冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 ――バシュッ!
「ああああ⁉」
 右手に走る激しい痛みと、なにをされたのかさっぱり分からず、坂本は混乱状態にあった。
 ――なんで、血が出ているんだ⁉ あいつは一体、なにをした⁉
 わけが分からず、坂本は刀を捨てて逃げ出す。
「馬鹿なことを」
 そんな呆れたヴォーグの呟きなど、坂本には聞こえていなかった。
「た、助けてくれええええ!」
 次の瞬間、坂本の声が途切れる。
 ヴォーグが喉に、弾丸を撃ち込んだためだ。
 それでも激しい痛みに顔を歪めて、逃げ惑う坂本。
 その哀れすぎる姿を見ながら、ヴォーグは口端を吊り上げて嘲笑う。
「まったく。人間って生き物はどうしてこう。業が深いんだろうなぁ」
 追いかけっこに飽きたヴォーグは、坂本との距離を詰め、零距離から心臓を打ち抜いた。
 二度と動かなくなったことを確認し、ふっと息を吐き出す。
「まだ町外れでよかったってことか」
 ヴォーグは呟くと、その場を後にした。
 
 その足でヴォーグが向かったのは、坂埜の診療所だった。
「いるか?」
「なんで毎回それを聞くのさ? いるのは、分かってるでしょう?」
 坂埜が面倒くさそうな、顔をして出てくる。
「聞くぐらいいいだろ。自分の家じゃねぇんだから、ズカズカ入るわけにもいかねぇよ」
 ヴォーグは、苦笑交じりに言う。
「それもそうだけどね。ああ、また酷い怪我を……。さっさと入って」
 坂埜は顔を歪めつつ、奥へと引っ込んだ。
 ヴォーグは靴を脱いで、いつもの部屋へ向かった。
「邪魔をする」
「そんなこといいから、さっさと入って!」
 怒りを滲ませる坂埜に、ヴォーグは苦笑しつつ。部屋に入って胡座をかき、コートとワイシャツを脱ぐ。
 あらわれたのは、白い肌に刀傷に塗れ引き締まった上半身。
 今回は胸から斜めに、刀傷が刻まれている。
「思うけどさ、傷は残るんだよ? いくら無傷の勝利が嫌だからって、深手を毎回負うんじゃないの!」
 坂埜が𠮟りつける。
「これが、深手なのか? 俺からすれば、掠り傷にしか見えんが」
「あー……。深手なのに、そう思えないんだねぇ」
 坂埜はお手上げというように、苦笑することしかできない。
「そういうことだ。治療にきているだけ、よしとしてほしいんだが」
 ヴォーグは、溜息混じりに言う。
「あーもう。分かったよー! 怪我したらちゃんときてね?」
 面倒くさくなった坂埜が、凄みのある笑みを浮かべる。
「おう」
 その間に手当てがすみ、ヴォーグは晒し木綿がぐるぐると巻かれた上半身を一瞥し、苦笑。
「明日にでもきて。大丈夫、別々に診るから。あの子はどう?」
「分かった。歩かずにじっとしている。少なくとも、自分から無理をしてでも歩くってことは、やめているようだ。きつく俺が制しているのも、あるかもしれないが」
 低い声で、ヴォーグが言う。