嘘から出たMAKOTO

 MAKOTOの皆がいなくなったのと、英太郎くんが物の怪らしきものを出していること。これって関係しているんだろうか。
 私は家に帰り、ご飯を食べながらも悶々と考えている。その中、お母さんが「ねえ、つね」と声をかけてきた。

「あのね、つねの好きなアイドルの英太郎くん復帰したって、今スマホに来てたのね」
「うん、私もバイト先の子たちに教えてもらったの。動画も見たよ。久々に英太郎くんのダンス見たけど、ほんっとうにキレッキレだった。どこで練習してたんだろうね」
「それなんだけどさあ、つね。MAKOTOの皆さんが出て行ってから、元気ないでしょう? 英太郎くん復帰したんだし、ライブ行けば? ほら、ファンクラブに入りっぱなしだったから、ファンクラブ限定ライブ行けるし」

 そう言ってお母さんが見せてくれた。
 英太郎くんのファンクラブは、彼が行方不明になってからも、会員費返却を受け付けて、それでもなお退会しないファンに向けて、細々と彼の見ていたドラマや舞台の無料閲覧権でファンを慰めてくれた。
 全盛期から考えると、もう残っているのは半分以下だけれど、ファン限定ライブも抽選率は高い。行けるかどうかなんて当日までわからないけれど。
 お母さんはやんわりと言う。

「行きなさいよ、MAKOTOの皆さんいなくなって元気なくなってたし、いい機会だから」
「……当たったらね」
「ほら、推しは増えるものだから。MAKOTOの皆さんがいなくなった替わりとか思わなくっていいからね」
「うん」

 私は食事を終え、洗い場に食器を浸けてから、お風呂の順番が終わるまで部屋に戻る。
 スマホで念のためファンクラブのサイトを見ると、お母さんが教えてくれたように、既に会員限定ライブの話をしていた。私は予定をざっと確認してから、ライブに行けるように抽選に応募する。
 もしもMAKOTOに会わなかったら、あの夜に近藤さんに会わなかったら、私はもっと英太郎くんの復帰になにも考えることなく喜べたんだろうか。
 私は動画に映っていた物の怪らしき真っ黒なエフェクトが頭にチラついて離れず、ライブに応募するときの華やいだ気持ちになることができず、ただ胸の奥にもやが溜まっていく感覚を覚えていた。

****

 ライブの抽選結果が出る日、私は琴ちゃんとショッピングモールで買い物に来ていた。

「せっかく英太郎くん復活したのに、浮かない顔だね? MAKOTOだって復帰ライブするのに。推しが被っちゃって複雑?」
「うーん、それはあるかも」
「それって、かつての推しを推す雰囲気にならなかったとか? 英太郎くんのダンスキレッキレだったし、ブランク感じさせないのはさすがだって思ったけどね。私もファンクラブに入ってたらよかったなあ……ファンクラブ限定ライブは残念」
「アハハ……」

 ネット情報は錯綜していて、今MAKOTOの皆がどうしているのかもわからないし、洛陽動乱の新情報は、ファンクラブ限定ライブで埋め尽くされていてよくわからないことになっていた。
 新撰組の皆は、洛陽動乱って自分たちの捜している術者集団と全く同じ名前のアイドルユニットが結成されたことについてどう思っているんだろう。私も本当のことがわからず、嬉しい気持ちはたしかにあるのに、素直に喜ぶことができずにずっともやもやしたまんまだよ。
 ふたりで買い物し、喫茶店でパンケーキとコーヒーをいただいてから、トイレに行った琴ちゃんを待って、トイレ前のベンチに座ってスマホを眺めていたら。

「すみません、隣大丈夫ですか?」

 私がベンチの端っこに座っていたからか、隣の広々としたスペースを指差して声をかけられた。私はちらっと顔を上げて、あれ。と思う。
 身長の高いお兄さんだった。ストローハットにトレーナーとガウチョパンツ。最近はアレルギー対策だったり喉の粘膜対策でマスクを付けている人も大勢いるから、アレルギー体質なのか体調不良なのかおしゃれなのかわからないマスクだなあと思いながら、私は「どうぞ」と頷くと、隣にお兄さんが座った。

「最近和風アイドル増えましたよね」

 そう話しかけられ、私は思わずスマホの画面をガバッと隠した。スマホには一応反射防止フィルターを貼っているものの、万能ではない。私が見ていたのは、和風アイドルのタイバンライブのお知らせを見ていたんだ。

「……ご存じでしたか」
「ええ、新撰組を模したアイドルユニットが結成されるなんて思いませんでしたし、休業していたのが復帰するなんて思いもしませんでした」
「詳しいんですね」
「ええ。一度追いかけられたことがありますので、こうして再び相まみえるとは思いもしませんでしたよ」

 その言葉に、私はヒヤリとした。

「あなた、ずいぶんと新撰組に気に入られたようですね。物の怪避けが施されていて、僕の術式がちっとも効きません」
「……っ!」

 私は思わず彼を凝視した。彼はマスクに指をかける。その顔を見た途端、私は息を呑んだ。
 その顔は見覚えがあるどころのものじゃない。毎日見ていたし、無事を心配したし、会いたくて会いたくてたまらなかったはずなのに、物の怪を呼び出す動画を見たら不安に駆られて仕方なくなった人。
 英太郎くんが、なぜか私の隣にいた。
「ファンです」なんて軽い言葉は出てこなかった。