私が涼と黒羽に連れて来られたのは、兵たちが訓練してた広場の横の建物だった。
涼が椅子に掛け、私にも座るように促す。
黒羽は、涼の傍に立って控えている。
「で、白夜。勝つためにはどうすればいい?」
「そんないきなり聞かれても、状況も把握していないのに」
「だな。さすがにひっからないか」
愉快そうに涼が笑う。
スッと涼が出してきたのは、黄虎国との国境付近の地図だった。
「ここが、今回物資の供給が遅れている拠点」
涼の長い指が、コンコンと国境近くの砦をつつく。
「で、あれが最近、赤虎の国に落とされた砦。あの砦の領主がこっちの青虎国寄りの砦に逃げて来たおかげで、兵が増えて好戦的に鳴っていると報告があった。だからきっと、何かを仕掛けてくるとすれば、人員に余裕どころか余剰があるこっちの砦から。そして、その余剰分の兵を使い青虎の国への進出をしようってことだと思う」
あ、私が以前に落とした砦だ。
ごめん。どうやら、国境の均衡を壊したのは、私のようだ。
「赤虎の国にどうやら有能な人材が出現したみたいで、全く何の動きもなかったのに、一日にしてあの砦が陥落したんだ。白夜、お前は赤虎の国に近い地方の出身だろう?」
「え、どうして?」
私はドキリとする。
「訛りだよ。すごく丁寧で癖のない語り口調だけれども、ほんの少しだけ時々赤虎の国の言い回しが会話に入る。違う?」
爽やかな笑顔を崩さずに、涼が私の訛りを追求する。
まずい。私が、白蓮だとバレてしまう。
「それに、その特徴的な瞳の色。その瞳は確か最近来た赤虎の国の……」
「え、ウチの田舎では、結構ある色ですよ? ははは……」
誤魔化そうとしても乾いた笑いしか出てこない。
「えっとですね、実は以前に砦を追われてきた領主には、会ったことがあるんです」
「何、それは本当ですか?」
黒羽が、興味を示す。
「ええ。とても好色な方で、遊郭から見受けした女郎を妻として溺愛しております。溺愛している妻がいるにも関わらず、若い美女と聞けば、すぐに興味を示すお方です。あの辺りの国境地帯では、有名な話です」
砦攻略の時に、調べたこと。
こんな領主だからこそ、女商人に化けた私を簡単に信じて謁見を許した。
商人のフリをして上質の絹を広げれば、美しい寵妃が感嘆の声を漏らし、それを見て領主が悦に入っていた。
まあ……さすがにもう顔はバレているだろうし砦を追われる失敗をして警戒はしているだろうから、同じ手は使えないだろうけれど。
「助かります。この人物の情報は、まだ然程集まっておりませんので」
「うん。そうだな。しかし、そんなに自らの趣向を表に出しているような迂闊な人物ならば、付け入る隙は大いにありそうだ」
涼が考え込む。
「元々の砦の領主はどのような方なんですか?」
「うん。人嫌いの疑り深い人物だ。自分の妻でさえ裏切ったと思い込んで斬首した過去がある」
それは、友達になりたくない人物だ。
それにしても、涼の言い方は気に掛かる。
「裏切ったと思い込んだ……ということは、えん罪だったのですか?」
「ああ、無実だった。斥候が紛れ込んでいたんだが、それは妻ではなかった。後に、別の人物が斥候として捕らえられた。妻がいくら無実を訴えても聞き入れず首を刎ねたのだという」
それは、怖い。
妻はきっと愛する人の信じてもらえずに、失意のうちに亡くなったに違いない。
「だったら、新しく来た領主と、元の領主で仲違いさせることは可能なのでは? それこそ、新しく来た領主が、自分を殺して領土を奪おうとしていると疑わせることができれば、勝手に自滅するような気がします」
「それが、無理なんだよ。この二人は、どうも信頼関係がガッツリできている。幼馴染で義兄弟の契りを交わしている間柄だ」
「でも、自分の妻ですら、疑う男ですよ?」
好色の男。疑り深い男。
この二人が仲違いさえすれば、戦は避けられる。
「よし! では行くか!」
「え、ちょっと待って下さい。涼様が直々に行くつもりじゃないでしょうね?」
「当たり前だ。行くに決まっている。戦が始まれば、大きな損害や犠牲が出る。防げるなら、それに越したことはない」
「だったら私も参ります」
「いや……黒羽は、留守を守って……と言っても聞かないか。いいや、一緒に来い。俺が死んだら、屍は拾ってくれ」
「縁起でもないことを言わないで下さい。私の命に代えても連れ帰ります」
「おかしな奴だ。命に代えたら、連れ帰れないだろうが」
ハハハッと涼が笑って黒羽を小突く。
「行ってらっしゃいませ。ご武運を」
私は、涼の成功を祈る。
「こらこら。何を言っているんだ。当然、白夜も行くんだよ」
え……私も?
