嘘から出たMAKOTO

 私は近藤さんとお話をしてから、前々から考えていたことをおじいちゃんに話しに出かけた。

「おじいちゃん」
「なんじゃ」
「私の破門について、ずっと考えていたことがあります」
「ふむ」

 おじいちゃんは母屋の和室に住んでいる。和室にはおばあちゃんのお仏壇があり、今は火事の危機とかがあるから、法事のとき以外は線香を焚くことはせず、電源を繋いで電気線香を使っていた。
 おじいちゃんはちりんを鳴らして一度おばあちゃんい拝みつつ、私に振り返った。

「やり方を間違えたと思っているけれど、今も私は、あの子をぶん殴ったこと自体は間違ってないと思ってました」
「間違っていなかったら、わしも破門はせんよ」
「……うん、でも、MAKOTOの皆と出会って、ご近所が物騒だからって見廻りしてくれるようになってわかったことがあるんだ……人を助ける、人を守るって、生半可なことじゃないできないねって」
「で? 破門を解いてほしいと? 生憎じゃが、わしは既に腰をやってるからもう道場を再開したりはせんよ」
「おじいちゃんにそんな無茶はさせられません。そうじゃなくってね。私、居合道習いたいと思っているの」
「……唐突じゃな」

 剣道と居合道は、同じ剣術武道ではあるものの、剣道は竹刀や木刀を使うのに対して、居合道は真剣を使うのだから、余計に鍛錬も厳しいものになる。
 わかっているけれど、新撰組の皆と出会い、一緒に行動したり彼等が戦っているのを見て、考えたことがあった。
 私は背筋を伸ばす。

「本来暴力は暴力だから、誰かのためにっていうことすら、言い訳にならないと思ってる。だからこそ、その暴力をどこに向けるかはずっと考え続けないといけないと思ってる……私は、MAKOTOの皆と出会って交流して、やっぱり、ちゃんと間違っているものは間違っていると言えるようになりたいなと思ったんだ」
「それで居合道を? 余計に人を守るために真剣を使うとか言い出したら、わしも止めるぞ」
「違うよ! MAKOTOの皆さんって、本当に太刀筋とか捌き方とか尋常じゃなくって、私じゃもう絶対に真剣振るっちゃ駄目だって思い知らされたもん! だからね」

 背筋をピンと伸ばして、頭を下げた。

「……それでも、皆は私の目がいいことだけは認めてくれた。最近なにかと物騒だし、物騒なことから、誰かが巻き込まれてたら手を掴んで逃げるくらいはできるようになったほうがいいと思ったの。だから真剣を学んで、有事の際に逃げる方法を学んだほうがいいと思った。私はもう、試合以外で誰かに剣を向けたりしない。でも、誰かをちゃんと助けられる自分になりたい」
「……やっと、なにが間違っとったか、わかったようだな」

 おじいちゃんはよっこいせと、杖を使って立ち上がった。そして私を見下ろす。

「いいか、つね。人は絶対に間違える。正しい人間だって、その正しさに固執したらいつか必ず道を踏み外す。残念ながら教えていた警官にも、そんな連中はいくらでも見てきた」
「……うん」
「だからな、つね。人間は間違えるということだけは念頭に入れておけ……あの若人連中、何者かはよくわからぬが、ずいぶんとまあ業を背負った者ばかりだからな。ついていくのは大変かもわからぬが」
「おじいちゃん。近藤さんたち、アイドル休業するから、もういなくなるんだよ? なにを今更」
「いやなに、力を持つということは、同時に厄も呼び起こす。あれも厄介な生き方をしておろうな」
「ええ……?」

 なんでそんなとんでもないこと言うの、おじいちゃん。
 もうあとは、新撰組にいるっていう、マルチバースや物の怪について研究をしている人が、原因を究明して解決すれば帰れるはずなのに。

