天狗日食の日から一週間が過ぎた。
第一妃への昇格を言い渡されたユェシャンは、翌日に宮の引っ越しを控えている。
このあばら家は薬草園とともに作業小屋として残してもらえるらしい。
ヨンジェとタオリンは当初無実を訴えていたようだが、シュンウェイが狆の姿でいる間に嗅覚を活かして集めた証拠により言い逃れができなくなった。
天狗食の呪いに関して調査を担当した呪術師に、ユェシャンが血の付いた布を渡したのも大きな証拠となった。
その血がたしかにヨンジェのものであると判明したからだ。
皇帝を呪った理由は実に単純だった。
『自分の方が皇帝にふさわしいと思った』
ヨンジェはそう漏らしているという。
タオリンがヨンジェと共謀したのは、恋心からだった。
後宮に輿入れし、ほかの妃たちの邪魔をしながら第一妃の座を守ってきた彼女は、皇帝が自分に見向きもせず冷たくされていると不満を持っていた。
そこにヨンジェがつけこみ、熱烈な恋文を送りつづけたようだ。
さらには、自分が皇帝になった暁にはもちろんタオリンを正妃とすると約束していたらしい。
本心だったのか、彼女の気持ちを利用しただけなのかはわからない。
タオリンは熱を上げて本気にし、皇帝を招待した茶会で呪いの発端となる工芸茶を飲ませたのだ。
ふたりは近いうちに処刑されると聞いている。
バイリーは早い段階でシュンウェイから事情を聞いて知っていたらしい。
タオリンの宮から荷物を運んだ時も、わかっていて近づいたのだという。
あの胡散臭さの理由がわかった。しっかり見守ってくれたことに感謝もしている。
ユェシャンは、世話をする女官は宮を移ってからつけてもらえればいいとバイリーにお願いした。
ヂョンヂョンが宦官ではなく皇帝だったとは、いまだに信じられない。
あの柔らかくて可愛い狆ももういない。
呪いが解けて皇位簒奪計画も阻止できた。これで大団円としなくてはならないのに、なぜこうも寂しいのか。
ユェシャンが感傷に浸っていると、戸を叩く音が聞こえた。
開けてみれば、なんと足元に狆がいる。
「え……ヂョンヂョン!?」
小さな体を抱き上げた。
「気に入ったか?」
その声を聞いて、ユェシャンは己の思い違いを悟った。
「隠れてわたしの反応を見ていたの……ですか?」
くくっと笑ったシュンウェイが、狆を潰さぬよう気を遣いながらユェシャンを抱きしめる。
「寂しそうにしていると聞いた。どこまで私の代わりになるかわからんが、可愛がってくれ」
(そんな理由でわざわざ狆を用意してくれたの?)
うれしいような悔しいような、この複雑な気持ちはなんだろう。
「……ありがとうございます」
シュンウェイが小屋の中を懐かしそうに見回した後、ユェシャンに視線を戻して甘く笑った。
「改めて礼を言う。本当に助かった。そなたは私の唯一無二の妃だ」
「いや、そんな大げさな……」
どう答えれば正解なのかわからず、ユェシャンは目を伏せた。
心臓が猛烈にドキドキしているのを狆が不思議そうに見ている。
「明日からは新しい宮で毎晩一緒に過ごそう」
「え?」
「案ずることはない、すでに何度も同衾した仲だろう? それに『わたしが守る』と言ってくれたではないか」
あれは日食の前夜のことで、一生守ると言ったつもりなどない。
「痺れる告白だった。私も一生涯ユェシャンだけを守り愛すると誓おう」
心の準備もないまま、いきなりすごいことを言われた気がする。
ずっと顔すら知らなかった皇帝がこんなにも情熱的だったなんて聞いてない。
そう思いながら、甘い口づけを受け入れたのだった。
第一妃への昇格を言い渡されたユェシャンは、翌日に宮の引っ越しを控えている。
このあばら家は薬草園とともに作業小屋として残してもらえるらしい。
ヨンジェとタオリンは当初無実を訴えていたようだが、シュンウェイが狆の姿でいる間に嗅覚を活かして集めた証拠により言い逃れができなくなった。
天狗食の呪いに関して調査を担当した呪術師に、ユェシャンが血の付いた布を渡したのも大きな証拠となった。
その血がたしかにヨンジェのものであると判明したからだ。
皇帝を呪った理由は実に単純だった。
『自分の方が皇帝にふさわしいと思った』
ヨンジェはそう漏らしているという。
タオリンがヨンジェと共謀したのは、恋心からだった。
後宮に輿入れし、ほかの妃たちの邪魔をしながら第一妃の座を守ってきた彼女は、皇帝が自分に見向きもせず冷たくされていると不満を持っていた。
そこにヨンジェがつけこみ、熱烈な恋文を送りつづけたようだ。
さらには、自分が皇帝になった暁にはもちろんタオリンを正妃とすると約束していたらしい。
本心だったのか、彼女の気持ちを利用しただけなのかはわからない。
タオリンは熱を上げて本気にし、皇帝を招待した茶会で呪いの発端となる工芸茶を飲ませたのだ。
ふたりは近いうちに処刑されると聞いている。
バイリーは早い段階でシュンウェイから事情を聞いて知っていたらしい。
タオリンの宮から荷物を運んだ時も、わかっていて近づいたのだという。
あの胡散臭さの理由がわかった。しっかり見守ってくれたことに感謝もしている。
ユェシャンは、世話をする女官は宮を移ってからつけてもらえればいいとバイリーにお願いした。
ヂョンヂョンが宦官ではなく皇帝だったとは、いまだに信じられない。
あの柔らかくて可愛い狆ももういない。
呪いが解けて皇位簒奪計画も阻止できた。これで大団円としなくてはならないのに、なぜこうも寂しいのか。
ユェシャンが感傷に浸っていると、戸を叩く音が聞こえた。
開けてみれば、なんと足元に狆がいる。
「え……ヂョンヂョン!?」
小さな体を抱き上げた。
「気に入ったか?」
その声を聞いて、ユェシャンは己の思い違いを悟った。
「隠れてわたしの反応を見ていたの……ですか?」
くくっと笑ったシュンウェイが、狆を潰さぬよう気を遣いながらユェシャンを抱きしめる。
「寂しそうにしていると聞いた。どこまで私の代わりになるかわからんが、可愛がってくれ」
(そんな理由でわざわざ狆を用意してくれたの?)
うれしいような悔しいような、この複雑な気持ちはなんだろう。
「……ありがとうございます」
シュンウェイが小屋の中を懐かしそうに見回した後、ユェシャンに視線を戻して甘く笑った。
「改めて礼を言う。本当に助かった。そなたは私の唯一無二の妃だ」
「いや、そんな大げさな……」
どう答えれば正解なのかわからず、ユェシャンは目を伏せた。
心臓が猛烈にドキドキしているのを狆が不思議そうに見ている。
「明日からは新しい宮で毎晩一緒に過ごそう」
「え?」
「案ずることはない、すでに何度も同衾した仲だろう? それに『わたしが守る』と言ってくれたではないか」
あれは日食の前夜のことで、一生守ると言ったつもりなどない。
「痺れる告白だった。私も一生涯ユェシャンだけを守り愛すると誓おう」
心の準備もないまま、いきなりすごいことを言われた気がする。
ずっと顔すら知らなかった皇帝がこんなにも情熱的だったなんて聞いてない。
そう思いながら、甘い口づけを受け入れたのだった。

