いよいよ。MAKOTOと洛陽動乱のタイバンの日が近付いてきた。
私は琴ちゃんとライブのために応援団扇を百均のアイテムを使ってペタペタとつくっている。
「いよいよMAKOTOと英太郎くんのタイバンライブはじまるよねえ、和風アイドルがふた組なんて強気なこともなかなかないけど、それをタイバンさせようって、事務所も強気だよね」
「うん、そうだね」
琴ちゃんは団扇をつくる際に新撰組のだんだら羽織の模様を色紙で切り抜きながらつくりつつ、フォントで【MAKOTO最高!!】と大きく入れている。
私もどうしようと考えた結果、表には【MAKOTO最高】と文字をラメ入りの色紙で入れ、裏には【英太郎くん】と文字を金ぴかの折り紙で入れた。
私がなんとも言えない顔でペタペタと文字を貼り付けてる中、「ねえ、つねちゃん」と琴ちゃんに声をかけられる。
「やっぱり変だよ? 最近のつねちゃん。情緒不安定というか。折角英太郎くんもMAKOTOも復帰したのに、こんなにヘコんでてさ。なにかあった?」
「うーん……」
どう話そう。まさか琴ちゃんに、「MAKOTOは元の世界に帰っちゃうし英太郎くんは捕縛されちゃうから、今回が見納め」なんて本当のことを言っても仕方がない。というより、そんな話をMAKOTOと英太郎くんどちらのファンに言っても卒倒してしまう。
私はなにを言うべきかとゴニョゴニョして、ひとつだけ言えることを思いついた。
「……推しを好きになっちゃった場合って、どうすればいいんだろ」
「え? もしかして……ガチ恋?」
「ガチ恋」
アイドル好きとして、推し活とガチ恋はいろいろと抱えている感情が違い過ぎて、両者はわかり合えないことが多い。私だって、推しを好きになるのはいろいろと無理だし駄目だろうと思っていたけれど……。
一緒にしゃべって、人となりを見て、それで好きになってしまった場合、いろいろと駄目じゃないかと、ずっとお腹が苦しい。
琴ちゃんはそれに「うーん……」と考え込む。
「それで、相手に対して告白したいー、とか、ライブでなにかいっちょ打ち上げたいー、とかだったら、私はつねちゃんを殴ってでも止めないといけないと思うけど」
「暴力反対」
「私だって暴力は嫌いだよ。でも同じ推し活をする者同士として、推しに迷惑をかける相手は、たとえ友達でも止めないといけないと思ってるから。でも、つねちゃんはそういう感じじゃないよね?」
「そう見える?」
「ライブ会場で相手に見つけてもらうためだけに恥ずかしい格好するタイプじゃないじゃない、つねちゃんは」
いるもんなあ、本当に同じアイドルを推していても、恥ずかし過ぎて一緒にされたくないタイプの人は。私はそんな恥ずかしいこと、もう赤の他人でもないのにできる訳がない。私は頷く。
「そんな恥ずかしいことは、さすがに絶対にできない」
「そっか。なら私は止めることはできないよ。でもごめんね。先に言っておくけど、応援だけはできない」
「ありがとう、そこでしっかりと介錯してくれて」
「そりゃまあ。人に恋するのって、楽しいけど視野がものすっごく狭くなって、他のもの見えなくなっちゃうから。それで人にものすっごく迷惑かけても全然気付かないくらいに、視野が相手以外眼中になくなる。だから推しに恋するのだけは、絶対に絶対に迷惑になるから駄目だって私は思ってるから。でも、ただ好きなだけ、ただ見てれば幸せっていうのだったら、それを止めたりなんてできないよね」
「……そうかな」
「そうだよ。だから言ったでしょう? 私は応援はできない。でも好きって気持ちはブレーキなんか利かないから止められないよ」
琴ちゃんにそう言われ、私は俯いてしまった。
いい人って、実は誰のことも好きじゃないとか。公平過ぎることは不公平だとか。結構汚い言葉をぶつけられてしまうけれど。私は近藤さんのなにが好きって、あの人の優しさには全く理由がないけれど、誰かを助けたいって気持ちも、誰かの傷みをなくしたいてって気持ちにも、裏がないと信じられる。
いい人でいるのって、悪い人に利用されやすいし、騙されやすいのに、それでも本当にずっといい人でいる彼に憧れてしまった。その人が痛くないように騙されないようにと祈ってしまった。