****

 新撰組がやっとガラケーで向こうとやり取りできるようになったからと、私は見送りのために道場に来ていた。ガラケーの連絡した文字には【山南敬助(やまなみけいすけ)】と出ている。たしか新撰組の総長のはずだ。総長は局長や副長の次のナンバー3くらいの役割らしいけれど。

「もしもし、山南くん。首尾はどうなっているかな?」
『ああ、近藤さん。すみません』

 声色は落ち着いている人は、ずいぶんと苦笑交じりに返してきた。なんだろうな。私は変な違和感を覚えつつ、黙って話を聞いていた。

『先日、無事に洛陽動乱の面子を捕縛のち、こちらに送還してくれたでしょう?』
「うむ、無事についたか?」
『ええ。無事に着きましたから、彼等はきちんと出るところに出てもらいました。それで本痔亜ですが』

 山南さんは困った声を続ける。
 それに私はわからないという顔をしていたら、沖田さんがなんとも言えない顔をしていた。

「山南さん、割と要件はすぐ言うほうなのに、これだけ長く伸ばしてるってことは、あんまりいいことないんだあ……」
「そ、それって、まずいんじゃないですかね?」
「うん。すっごくまずい」

 その言葉にハワワとなっていたら、山南さんがとんでもないことを言ってのけた。

『この際に、こちらとあちらを繋げる道が広がってしまい、新撰組から一部が流れていってしまいました。また、どうもこちらとあちらの間を繋げる道にいるはずの物の怪も大量に発生してしまい、こちらでもなんとか成敗していますが、そちら側にも流れてしまったかもしれません。迎撃してくださいね』
「なっ……!」
「なっ……!」
「なんで!?」

 全員思わず叫んでしまった。
 あれだけ呪符を回収して、なんとか巨大物の怪の召還は食い止めたというのに、またしても物の怪退治に明け暮れないといけないのか!?
 私は思わず振り返って尋ねる。

「あ、あの……大変じゃないですか! でも、皆さんアイドル家業は……」
「なんとか社長殿にアイドル家業を時短でできないかと尋ねなければならぬな」
「アイドルの時短ってなんですか!?」
「まあ、こっちも飯はうめえし、しばらくはなんとかこっちでやってみるしかねえわなあ」

 永倉さんがそうあっさり言う中、藤堂さんは渋い顔だ。

「ですけど、こちらに新撰組のメンバーが流れたっていうのは、結構大変なことじゃないですか? それに……洛陽動乱は自分たちが捕縛される際、なにをやらかしたのかまだわかりませんし」
「あの……新撰組の皆さんがこちらに流れてきたのって、洛陽動乱関係あるんですかね?」
「わからん。そもそも物の怪使いの術式ってのも、俺たちだとさっぱりわからなくって、山南さんくらいしかそれをまともに研究しているのがいなかったからなあ……」

 なんかよくわからないけれど、大変そうだということだけはなんとかわかった。
 近藤さんは伏せ目でしばらく思案の表情を浮かべたあと、ニコリとする。

「あいわかった。としたちは見つけ次第回収しよう。では、引き続き元の世界に帰るための道を開く作業を進めてもらってかまわぬか?」
『それは問題ありません。こちらもさすがにこの道を下手に悪用されても駄目ですから、考えなければなりませんしね』
「マルチバースなんて、最悪いろんな陣営から悪用されかねんからな」

 それで電話を切った。
 私は近藤さんを見上げる。

「なら……しばらく帰らないってことでいいですか?」
「すまんな、つね殿。貴重な情報をあれこれ教えてくれたというのに、まだそれを活用できまいよ。しばらくは厄介になるが、かまわないだろうか?」
「い、いえ! うちでよかったら、いくらでも!」
「ああ、かたじけない」

 そうにっこりと笑う顔に、体温が上がっていくのを感じた。

 マルチバースからやってきた新撰組には正義があって、その正義は認められないという。でも私は、彼等が優しい人たちだと知っている。
 今はまだ、その彼等の生き様を見守りたいって、そう思ってしまったんだ。

<了>