真誠は美雪を横抱きに抱いたまま、突如馬車へと乗り込んだ。
重厚な扉は、まるで二人を閉じ込める牢獄のように容赦なく閉じてしまう。
「っ、ちょっと、どこに連れて行く気…!?」
腕の中でもがくが、手足を縛られていては碌な抵抗になりやしない。
ガラガラと回る車輪と馬の蹄が道を蹴る音が、不快な不協和音を奏でている。
酷い揺れはまるで上下にかき混ぜられているようだ。
「まぁ、そう焦らずともすぐに着く。」
そう言って、余裕の笑みを崩しもしない真誠。
彼は美雪の黒髪を束ねる簪をするりと抜きとると、ほどけた髪の束を優しくなでた。
目と鼻の先に標的がいるにも関わらず、一切の手出しが出来ない。
武器が手元になければこれほどまでに無力だと、美雪は初めて自分の異能を悔しいと感じていた。
「ほう、これが噂の”爆弾魔”による腕輪か…。異能者の反逆防止とは、黒龍会のケツの穴は随分と小さいらしい。」
「ッ…」
真誠の視線が、美雪の手首に視線を向ける。その目は、美雪の属する組織も、手口も、全て理解していると物語っていた。
すると、5分も経たずに馬車は停止。
従者が扉を開け、当然のように美雪を抱えたまま真誠は馬車を降りる。
彼らの目の前には、荘厳な日本家屋が佇んでいた。
(あぁ…私邸で人が死んだんじゃ外聞が悪いから、組の内部で殺そうってこと…?)
美雪の気分は、夜闇よりも暗い。真誠が長を務める葛原組の縄張りは横浜だという基本情報さえ、どうでもよくなっていた。
我が物顔で門を潜り、引き戸を足で開いて邸宅内を進んでいく。
自警団の拠点にしては、随分と静かだ。
武器さえあれば、彼を殺せる。今すぐにでも。
反撃の隙を狙って美雪が視線を巡らせているなんて露にも思っていない軽快さで、真誠は突如とある部屋のふすまを勢いよく開いた。
「起きてるかー?」
美雪の頭上で、まるで今日の昼食でも尋ねるような声がした。
さすがに驚いて真誠の顔を見てしまったほどだ。だが、声音となんのズレもない表情で、ずかずかと彼はこの部屋へ入っていく。
ゴソ…とわずかに聞こえた衣擦れの音。
ハッとしてそちらに視線を送ると、布団に寝ていた男性が起き上がったところだった。どうやら、ここはこの男性の寝室らしい。
「なんだこんな夜中に非常識な…!俺は仕事で疲れ…」
文句と共に、男がこちらを見た。美雪と、確かに目があった。
月明かりだけが光源の部屋で、男の詳しい容姿は判然としない。
だが生真面目さがそのまま出てきたような声と、真誠よりも肩幅の広い輪郭だけが確かだ。その雰囲気だけ見れば、目の前の布団にいる男性のほうがよっぽど「最強」のようにも見えてくる。
その男は美雪を見て、縛られていることを理解し、そして真誠を見て言い放った。
「…貴様の特殊性癖に付き合う気はないぞ、この女たらし。」
「酷い言いようだな、安倍せいめい。」
「はるあき、だ!!」
間髪入れず起こった応酬。美雪にとっては、男の名前が分かっただけだった。
彼は、安倍清明。かの伝説の陰陽師の子孫であり、同じ字面の名を持つ、真誠の幼なじみで腐れ縁の男。
布団にあぐらをかいた悪友の前に真誠は膝をつくと、美雪の手首を指して尋ねた。
「彼女のこの腕輪を外せるか?かの有名な”爆弾魔”の能力で作られたものだ。」
「…!」
その一言は、晴明が状況を理解するのには十分過ぎるものだった。
「まさかその女、黒龍会の…!?わざわざ爆弾を外してどうする気だ。どうせ貴様のことを殺しに来たのだろう、その女は!」
「そうだ。だから俺の嫁にする。」
「…は?」
続いた真誠の言葉は、先ほどと打って変わって全く状況が理解できないものだったらしい。
冷え切った空気。室内だというのに、雪が降り出しそうだ。
「俺の嫁にする。」
「二度も言うな聞こえてるわ、馬鹿者が!!!自分を殺しに来た女を娶るとか正気か貴様ぁ!!」
耳に響く大声。思わず美雪も顔をしかめてしまった。
それを知ってか知らずか、晴明はなおもまくしたてる。
「だいたい!その女はアヘン常習者だろう!!黒龍会の刺客の殆どがアヘンによって異能力を得た奴らだと話していたのは貴様だろうが!!自分の言葉を忘れたのか?薬物依存者を娶る馬鹿がどこにいる!!貴様は自分の立場をちゃんと理解して居るのか!!」
