
「勿忘草色の着物を着た女は、どこにいる?」
「看守なんかに、聞いたって無駄よ?」
 牢の奥から声が聞こえてくる。
 視線を投げると、女がいた。
「何故だ?」
「そいつらは雑兵だから。情報なんて持ってないよ。むしろ、ここにいる私の方が役に立つ。ここから逃げる気はないけど」
 女は怯えた様子が、一切ない。
「それは、話を聞いてからだ」
「勿忘草色の女なら、多分ここから左に行った突き当たり。牢に連れてかれたと思うよ。少し前に、この近くを通っていったから。牢だからか静かだし音がよく聞こえるの。とくに、車椅子を押す音がさ。足でも怪我してるのなら、だけど。なにやら物騒な話もしていたから、急いだ方がいいよ」
「か……」
「いいから急いで行って! 助けたいんならなおさら!」
 女の言葉にうなずいたヴォーグは、言われた方へと駆け出した。