嘘から出たMAKOTO

 やがて、近藤さんはガラケーを持って戻ってきた。

「すまない。総司たちとも連絡がついたから、これからこちらに向かうと。しかし……本当に我らがここに厄介になっていいのだろうか?」
「うーんと、そのことについてはおじいちゃんが許可を出した以上、私たちはなにも言いません。と言いますか、そもそもこちらの世界での食い扶持のためにアイドル活動をしていたそうですけど。そのお金はちゃんと取ってますか? さすがに……」

 さすがにここに、男四人の食費を出せと言うのは、ケチ臭いんだろうか。私もバイト代が入るのは月末だから、タダで泊めますなんて言いづらい。
 私がふがふがと口を動かしていたら、近藤さんはニコリと笑った。

「問題ない。さすがにとしがいないから苦労したがな。ちゃんと手当てはいただいておる」
「それはよかったです。せめてその……食費だけでもお母さんに渡してはくれませんか?」
「もちろん」

 としはあれかな。土方歳三(ひじかたとしぞう)さん……新撰組における副長であり、新撰組の金策は専らこの人がしてくれていたらしい。ただ、この人がこちらの世界にいなくてよかったかもしれない。この土方さんって人、私の世界だったら独身だったみたいだけれど、その割には婚約者はいたし、現地妻や妻子を名乗る人が大勢いたから、あまりにもアイドル活動とこの人の女関係が合わな過ぎる。それだけイケメンだったってことなんだろうけれど、そのせいで毎日毎晩炎上騒ぎを起こしていたら、物の怪退治や洛陽動乱捜しどころではなかっただろう。
 私はひとりでほっとしていると、門のほうが騒がしくなった。

「近藤さんが言ってた場所ってここ?」
「おお、懐かしいな。試衛館みたいな場所、この世界にもあったか!」
「沖田さん、永倉さん、声が大きいですよ。ここは住宅街みたいですからお静かに」

 男三人のガヤガヤした声……ひとりはなんとかふたりの声を押しとどめようとしているものの……が響いてきた。
 三人の声に、途端に近藤さんはパッと顔を明るくさせる。

「おお、総司たちだ! すまない、呼んでもかまわないだろうか?」
「それはもちろん。そのためにお呼びした訳ですし」
「かたじけない。総司! 新八! 平助! ここだ!」

 近藤さん、あなたが一番声が大きい。
 私が閉口している間に、ぞろぞろと入ってきて、私はその顔面偏差値の高さに、思わず目を細めてしまった。
 まずは沖田さんだけれど。この人は公式でも性別不明で通っているけれど、私も肉眼で見られる距離に来たものの、この人がどちらかさっぱりわからない。肌はきめ細やかで、髪の毛は綺麗なボブカット。だんだら羽織を羽織っていてもちっともコスプレ感が出ないのは、その怜悧で中性的な仕草のせいだろう。
 永倉さんは、近くで見るとものすごく大きい。縦にはもちろんのことだけれど、羽織を着て袴を穿いていてもなおわかる筋肉隆々とした胸板は威圧感があり、いったいどれだけ実戦に出ていたんだろうと振り返ってしまうくらいだ。
 最後に唯一威圧感もなにも感じなかった藤堂さん。身長は多分私と同じくらいだろう。どこからどう見ても男の子とわかるのに、その大きな目、はっきりとした顔立ちは美少年と見とれてしまうのにふさわしい。
 この人たちがMAKOTOで……マルチバースにおける新撰組なんだと、思わずまじまじと見てしまった。
 私の視線に気付いたのか、途端に沖田さんが毒づいた。

「で? この子が近藤さんが気に入った子? なんかこちらをじろじろ眺めてくるんだけど大丈夫なの、本当に?」」
「こら、総司。つね殿は、我らが夜な夜な物の怪退治を行っていたら、こちらの法に抵触してしまうおそれがあるから、宿を提供しようと言ってくれたのだ。あまり横柄な口を利くもんじゃない」
「ふうん、ごめんなさい」

 沖田さんは意外と近藤さんには素直に謝った。沖田さんからしてみれば、ファンの下心に警戒しているのかもしれないな。私は慌てて手を振る。

「あ、お気になさらず。私もただ近藤さんに助けていただいた恩をどうにか返したかっただけですし」
「はあ? なんで君に謝ったことになってる訳?」

 途端に冷たく返された。
 うわあん、動画のまんまじゃない。沖田さん、どういう理屈なのか、近藤さん以外には社長さんだろうが同じMAKOTOのメンバーだろうが全方位に対して塩対応なんだ。
 それに慌てて藤堂さんが取りなしてくれた。

「沖田さん、そういうのはいただけませんよ! 本当に、こちらでは銃刀法違反なるものがあるのは承知ですが……霊験あらたかな刀でなかったら物の怪は斬れないのは事実。どうかこのことはご内密にお願いしますね」
「か、かしこまらないでくださいよ! 私も本当にたまたま通りかかっただけですから!」

 藤堂さんは藤堂さんで、近藤さんとは別ベクトルの仰々しさを醸し出していた。そこまでされる覚えはないから、あまり気にしないでほしい。
 私がブンブンと手を振っている中、永倉さんだけは黙り込んでいた。

「あ、あのう……とりあえず中に案内しますから。ごゆるりとお過ごしください。ねっ?」
「……わりい、おう」

 本当にぶっきらぼうに声が還ってきた。
 ……動画で見た通りなんだなあ。永倉さんの女性の苦手っぷりは。一番小柄な藤堂さんはもちろんのこと、この四人の中で一番細身の沖田さんの後ろから出てこない。体が一番張っている人だから丸見えなのに。
 あれだな、本当に女性が苦手なんだな。
 私が思わず笑いながらも、MAKOTOの皆を案内した。

「皆さんにお貸しするのは、この道場。トイレ……わかりますか?」
(かわや)ですよね?」
「はい。道場のトイレはそちらになりますね。その隣が掃除道具入れ。その隣が給湯室で、そこで調理ができます。必要な食材がありましたら、こちらで出します」
「かたじけない」
「布団はここにある合宿用の物置にある布団です。お風呂はこちらになります」

 うちのおじいちゃんが定期的に段の検定などを行う集中合宿を行っていたおかげで、人がしばらく滞在できるものはあらかた揃っていた。今もここは集会所として使われているから、捨ててなかったんだ。
 最後に「服などは、さすがに用意できないんで、ここにある胴着くらいしか貸し出せませんけど……」と言うと、近藤さんは軽やかに笑う。

「つね殿。本当になにからなにまでかたじけない」
「い、いえ! 本当に乗りかかった舟ですし!」
「ここまで至れり尽くせりで申し訳ない。物の怪退治も、洛陽動乱捜しも、なるべく手短に終わらせるので、その間だけでも、なにとぞよろしく頼む」
「あ……はい」

 近藤さんの実直過ぎる言葉に、胸がキュンとするのと同時に切なくなった。
 そうだよね……MAKOTOが活動停止したのだって、本職である物の怪退治がおろそかになっていたからだし……彼等は元々は別世界の人。物の怪退治が終わって、物の怪召還を行っていた犯人が捕縛できたら、還ってしまうんだろう。
 悲しいけど……私は応援しかできないもんな。

「いえ! お気になさらず! なにか用があったらいつでもお声かけください!」
「うるさい。なんで君そこまで恩着せがましいの」

 相変わらず沖田さんが手厳しい中、今晩は解散となった次第だ。