暴風のような正論。それを全て聞き流し、真誠は場違いなほど優しい声で美雪にだけ語りかける。
「馬鹿が煩くてすまないな美雪。」
もう、わけがわからない。
「あの…下ろして…」
「下ろしたら逃げるだろう?それは困る」
混乱に乗じて解放を訴えてみたが、それは静かな圧で却下されてしまった。
「話を聞け貴様らァ!!」
そして晴明の怒号だけがむなしく響いた。彼がなにをまくしたてていたのか、美雪も真誠ももはや全く頭に入っていない。
「はいはい聞いてる聞いてる。で?爆弾を解除出来るのか出来ないのかハッキリしろ。」
あしらうように真誠が告げる。その言葉も、美雪にとっては意味が分からない。
能力で作られた爆弾を解除するなど、聞いたことがない。
「当然出来る。」
「…えっ?」
騒音のような男が、打って変わって静かに断言した。
明かりを灯し、彼の真剣な表情が照らし出される。黒曜石のような瞳が、親友の身を案じるように真っ直ぐに光る。
「だがこの女にしてやるとはひと言も…」
待っていました、というように真誠の口元が笑みを浮かべるのを、美雪は見てしまった。
「あーぁ、俺にかけられた弟の能力すら解除できないんだから、やはり口だけかー。あの安倍晴明ともあろう奴が…」
「”はるあき”だと言ってるだろう!!貸せ!!このトンチキ女たらし!!時限式なんだろう、さっさと解除するぞ!!」
計画通り。そんな言葉さえ、真誠からありありと聞こえてきそうだ。
完全に、晴明は真誠の手のひらで転がされている。
(解除…?解除って、どういうこと…?)
混乱する美雪をよそに、1枚の札を持ってきた晴明が彼女の前に膝をつく。
「…女」
「…?」
固く、静かな声で晴明は美雪を呼んだ。
視線だけを向けると、鋭利な黒曜石が美雪を射抜く。
「この男は馬鹿だが無策ではない。それに乗じてやるが、怪しい動きをすればすぐ捕縛するからな。」
「…」
そしてかれは深呼吸をひとつ。
「…青龍、力を貸せ。」
ポツリと空中にそんな言葉をおく晴明。
そして彼は剣印を組み、口元に寄せた札へ呪文を込め始めた。
「オン アミリタ テイセイ カラ ウン、四神・青龍の名の下に下す、急急如律令…!」
腕輪に貼り付けられる札。ツキン、と刺すような細い耳鳴りと共に、一瞬灯った青い炎。
その炎が静かに燃え尽きた時、真誠は美雪の腕輪の金具に手を伸ばした。
「ちょっ、と…!!」
外せば爆発する。
そう焦ったのは美雪だけ。
その焦りすら杞憂だと言うように、カチャン…と軽い音がする。
「………え」
腕輪が、外れた。火花1つさえあげることなく。
揺れる明かりに照らされた腕輪が、何でもなかったようにそこにある。
呆然としている美雪に解説をするように、晴明が口を開いた。
「…言っておくが、完全に消した訳じゃない。アヘン由来の異能など、所詮は紛い物だ。純粋な気の力を用いる陰陽術の方が優位。だから一時的に無効化出来るだけ。…1分もすれば、本来の効果を取り戻すぞ、その腕輪。」
「…!」
一筋の光が見えたのも一瞬だ。
晴明の言葉に美雪の血の気が引いたのと、真誠が動き出したのは同時だった。
パチンと呆気なく解かれた、手足の拘束。
美雪を解放した途端、真誠は例の腕輪を晴明からひったくり、彼を押しのける。
そしてそれを美雪に差し出し、彼は告げた。
「ほら、選べ。この爆弾をそこの庭に投げ捨て、俺の嫁になるか否かを。」
「………は!?」
何という二択。驚愕の声が口をついたのも無理はない。
だがいくら疑っても、目の前の標的は大まじめだ。
雲が流れ、雪見窓から差す月明かり。
大木の幹を思わせる焦げ茶の瞳に、一筋の光。
「俺の手を取れ。そうすれば、俺が、お前の望む世界を作ってやる」
「っ…」
侯爵家の、妻。
それは、美雪にとっての蜘蛛の糸。
地獄から這い上がるための、細い細い希望。
掴んでみるしか、ないのだろう。
美雪は真誠の手にある腕輪を握りしめる。
そして部屋の奥へと駆け出し、勢いよく窓を開けた。
吹き付ける北風。
それに向けて、大きく振りかぶる。
(もう、殺しはイヤだ…!!)
