冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「どうしたの? 明かりまで点けてさ」
「俺の中では賭けに近い」
 そう告げるヴォーグは、珍しく歯切れが悪い。
「賭け? 言ってみてよ? じゃないと分からないままになる。それは嫌よ?」
 優月はその言葉に、首をかしげることしかできない。
「……分かった。説明は後にさせてもらう」
 その言葉に後押しされたようで、ヴォーグはコートとワイシャツを脱ぎ始める。よく見れば銃器がひとつもない。
 慌てて見ないようにしようと思ったが、その手をヴォーグの大きな手で押さえられてしまう。
「え? え?」
 混乱する優月から、視線を外したヴォーグが告げる。
「ちゃんと見るんだ。……俺の身体には、殺意をもって刻まれた〝傷〟が存在する。お前はどう思うんだ?」
 あらわれたのは、傷に塗れた上半身。
 すべて刃物による、傷なのだろう。傷が治っていても、消えることはない。腕にも(おびただ)しい傷痕が刻まれている。
 とても引き締まった身体つきをしていて、肌が白い。
 その中でもなにかが貼られている部分があり、最近の怪我かもしれないと思った。
「……痛いよね?」
 優月は視界が歪み、頬を伝う涙に戸惑いながら、それしか口にできない。
 殴られ続けた、経験しかない。けれど、ヴォーグの身体に刻まれたモノは、二度と消えないし、幾度となく生死の淵を、彷徨(さまよ)った証にも見える。辛さの次元が、違う。殴られて、心を折られたなんて、殺意を持った傷に比べたら、まだ可愛いものかもしれない。
「痛みか。これだけの傷を受けたんだ。自分を(いた)わろう、って気がないのさ。傷が増えたと思うだけだ」
 心底どうでもいいと言いたげに、ヴォーグが言い放つ。
 その素振りに、優月は絶句する。
「辛く、ないの?」
「そんな感情、とっくの昔に斬り捨てた。なにも感じねぇよ」
 さらに優月の目に、涙が浮かぶ。
「あなたは……! 自分の手で、心を殺したの……?」
 泣きながら優月は、残酷な言葉を口にする。
「そうだよ?」
 ヴォーグは、不思議そうな顔をして言う。
 ――辛いときに辛い、と言えなかった。それだけじゃない。あまりの衝撃と絶望に苛まれて、感覚を麻痺させねば、生きることも満足にできなかった? 現に、ヴォーグはなにも感じていない。生きる上で命の次くらいに大事なモノを破壊。自分のこととして考えない。どうして、どうしてそこまで。
 優月はそんなことを思いながら、泣きながら言葉を発す。
「なんで? 大事なモノを斬り捨てたって、いいことなんてないじゃない!」
「大事なモノの存在自体が、当時の俺にとっては邪魔だった。だから、闇に喰わせてやったのさ。心と身体を、な」
 ヴォーグが強がりにも見える、笑みを浮かべる。
「あなたはどうして、とても辛い選択を続けるの? 誰だって、辛い状態は嫌なんじゃないの?」
「俺にとってそんなことは〝日常〟なんだよ。その度合いが変わったくらいなんでもねぇよ。さっきから気になっていたのだが」
 吐き捨てつつ、ヴォーグが尋ねる。