隣にいたい、傍にいたいなんておこがましい考え方はできないけれど、いつでも幸せを祈っていたいと思うくらいには、私はあの人のことを好きになってしまった。
でも……。
近藤さんはこちらの史実をどこまで知っているんだろう。
新撰組は池田屋騒動で名を挙げたあと、たくさんの試練が待っている。
身内同士の粛正、戦争で負けて朝敵……守っていたはずの帝に見捨てられて、自分たちが京を守るために戦っていたって大義名分を奪われてしまう。
そのあとの新撰組は悲惨過ぎて……特に、史実における近藤さんの最期はあまりに悲し過ぎて、とてもじゃないけれど、マルチバースから来た近藤さんには伝えることができなかった。
元の世界に帰る際に、せめて伝えられないんだろうか。ちょっとはいい方向に進むように言えないんだろうか。でもな……。
近藤さんはそれを聞いてくれないような気がする。裏切られると教えても、騙されてると伝えても、そこで信じることを諦める人には、とてもじゃないけど思えないから。
本当に、どうしたらいいのかなと、考え込んでしまったんだ。
****
そこそこ可愛く見えつつおしゃれ過ぎないカットソー。長過ぎず短過ぎないフレアスカート。そしてつくった団扇。後ろの席の人に邪魔にならない程度のデコレーション。私の格好も持ち物も、はっきり言ってしまえば「無難」というものだった。
直販のライトを買いに物販ブースを並んだものの、結局売り切れてて買うことができず、既に通販でゲットしていた琴ちゃんからひとつ譲り受けてライトを振ることになった。琴ちゃんは綺麗めワンピースに団扇、応援用のファングッズたっぷりのバッグと、推しのライブに行くには充分だった。
「本当に……久しぶりのライブだから気合いの入ったファンが多いね」
「そりゃそうだよ、MAKOTOと洛陽動乱のタイバンなんて、次いつあるかわからないんだから」
もうないよ。ないんだよなんて。
本当のことは言えないんだから。
私たちは席に辿り着くと、そこで待っていた。
私たちの取れた席は二階。一番ステージを俯瞰できる、二階席の一番前だから、まずまずいい席だ。
会場はこの街でも一番の会場で、二階席までだけれど、その分どこにいてもステージは絶対に目に入るという気配り具合だった。頭に余計なものを付けてなくて、服にも余計なことしてなかったら、どの席に座ってもちゃんと見える。
私たちはそこからライトの準備をしていたところで、会場の電源が切れた。途端にスモークが立ちこめ、大きな音と一緒に鼓膜がブワリと広がる感覚に陥る。
『皆の者ー! あいや、大変待たせたな! 我らMAKOTOのライブ、楽しんでいってくれ!』
『皆、ただいま! 英太郎です。僕の仲間と結成したユニット洛陽動乱のライブ、楽しんでいってください』
途端に割れんばかりの歓声と、大きなBGMが広がる。時には感極まってむせび泣く声も響いてくる。
私もお腹も胸も痛くなって、歌いはじめた途端にオイオイと泣き出してしまった。
普段はどれだけ霊験あらたかな刀を携えて戦っていても、今の彼等はアイドルだった。MAKOTOだった。歌って踊って、そして皆に手を振ってくれる。
そして英太郎くんや洛陽動乱。彼等もまた、輝かんばかりの笑顔で歌って踊って手を振ってくれる。
彼等が夜中に戦っていたことも、この街に巨大物の怪を召還するための呼び水として物の怪を大量にばら撒いたことも、当事者以外は誰も知らない。
この歓声も、この歌も、この心躍る感覚も、きっと今だけ。明日からはもうなくなっちゃうもの。
もう二度と見られないのだとしたら、せめて忘れたくない。この音も、この笑顔も、この気持ちも。
私はずっと泣きながら、団扇を振りながら見ていた。ふいに、ステージから近藤さんが手を振っていたような気がした。私たちの近くの席が歓声を上げて、手を振り返す。
私は近藤さんにどの席を取れたか伝えてない。
まさかね、まさか。私はそう思いながら、琴ちゃんと一緒に手を振り替えしていた。