空中に、腕輪が放られる。
妙にゆっくりと弧を描く軌道。冷たく光る無機質な銀色。
その瞬間
まるで花火が至近距離で弾けたような眩しさが美雪を襲った。
腕輪が、大爆発したのだ。
「っ…!」
覚悟していた熱風は、壁のように宙に光る五芒星に遮られていく。
真誠と晴明が居なければ、自分はあの腕輪のように今頃粉々だっただろう。そう思うと、生きた心地がしない。
「美雪。」
嬉しそうな声に呼ばれ、思わず振り向く。
すると、間髪入れずに抱きしめられた。真誠の体温が、いやに熱い。
「ちょっと…!ん、」
文句は、重なった唇に溶かされた。
大事だと伝えてくるような、触れるだけの口づけ。
「…これからよろしく、我が妻よ。」
「っ………!!」
何度言われても、やはり意味がわからなかった。
侯爵家当主の花嫁は、現役の殺し屋なのだから。
【続】
重厚な扉は、まるで二人を閉じ込める牢獄のように容赦なく閉じてしまう。
「っ、ちょっと、どこに連れて行く気…!?」
腕の中でもがくが、手足を縛られていては碌な抵抗になりやしない。
ガラガラと回る車輪と馬の蹄が道を蹴る音が、不快な不協和音を奏でている。
酷い揺れはまるで上下にかき混ぜられているようだ。
「まぁ、そう焦らずともすぐに着く。」
そう言って、余裕の笑みを崩しもしない真誠。
彼は美雪の黒髪を束ねる簪をするりと抜きとると、ほどけた髪の束を優しくなでた。
目と鼻の先に標的がいるにも関わらず、一切の手出しが出来ない。
武器が手元になければこれほどまでに無力だと、美雪は初めて自分の異能を悔しいと感じていた。
「ほう、これが噂の”爆弾魔”による腕輪か…。異能者の反逆防止とは、黒龍会のケツの穴は随分と小さいらしい。」
「ッ…」
真誠の視線が、美雪の手首に視線を向ける。その目は、美雪の属する組織も、手口も、全て理解していると物語っていた。
すると、5分も経たずに馬車は停止。
従者が扉を開け、当然のように美雪を抱えたまま真誠は馬車を降りる。
彼らの目の前には、荘厳な日本家屋が佇んでいた。
(あぁ…私邸で人が死んだんじゃ外聞が悪いから、組の内部で殺そうってこと…?)
