冷徹軍医の最愛嫁 ~無能の妻は、夫の愛に気付かない~

 帰路の最中では多く語られなかった。
 内部犯を疑っていたこと、千鶴の異能が久我に露呈したこと、勝手に作戦が決まっていたこと。
 それらを聞かされた後、離れでの暮らしを吐かされた。

「紫苑様。いくらなんでもやりすぎでは……?」
「仕えるべき主をはき違え、あまつさえ食事も満足に与えなかった使用人など必要ない」

 敷き布団の上で横抱きにされた千鶴は紫苑の膝の上で眉を下げた。
 紫苑が家を空けていた三ヶ月の間、離れで千鶴を貶め続けた女中たちは、紫苑と千鶴の帰宅と同時に解雇されたのだ。
 紹介状も持たされず首を切られた彼女たちは、今後華族の屋敷で働くことはできないだろう。
 千鶴を抱きしめる腕に力がこもる。

「えっと、紫苑様」
「なんだ」
「そろそろ下ろしてほしいのですが……」
「断る」
「ど、どうしてですか」
「どうしてだと思う?」
「っ、えっと、その」

 色気たっぷりの微笑みが千鶴を見下ろしている。
 何をされたわけでもないというのに、千鶴の体が真っ赤に染まった。
 ますます笑みを深くした紫苑が乞うような声色で問う。

「千鶴。愛している。これら先も僕とともに生きてくれるか」
「も、もちろんです。祝言を挙げた日から紫苑様とともに歩むつもりでしたよ」
「そうか」
「それに、わ、私も、紫苑様を……お慕いして、おりますし……」
「っ」

 尻すぼみになってしまった言葉は紫苑の耳にも届いたようで、彼の頬をほんのりと染めた。

「口づけがしたい。いいか?」
「っ」

 紫苑の手が千鶴の頬へと添えられた。
 髪を払うような仕草に、千鶴の胸が早鐘を打ちはじめる。
 千鶴はぎゅっと目を瞑り、おずおずと頷いた。

「可愛い」

 小さく笑った紫苑の声と緊張する千鶴の吐息が重なった。