泣き続けたことは、気付かないなといいなと思いながら。
私は琴ちゃんとライブのために応援団扇を百均のアイテムを使ってペタペタとつくっている。
「いよいよMAKOTOと英太郎くんのタイバンライブはじまるよねえ、和風アイドルがふた組なんて強気なこともなかなかないけど、それをタイバンさせようって、事務所も強気だよね」
「うん、そうだね」
琴ちゃんは団扇をつくる際に新撰組のだんだら羽織の模様を色紙で切り抜きながらつくりつつ、フォントで【MAKOTO最高!!】と大きく入れている。
私もどうしようと考えた結果、表には【MAKOTO最高】と文字をラメ入りの色紙で入れ、裏には【英太郎くん】と文字を金ぴかの折り紙で入れた。
私がなんとも言えない顔でペタペタと文字を貼り付けてる中、「ねえ、つねちゃん」と琴ちゃんに声をかけられる。
「やっぱり変だよ? 最近のつねちゃん。情緒不安定というか。折角英太郎くんもMAKOTOも復帰したのに、こんなにヘコんでてさ。なにかあった?」
「うーん……」
どう話そう。まさか琴ちゃんに、「MAKOTOは元の世界に帰っちゃうし英太郎くんは捕縛されちゃうから、今回が見納め」なんて本当のことを言っても仕方がない。というより、そんな話をMAKOTOと英太郎くんどちらのファンに言っても卒倒してしまう。
私はなにを言うべきかとゴニョゴニョして、ひとつだけ言えることを思いついた。
「……推しを好きになっちゃった場合って、どうすればいいんだろ」
「え? もしかして……ガチ恋?」
「ガチ恋」
アイドル好きとして、推し活とガチ恋はいろいろと抱えている感情が違い過ぎて、両者はわかり合えないことが多い。私だって、推しを好きになるのはいろいろと無理だし駄目だろうと思っていたけれど……。
一緒にしゃべって、人となりを見て、それで好きになってしまった場合、いろいろと駄目じゃないかと、ずっとお腹が苦しい。
琴ちゃんはそれに「うーん……」と考え込む。
「それで、相手に対して告白したいー、とか、ライブでなにかいっちょ打ち上げたいー、とかだったら、私はつねちゃんを殴ってでも止めないといけないと思うけど」
「暴力反対」
「私だって暴力は嫌いだよ。でも同じ推し活をする者同士として、推しに迷惑をかける相手は、たとえ友達でも止めないといけないと思ってるから。でも、つねちゃんはそういう感じじゃないよね?」
「そう見える?」
「ライブ会場で相手に見つけてもらうためだけに恥ずかしい格好するタイプじゃないじゃない、つねちゃんは」
いるもんなあ、本当に同じアイドルを推していても、恥ずかし過ぎて一緒にされたくないタイプの人は。私はそんな恥ずかしいこと、もう赤の他人でもないのにできる訳がない。私は頷く。
「そんな恥ずかしいことは、さすがに絶対にできない」
「そっか。なら私は止めることはできないよ。でもごめんね。先に言っておくけど、応援だけはできない」
「ありがとう、そこでしっかりと介錯してくれて」
「そりゃまあ。人に恋するのって、楽しいけど視野がものすっごく狭くなって、他のもの見えなくなっちゃうから。それで人にものすっごく迷惑かけても全然気付かないくらいに、視野が相手以外眼中になくなる。だから推しに恋するのだけは、絶対に絶対に迷惑になるから駄目だって私は思ってるから。でも、ただ好きなだけ、ただ見てれば幸せっていうのだったら、それを止めたりなんてできないよね」
「……そうかな」
「そうだよ。だから言ったでしょう? 私は応援はできない。でも好きって気持ちはブレーキなんか利かないから止められないよ」
琴ちゃんにそう言われ、私は俯いてしまった。
いい人って、実は誰のことも好きじゃないとか。公平過ぎることは不公平だとか。結構汚い言葉をぶつけられてしまうけれど。私は近藤さんのなにが好きって、あの人の優しさには全く理由がないけれど、誰かを助けたいって気持ちも、誰かの傷みをなくしたいてって気持ちにも、裏がないと信じられる。
いい人でいるのって、悪い人に利用されやすいし、騙されやすいのに、それでも本当にずっといい人でいる彼に憧れてしまった。その人が痛くないように騙されないようにと祈ってしまった。