美雪の気分は、夜闇よりも暗い。真誠が長を務める葛原組の縄張りは横浜だという基本情報さえ、どうでもよくなっていた。
我が物顔で門を潜り、引き戸を足で開いて邸宅内を進んでいく。
自警団の拠点にしては、随分と静かだ。
武器さえあれば、彼を殺せる。今すぐにでも。
反撃の隙を狙って美雪が視線を巡らせているなんて露にも思っていない軽快さで、真誠は突如とある部屋のふすまを勢いよく開いた。
「起きてるかー?」
美雪の頭上で、まるで今日の昼食でも尋ねるような声がした。
さすがに驚いて真誠の顔を見てしまったほどだ。だが、声音となんのズレもない表情で、ずかずかと彼はこの部屋へ入っていく。
ゴソ…とわずかに聞こえた衣擦れの音。
ハッとしてそちらに視線を送ると、布団に寝ていた男性が起き上がったところだった。どうやら、ここはこの男性の寝室らしい。
「なんだこんな夜中に非常識な…!俺は仕事で疲れ…」
文句と共に、男がこちらを見た。美雪と、確かに目があった。
月明かりだけが光源の部屋で、男の詳しい容姿は判然としない。
だが生真面目さがそのまま出てきたような声と、真誠よりも肩幅の広い輪郭だけが確かだ。その雰囲気だけ見れば、目の前の布団にいる男性のほうがよっぽど「最強」のようにも見えてくる。
その男は美雪を見て、縛られていることを理解し、そして真誠を見て言い放った。
「…貴様の特殊性癖に付き合う気はないぞ、この女たらし。」
「酷い言いようだな、安倍せいめい。」
「はるあき、だ!!」
間髪入れず起こった応酬。美雪にとっては、男の名前が分かっただけだった。
彼は、安倍清明。かの伝説の陰陽師の子孫であり、同じ字面の名を持つ、真誠の幼なじみで腐れ縁の男。
布団にあぐらをかいた悪友の前に真誠は膝をつくと、美雪の手首を指して尋ねた。
「彼女のこの腕輪を外せるか?かの有名な”爆弾魔”の能力で作られたものだ。」
「…!」
その一言は、晴明が状況を理解するのには十分過ぎるものだった。
「まさかその女、黒龍会の…!?わざわざ爆弾を外してどうする気だ。どうせ貴様のことを殺しに来たのだろう、その女は!」
「そうだ。だから俺の嫁にする。」
「…は?」
続いた真誠の言葉は、先ほどと打って変わって全く状況が理解できないものだったらしい。
冷え切った空気。室内だというのに、雪が降り出しそうだ。
「俺の嫁にする。」
「二度も言うな聞こえてるわ、馬鹿者が!!!自分を殺しに来た女を娶るとか正気か貴様ぁ!!」
耳に響く大声。思わず美雪も顔をしかめてしまった。
それを知ってか知らずか、晴明はなおもまくしたてる。
「だいたい!その女はアヘン常習者だろう!!黒龍会の刺客の殆どがアヘンによって異能力を得た奴らだと話していたのは貴様だろうが!!自分の言葉を忘れたのか?薬物依存者を娶る馬鹿がどこにいる!!貴様は自分の立場をちゃんと理解して居るのか!!」
暴風のような正論。それを全て聞き流し、真誠は場違いなほど優しい声で美雪にだけ語りかける。
「馬鹿が煩くてすまないな美雪。」
もう、わけがわからない。
「あの…下ろして…」
「下ろしたら逃げるだろう?それは困る」
混乱に乗じて解放を訴えてみたが、それは静かな圧で却下されてしまった。
「話を聞け貴様らァ!!」
そして晴明の怒号だけがむなしく響いた。彼がなにをまくしたてていたのか、美雪も真誠ももはや全く頭に入っていない。
「はいはい聞いてる聞いてる。で?爆弾を解除出来るのか出来ないのかハッキリしろ。」
あしらうように真誠が告げる。その言葉も、美雪にとっては意味が分からない。
能力で作られた爆弾を解除するなど、聞いたことがない。
「当然出来る。」
「…えっ?」
騒音のような男が、打って変わって静かに断言した。
明かりを灯し、彼の真剣な表情が照らし出される。黒曜石のような瞳が、親友の身を案じるように真っ直ぐに光る。
「だがこの女にしてやるとはひと言も…」
待っていました、というように真誠の口元が笑みを浮かべるのを、美雪は見てしまった。
「あーぁ、俺にかけられた弟の能力すら解除できないんだから、やはり口だけかー。あの安倍晴明ともあろう奴が…」
「”はるあき”だと言ってるだろう!!貸せ!!このトンチキ女たらし!!時限式なんだろう、さっさと解除するぞ!!」
計画通り。そんな言葉さえ、真誠からありありと聞こえてきそうだ。
完全に、晴明は真誠の手のひらで転がされている。
(解除…?解除って、どういうこと…?)
