冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 そう。正体を明かしただけで軽蔑され、死の恐怖を与えてくる、ろくでなしどもとは違うのだ。
 暗い目をしているヴォーグを現実に引き戻そうと、坂埜は彼の頬をつつく。
「おーい、戻ってきてー」
「……びっくりした」
 という割には冷静なヴォーグに、坂埜は不満げな顔をする。
「リアクションが薄すぎー!」
「悪かったな」
 にべもなく言い返すと、坂埜がさらに顔を歪める。
「まあ、どうするかは、自分で決めて?」
「言われなくても、そのつもりだ」
 ヴォーグは手早くワイシャツとコートを着て、立ち上がる。
 
 前の部屋へと顔を出して、ヴォーグは優月を連れてくる。
 その間に前の部屋に置いてあった丸椅子を、坂埜が移動させる。
 再度同じ椅子に座らせて、ヴォーグは診察室を出る。
 
「どうかな?」
「まだ、痛みが続いていて。そのせいかちゃんと、寝れないんです」
 優しい坂埜の笑顔に戸惑いながら、優月はぽつぽつと話していく。
「それは困ったね……。痛みが引くまでには、かなり時がかかりそうなんだよねぇ……」
 坂埜は言いながら、両足の晒し木綿と、油紙を外す。
「っ……。まだ痛いです……」
 足の裏の状態を確認し、坂埜の表情が曇る。
「だよねぇ……。歩かないことは継続で。完全に痛みがなくなるように、ならないとね」
「は、い」
「どうしたの? 元気ないようだけど?」
 見抜かれたかと、優月は内心で悔しがる。
「昔のことが脳裏に焼きついて、離れないんです。眠ろうとすると、それが思い出されてしまって」
「うーん。過去に苦しめられてる、ってことかなぁ?」
「そうですね」
 首をかしげる坂埜に、優月はうなずく。
「できることとすれば……。昔のことを追体験すると苦しいから、それは却下。ただ、眠れるようにと、願うだけでも違うかもしれないね。それか、眠くなるまで、ヴォーグと話していれば? 聞いてみるねー!」
 坂埜は言うと、前の部屋へ駆け出していってしまった。
「あ……」
 完全に言いそびれた。しかも、思った以上に素早いので、制止することなどできなかった。困った表情のまま、優月は待つことに。
「戻ったよー」
「どう、でしたか?」
 優月は不安そうに尋ねることしかできない自分を、歯痒く思う。
「いいってさー。即答だったよ」
 にっこりと満面の笑みで言い返され、優月は驚いた顔をする。
「ええええ?」
「それで、気が紛れるのなら安いものだってさ。あのね、君はね、一人で頑張りすぎちゃったの。身体も心もボロボロなんだ。壊すのは簡単で、一瞬だけどさ。治すには途轍(とてつ)もない時がかかる。君は生きるために、人らしさを捨てるしかなかったんでしょう?」
「はい」