隣にいたい、傍にいたいなんておこがましい考え方はできないけれど、いつでも幸せを祈っていたいと思うくらいには、私はあの人のことを好きになってしまった。
でも……。
近藤さんはこちらの史実をどこまで知っているんだろう。
新撰組は池田屋騒動で名を挙げたあと、たくさんの試練が待っている。
身内同士の粛正、戦争で負けて朝敵……守っていたはずの帝に見捨てられて、自分たちが京を守るために戦っていたって大義名分を奪われてしまう。
そのあとの新撰組は悲惨過ぎて……特に、史実における近藤さんの最期はあまりに悲し過ぎて、とてもじゃないけれど、マルチバースから来た近藤さんには伝えることができなかった。
元の世界に帰る際に、せめて伝えられないんだろうか。ちょっとはいい方向に進むように言えないんだろうか。でもな……。
近藤さんはそれを聞いてくれないような気がする。裏切られると教えても、騙されてると伝えても、そこで信じることを諦める人には、とてもじゃないけど思えないから。
本当に、どうしたらいいのかなと、考え込んでしまったんだ。
****
そこそこ可愛く見えつつおしゃれ過ぎないカットソー。長過ぎず短過ぎないフレアスカート。そしてつくった団扇。後ろの席の人に邪魔にならない程度のデコレーション。私の格好も持ち物も、はっきり言ってしまえば「無難」というものだった。
直販のライトを買いに物販ブースを並んだものの、結局売り切れてて買うことができず、既に通販でゲットしていた琴ちゃんからひとつ譲り受けてライトを振ることになった。琴ちゃんは綺麗めワンピースに団扇、応援用のファングッズたっぷりのバッグと、推しのライブに行くには充分だった。
「本当に……久しぶりのライブだから気合いの入ったファンが多いね」
「そりゃそうだよ、MAKOTOと洛陽動乱のタイバンなんて、次いつあるかわからないんだから」
もうないよ。ないんだよなんて。
本当のことは言えないんだから。
私たちは席に辿り着くと、そこで待っていた。
私たちの取れた席は二階。一番ステージを俯瞰できる、二階席の一番前だから、まずまずいい席だ。
会場はこの街でも一番の会場で、二階席までだけれど、その分どこにいてもステージは絶対に目に入るという気配り具合だった。頭に余計なものを付けてなくて、服にも余計なことしてなかったら、どの席に座ってもちゃんと見える。
私たちはそこからライトの準備をしていたところで、会場の電源が切れた。途端にスモークが立ちこめ、大きな音と一緒に鼓膜がブワリと広がる感覚に陥る。
『皆の者ー! あいや、大変待たせたな! 我らMAKOTOのライブ、楽しんでいってくれ!』
『皆、ただいま! 英太郎です。僕の仲間と結成したユニット洛陽動乱のライブ、楽しんでいってください』
途端に割れんばかりの歓声と、大きなBGMが広がる。時には感極まってむせび泣く声も響いてくる。
私もお腹も胸も痛くなって、歌いはじめた途端にオイオイと泣き出してしまった。
普段はどれだけ霊験あらたかな刀を携えて戦っていても、今の彼等はアイドルだった。MAKOTOだった。歌って踊って、そして皆に手を振ってくれる。
そして英太郎くんや洛陽動乱。彼等もまた、輝かんばかりの笑顔で歌って踊って手を振ってくれる。
彼等が夜中に戦っていたことも、この街に巨大物の怪を召還するための呼び水として物の怪を大量にばら撒いたことも、当事者以外は誰も知らない。
この歓声も、この歌も、この心躍る感覚も、きっと今だけ。明日からはもうなくなっちゃうもの。
もう二度と見られないのだとしたら、せめて忘れたくない。この音も、この笑顔も、この気持ちも。
私はずっと泣きながら、団扇を振りながら見ていた。ふいに、ステージから近藤さんが手を振っていたような気がした。私たちの近くの席が歓声を上げて、手を振り返す。
私は近藤さんにどの席を取れたか伝えてない。
まさかね、まさか。私はそう思いながら、琴ちゃんと一緒に手を振り替えしていた。
泣き続けたことは、気付かないなといいなと思いながら。