混乱する美雪をよそに、1枚の札を持ってきた晴明が彼女の前に膝をつく。
「…女」
「…?」
固く、静かな声で晴明は美雪を呼んだ。
視線だけを向けると、鋭利な黒曜石が美雪を射抜く。
「この男は馬鹿だが無策ではない。それに乗じてやるが、怪しい動きをすればすぐ捕縛するからな。」
「…」
そしてかれは深呼吸をひとつ。
「…青龍、力を貸せ。」
ポツリと空中にそんな言葉をおく晴明。
そして彼は剣印を組み、口元に寄せた札へ呪文を込め始めた。
「オン アミリタ テイセイ カラ ウン、四神・青龍の名の下に下す、急急如律令…!」
腕輪に貼り付けられる札。ツキン、と刺すような細い耳鳴りと共に、一瞬灯った青い炎。
その炎が静かに燃え尽きた時、真誠は美雪の腕輪の金具に手を伸ばした。
「ちょっ、と…!!」
外せば爆発する。
そう焦ったのは美雪だけ。
その焦りすら杞憂だと言うように、カチャン…と軽い音がする。
「………え」
腕輪が、外れた。火花1つさえあげることなく。
揺れる明かりに照らされた腕輪が、何でもなかったようにそこにある。
呆然としている美雪に解説をするように、晴明が口を開いた。
「…言っておくが、完全に消した訳じゃない。アヘン由来の異能など、所詮は紛い物だ。純粋な気の力を用いる陰陽術の方が優位。だから一時的に無効化出来るだけ。…1分もすれば、本来の効果を取り戻すぞ、その腕輪。」
「…!」
一筋の光が見えたのも一瞬だ。
晴明の言葉に美雪の血の気が引いたのと、真誠が動き出したのは同時だった。
パチンと呆気なく解かれた、手足の拘束。
美雪を解放した途端、真誠は例の腕輪を晴明からひったくり、彼を押しのける。
そしてそれを美雪に差し出し、彼は告げた。
「ほら、選べ。この爆弾をそこの庭に投げ捨て、俺の嫁になるか否かを。」
「………は!?」
何という二択。驚愕の声が口をついたのも無理はない。
だがいくら疑っても、目の前の標的は大まじめだ。
雲が流れ、雪見窓から差す月明かり。
大木の幹を思わせる焦げ茶の瞳に、一筋の光。
「俺の手を取れ。そうすれば、俺が、お前の望む世界を作ってやる」
「っ…」
侯爵家の、妻。
それは、美雪にとっての蜘蛛の糸。
地獄から這い上がるための、細い細い希望。
掴んでみるしか、ないのだろう。
美雪は真誠の手にある腕輪を握りしめる。
そして部屋の奥へと駆け出し、勢いよく窓を開けた。
吹き付ける北風。
それに向けて、大きく振りかぶる。
(もう、殺しはイヤだ…!!)
空中に、腕輪が放られる。
妙にゆっくりと弧を描く軌道。冷たく光る無機質な銀色。
その瞬間
まるで花火が至近距離で弾けたような眩しさが美雪を襲った。
腕輪が、大爆発したのだ。
「っ…!」
覚悟していた熱風は、壁のように宙に光る五芒星に遮られていく。
真誠と晴明が居なければ、自分はあの腕輪のように今頃粉々だっただろう。そう思うと、生きた心地がしない。
「美雪。」
嬉しそうな声に呼ばれ、思わず振り向く。
すると、間髪入れずに抱きしめられた。真誠の体温が、いやに熱い。
「ちょっと…!ん、」
文句は、重なった唇に溶かされた。
大事だと伝えてくるような、触れるだけの口づけ。
「…これからよろしく、我が妻よ。」
「っ………!!」
何度言われても、やはり意味がわからなかった。
侯爵家当主の花嫁は、現役の殺し屋なのだから。
【続】