「ですね。元々は、白夜の進言ですから」
黒羽まで何を言っているんだか。
じっと二人に見つめられて、私は引くに引けない。
「わ、分かりました。だったら、もっと詳細まで作戦を詰めましょう。このままでは死に行くようなものです」
「ああ、頼む」
涼め。そんな簡単に頼まないでくれ。
涼が椅子に掛け、私にも座るように促す。
黒羽は、涼の傍に立って控えている。
「で、白夜。勝つためにはどうすればいい?」
「そんないきなり聞かれても、状況も把握していないのに」
「だな。さすがにひっからないか」
愉快そうに涼が笑う。
スッと涼が出してきたのは、黄虎国との国境付近の地図だった。
「ここが、今回物資の供給が遅れている拠点」
涼の長い指が、コンコンと国境近くの砦をつつく。
「で、あれが最近、赤虎の国に落とされた砦。あの砦の領主がこっちの青虎国寄りの砦に逃げて来たおかげで、兵が増えて好戦的に鳴っていると報告があった。だからきっと、何かを仕掛けてくるとすれば、人員に余裕どころか余剰があるこっちの砦から。そして、その余剰分の兵を使い青虎の国への進出をしようってことだと思う」
あ、私が以前に落とした砦だ。
ごめん。どうやら、国境の均衡を壊したのは、私のようだ。
「赤虎の国にどうやら有能な人材が出現したみたいで、全く何の動きもなかったのに、一日にしてあの砦が陥落したんだ。白夜、お前は赤虎の国に近い地方の出身だろう?」
「え、どうして?」
私はドキリとする。
「訛りだよ。すごく丁寧で癖のない語り口調だけれども、ほんの少しだけ時々赤虎の国の言い回しが会話に入る。違う?」
爽やかな笑顔を崩さずに、涼が私の訛りを追求する。
まずい。私が、白蓮だとバレてしまう。
「それに、その特徴的な瞳の色。その瞳は確か最近来た赤虎の国の……」
「え、ウチの田舎では、結構ある色ですよ? ははは……」
誤魔化そうとしても乾いた笑いしか出てこない。
「えっとですね、実は以前に砦を追われてきた領主には、会ったことがあるんです」
「何、それは本当ですか?」
黒羽が、興味を示す。
「ええ。とても好色な方で、遊郭から見受けした女郎を妻として溺愛しております。溺愛している妻がいるにも関わらず、若い美女と聞けば、すぐに興味を示すお方です。あの辺りの国境地帯では、有名な話です」
砦攻略の時に、調べたこと。
こんな領主だからこそ、女商人に化けた私を簡単に信じて謁見を許した。
商人のフリをして上質の絹を広げれば、美しい寵妃が感嘆の声を漏らし、それを見て領主が悦に入っていた。
まあ……さすがにもう顔はバレているだろうし砦を追われる失敗をして警戒はしているだろうから、同じ手は使えないだろうけれど。
「助かります。この人物の情報は、まだ然程集まっておりませんので」
「うん。そうだな。しかし、そんなに自らの趣向を表に出しているような迂闊な人物ならば、付け入る隙は大いにありそうだ」
涼が考え込む。
「元々の砦の領主はどのような方なんですか?」
「うん。人嫌いの疑り深い人物だ。自分の妻でさえ裏切ったと思い込んで斬首した過去がある」
それは、友達になりたくない人物だ。
それにしても、涼の言い方は気に掛かる。
「裏切ったと思い込んだ……ということは、えん罪だったのですか?」
「ああ、無実だった。斥候が紛れ込んでいたんだが、それは妻ではなかった。後に、別の人物が斥候として捕らえられた。妻がいくら無実を訴えても聞き入れず首を刎ねたのだという」
それは、怖い。
妻はきっと愛する人の信じてもらえずに、失意のうちに亡くなったに違いない。
「だったら、新しく来た領主と、元の領主で仲違いさせることは可能なのでは? それこそ、新しく来た領主が、自分を殺して領土を奪おうとしていると疑わせることができれば、勝手に自滅するような気がします」
「それが、無理なんだよ。この二人は、どうも信頼関係がガッツリできている。幼馴染で義兄弟の契りを交わしている間柄だ」
「でも、自分の妻ですら、疑う男ですよ?」
好色の男。疑り深い男。
この二人が仲違いさえすれば、戦は避けられる。
「よし! では行くか!」
「え、ちょっと待って下さい。涼様が直々に行くつもりじゃないでしょうね?」
「当たり前だ。行くに決まっている。戦が始まれば、大きな損害や犠牲が出る。防げるなら、それに越したことはない」
「だったら私も参ります」
「いや……黒羽は、留守を守って……と言っても聞かないか。いいや、一緒に来い。俺が死んだら、屍は拾ってくれ」
「縁起でもないことを言わないで下さい。私の命に代えても連れ帰ります」
「おかしな奴だ。命に代えたら、連れ帰れないだろうが」
ハハハッと涼が笑って黒羽を小突く。
「行ってらっしゃいませ。ご武運を」
私は、涼の成功を祈る。
「こらこら。何を言っているんだ。当然、白夜も行くんだよ」
え……私も?
「ですね。元々は、白夜の進言ですから」
黒羽まで何を言っているんだか。
じっと二人に見つめられて、私は引くに引けない。
「わ、分かりました。だったら、もっと詳細まで作戦を詰めましょう。このままでは死に行くようなものです」
「ああ、頼む」
涼め。そんな簡単に頼まないでくれ。


