冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「なるほど。彼女には、休んでもらわないと困るんだ」
 坂埜がうなずく。
「それには同意する。じゃあ、明日の夜な」
 そこまで言ったヴォーグは身支度を整えて、診療所を出た。
 
 帰宅するとヴォーグは優月の様子を見てから、自室へと向かう。
 先ほどの優月の、様子を思い出す。
 悪夢に(うな)されているような気がした。静かに泣いているその姿を目にしたためか、彼女の地獄は未だに終わっていないのだ、と痛感する。
 助けただけでは、ダメだったようだ。
 少し考えが、甘かったかもしれない。
 そんなことを思いながら、ヴォーグは溜息を吐くことしかできなかった。
 
 翌日の夜、優月を横抱きにして、一緒に診療所へと向かう。
 その道中、ヴォーグが問う。
「俺が夜中に、顔を出したことには気づいたか?」
「そうなの? 気づかなかったよ」
 優月が驚いた顔をする。
「それでいい。悪夢でも見ていたのか?」
「まあ、いつものことだから」
 優月は悲しそうに、目を伏せる。
「慣れる必要はない」
 ヴォーグが断言する。
「え?」
 優月は思わず、聞き返す。
「俺はできないことだが。自分の思うように、生きていいと、思う。普通の人らしく。己の感情に、素直になっていいんだよ。誰も、それを抑えろとは言っていない。……頼むから、俺のようにはなるな」
 最後の一言は懇願にも聞こえ、優月は首をかしげることしかできなかった。
 
 話している間に診療所に辿り着いた。
「入るぞー」
 坂埜の声を待ってから、中に入る二人。
 前の部屋にある丸椅子に座るよう言われ、優月はきょとんとする。
「昨日の依頼で、掠り傷を喰らってな。なに、心配するな」
 ヴォーグはそこまで言って、逃げるように診察室へと入った。
 
「どう接すればいいか、分からないみたいだねぇ」
 くすくすと笑う坂埜を、つい睨むヴォーグ。
「分からないに、決まっているだろ。そもそも俺は、人らしさなんか分からん」
 ぶすっとして言い放つと、坂埜が笑みを深くする。
「まあ、それは無理もない話ではあるねぇ。君のことを、嫌ったりしたかい?」
「不思議なことに、それはないようでな。ちょっと今まで見てきた連中とは違うかもしれん」
 手当てを受けながら、ヴォーグが難しい顔をする。
「痛みが分かるって、人にとってはもの凄く大事だと、私は思うよ。……はい、終わり。一応油紙も、つけておいたから」
 ヴォーグは言われて、己の身体を見下ろす。
 以前の依頼での傷には、油紙がきっちりとつけられている。晒し木綿は今回、必要ないとの坂埜の判断だ。
 何度も思う。とても醜い身体だと。こんな身体でいるが故か、坂埜以外の目に、触れぬように気を遣っている。
 おいそれと、見せていいものではない。けれど、あの娘はどんな反応を示すのか、知りたい。賭けにはなるが、損にならぬことを願うしかない。あの娘は今まで見てきた人とは、どこかが違う気がする。