戦上手の冷遇妃は軍師となり溺愛される

 目隠しをされて、馬車に乗せられて、私が連れ去られたのは、全く知らない場所だった。

「獏?」

 目隠しを外された先にいたのは、太った初老の男と、老女……獏だった。
 玉葉はいない。
 ということは、ここは、後宮の外なのだろう。
 見渡しても、窓のない暗い部屋。
 蔵の中なのかもしれない。
 私は、冷たい床に転がされ、猿轡をされて話すこともできない。

「お嬢様は良くおやりでございます。これで、西寧王は、太政大臣様の言いなりとなりますでしょう」
「おお、獏よ。ありがとう」

 太政大臣は、私を見ながら、嬉しそうに目を細める。

「これで、西寧王の血を引く子を娘が産めば、我が家は安泰」

 太政大臣が下種な策略の明るい展望に揉み手して浮かれる。

「いえ、殿様。別に不能の西寧王の子を無理に宿す必要はありませぬ」
「というと?」
「どなたの子でも構わぬのです。お嬢様がお好きな殿御の子を身籠り、それを西寧王の子だと言い張ったところで、何の支障がございましょうか?」

 ヒヒヒッと獏が不気味な笑いを浮かべる。

「しかし、西寧王は、褐色の肌だぞ。そんな特徴的な男の御子が、まるで違うとなると、バレるのではないか?」
「いいえ、お嬢様の雪の肌を引き継いだと言えば良いのです。かえってその方が殿様もやりやすうございましょう?」

 なんともおぞまし計画を二人は楽しそうに話している。

「この女はどうする? ずっとここに入れておくのか?」

 太政大臣が、私を踏みつける。脇腹を踏まれ激痛にううっと呻き声が私の口から洩れる。

「獏が、薬を盛りましょう。そして、逆らえないようにしてしまえば、後は、いかようにも」
「儂が好きに遊んでも?」
「もちろんでございます」

 ゾッとする会話に、私は眉を顰める。
 逃げなきゃ。
 獏に薬を盛られたら、それこそ終わりだ。
 私は焦るが、腕も足も縛られて、身動きが取れない。
 
「おい!」

 太政大臣が声を掛けると、どこか隅にでも潜んでいた男たちが現れて、私身体を起こす。
 
「では……」

 何かおかしな器を持った獏が、私に迫ってくる。
 器の中の薬が、私を従わせるための薬なのだろう。
 何が入っているのかは分からないが、飲まされたくはない。
 猿轡を獏が外す。

「キャー―――――――!」

 腹の底から、あらん限りの声で私は叫ぶ。

「うるせえ! 小娘が!」

 男の一人が、たまらず私を殴りつける。
 屈強な男に殴られて、私の身体は簡単に吹っ飛ぶ。
 床に頬を擦って、頬を怪我したようで、頬がジンジンと痛い。
 
「さっさと押さえつけろ」

 獏に命じられて、男は慌てて私を担ぎ上げて、再び獏の元へと連れて行く。
 正直に言えば、もう駄目だと思った。
 抵抗する気力も失いかけていた。
 口の中に、苦い液体が入って来て、吐き出そうとしても、口を掴まれてうまく動けない。
 喉が、私の意志に反して口の中の異物を飲み込もうとしたときだった。

 大きな音がして、扉が打ち破られた。
 私の身は、床に放り出され、大人数の足音が、響いていた。

「白蓮! 白蓮!」

 必死に私を呼ぶ声を、掠れる意識の中で、私は聞いた。