戦上手の冷遇妃は軍師となり溺愛される

 目が覚めた時、私は新月宮の自分の寝台の上だった。
 ……重い。
 体に乗っているのは、ヤミヨだった。

「にゃーん」

 ヤミヨが機嫌よく一鳴きして、ゴロゴロと喉を鳴らす。
 なんとなく違和感を感じて自分の頬に手をやると、大きな軟膏を貼られていた。
 触れると痛い。
 あれは夢ではない。
 私は、太政大臣と妖術師の獏に誘拐されたんだった。
 それから、ええっと……思い出したのは、私を呼ぶ涼の声。
 助けてくれたのは、涼だった。

「白蓮お嬢様! ああ、よかった!」

 私の目が覚めていることに気付いた夕夏が跳びついてきた。
 
「夕夏、大丈夫だった?」
「はい、大丈夫です。それよりも見てください!」

 気づけば、部屋の中が豪華になっている。
 家具が増えて、壊れていた天井や壁は補修されている。

「これは?」
「西寧様です。西寧様が、白蓮様のために、こんな風に設えてくださいました」

 誘拐された私を労ってのことだろうか。
 いや、違う。
 私の記憶の中に、西寧王がこんなことをしてくれる理由はある。

「夕夏様、西寧様がお渡りでございます」

 部屋の外で、少女の声がする。

「え、誰?」
「新しい下女です。たくさんの使用人が、この夕夏の下に配備されました」

 あまりの変わりように、付いて行けないのだけれども。

「それよりも、本当に丁度良かった! 西寧様がお渡りになられるときに、お嬢様がお目覚めになるなんて」

 夕夏の声は弾んでいるが、私は、それどころではない。

「待って。お渡りって、どういうことよ」
「そりゃ、西寧様が、新月宮に向かわれているってことですよ」
「西寧王が、新月宮へ? どうして?」
「そりゃ、白蓮様が、後宮妃だからです」

 ええ、そうでしたね。
 そうなのよ。
 うん、そうなのよ。

「玉葉様は?」
「あんなことをして、玉葉様が後宮に居られるわけがないじゃないですか!」

 夕夏の話によれば、獏と結託して私を誘拐した太政大臣は、失脚。
 西寧王の怒りは大きく、首を斬り落とされたのだという。
 獏は、妖術を使い逃走し、玉葉は、一族郎党と共に国外に追放された。
 玉葉に付き従っていた他の後宮妃も、皆、この機会にそれぞれの家に帰されたのだという。

「なんでも、獏は黄虎国の間者で、太政大臣と玉葉様をそそのかして、西寧王の失脚を狙っていたようです」

 証拠は、太政大臣の家の執務室に大量に見つかったそうだ。
 私が誘拐されていた場所も、太政大臣家の蔵の一つだった。

「普通は、お渡りの時は西寧様をお出迎えする準備をなさるんでしょうが、今は三日の昏睡から起きられたところですから、起きていて下さるだけで、西寧様はお喜びだと思います」
「三日? 私は三日も寝てたの?」

 道理で周りの何もかもが変わってしまっている。

「あの……そのお渡りって、拒否できないの?」
「無理ですね」

 夕夏が一蹴する。
 そりゃそうよね……だって、私、後宮妃ですもの。
 
「西寧王がお着きになられました」

 知らない下女の声に、ヒュッと私の喉が鳴る。
 もし、西寧王が私の思っている人と違ったら、私はどうすれば良いのだろう。
 間違いないはずなのよ。
 でも、怖い。
 扉を開けて、西寧王が入ってくる。
 明るい笑顔が私の目に入る。

「ああ、ついに目覚めてくれたのだな」

 優しい声が、私の耳に入ってくる。

「涼様……」

 思った通りだった。
 西寧王は、涼だった。
 ほっとしたからか、私の目からは涙がこぼれ落ちた。

「白蓮」

 すぐさま西寧寄って来て、私の涙をいつかのように拭ってくれる。
 
「ようやく、貴女の傍にいられる」

 西寧王は、優しく私を抱きしめてくれた。

「白蓮、愛している。ずっと俺の傍にいてくれ」

 耳元に囁く優しい甘い声に、私は「はい、お慕いしております」と、返事をした。