新撰組は、元々それぞれ一番隊組長からそれぞれが局長副長の下に集まり、見廻りしてきた市中の意見交換をしながら、閣議をして回していた。
それが人数が減り、たった四人だけになった今でも変わらない。
最近、夜だけでなく昼にも見廻りが多くなっていた理由。それは、各地に呪符が貼られるようになったからだった。
食事を済ませ、母屋の皆には既に挨拶を済ませた今も、道場は閉め切ってもなお、四人は灯りを消すことなく、膝と膝を交えて話し合っていた。
円になり、それぞれ真紀子からコピーしてもらった街の地図を見ながら、討論を続けている。
「呪符を貼って回ってるってことは、もうこれはあれだよね。洛陽動乱が各地に根を張ってるってことだ」
沖田の言葉に、藤堂が小さく頷いた。
「いくらなんでもこれ以上は四人での手に余りますが……僕たちの世界に連絡は未だに通じませんし」
「応援呼べねえから、四人で対処するしかないにしてもな……昼間、よりによってつねの通っている学問所にも出やがった」
永倉の言葉に、全員が息を呑んだ音を立てる。それを聞きながら、ずっと近藤は腕組みをしている。
その中、沖田は頬杖を突きながら近藤に尋ねた。
「どうするの、近藤さん? いくらつねちゃんの目がよくって、僕たちだと気付かないところでも物の怪見つけられるからと言っても、あの子は刀を振るえる訳じゃないし、ましてや霊刀なしで祓える訳でもないよ? そろそろここから厄介になることも考えたほうがいいと思うけど?」
「そうか……総司はずっとつね殿を敵視してるように見えたが、心配するほど仲良くなっていたか、それはよかったな」
「別に……あの子は勝手に人のことを可哀想がったり同情したりしないから扱いやすいだけ」
近藤の穏やかで人のいい指摘に、相変わらず天邪鬼な沖田は、ふいっと視線を逸らしてのたまうが、それに藤堂はクスクス笑い声を立てながら頷いた。
「それは気に入っているってことだと思いますよ? 気持ちはわかりますけどね。つねさんはアイドルが好きだと言いながら、僕たちのことをあちこちに触れ回ったりしませんし、勝手に神格化したりしないんで、ありがたいですから」
「歌舞伎役者じゃあるめえし、そこまで神格化されても困るしな。まあ、つねはアイドル好きと言ってる割には、一線はきちんと引いてるからな」
基本的に穏やかな藤堂だけでなく、今日まで本当につねとまともに会話すらできていなかった永倉までそう言うので、沖田は若干醒めた目で永倉を睨んだ。
「なに? 今まで壊れそうで近付けないとか言って、もう誑し込まれたの? いくら女性に対して免疫ないからって、それはいくらなんでも早過ぎじゃないの?」
「違うわっ!? 人間的にいい奴だっつってんだよ。なんでもかんでも恋愛に結びつけんなや」
「はいはい。それは永倉さんもそうでしょ? 僕は一般的な指摘をしただけだから」
相変わらずの身内間のぐだぐだとした会話の応酬に、近藤は微笑みながら聞いていた。
「でもそうだな……本当のことを言ってしまえば、この松井道場を出て行ったほうが、つね殿には迷惑をかけないかもしれないが、我々は再び拠点を失うし、洛陽動乱を追い詰めるのには一歩足りないのは間違いないだろう」
「どうするおつもりですか?」
藤堂の問いに対して、近藤は笑顔で答えた。
「それならいっそのこと、もう一度我らの存在を誇示したほうがいいのではないかと思ってな」
「それって……」
「社長殿と話をしようと思う」
これで、拠点の確保、洛陽動乱の捕捉、どちらも叶うかもしれないが。
肝心の彼等を一度は引き取ってくれたつねの意見は、なにひとつ聞いていなかったのである。
****
物の怪退治というものは、どうしても穢れが生じる。
それが原因で、新撰組が京の安寧のために物の怪を倒したとしても、疎まれることはあっても感謝はされなかった。
洛陽動乱は彼等に好かれこそしなかったものの、彼等と敵対する新撰組を好ましいとも思われなかったのだ。
だから、世界を移動してしまい、物の怪の存在しない世界に辿り着いてしまい、そこでアイドルという、自分たちの世界で言うところの歌舞伎役者としてデビューした途端に、ここまで好かれることになるなんて思わなかった。
ずっと武術に励んでいたのだから、舞踏を習って、それを真似ることは、上手いか下手かはともかくそこまで悪くはなかったが、肝心の歌はなかなか上達しなかった。
こんなことする意味あるのか? そもそもそれは路銀稼ぎに都合がいいのか? この世界だと新撰組の羽織を着ていると勝手にコスプレ扱いされるから、いっそのことコスプレイヤーという名目でお金を集めたほうがいいのでは?
そんな話は何度も出たが。
特に閲覧数の増えない動画を上げている中、いつも誰かひとりが必ずいいねを押してくれることに気付いた。
「物好きがいたんだね」
総司は相変わらず素っ気ないことを言ったが、誰かひとりでも見てもらえるというのは、京での治安維持をしていた頃から、確実に必要なことだった。
やがて、それが他のサイトで流され、瞬く間に有名になったとき、最初からずっといいねを押してくれていた人の存在が見えなくなってしまった。
ずっと応援してくれていたはずなのに。
そんな相手は、どの世界にいてもなかなか得がたいものだというのに。
ライブをして、皆が喜んでくれた。その中で、ライブの活動と同時に、だんだん物の怪が増えていくのに気付いた。物の怪はこの世界にいるものと、俺たちの世界にいるものだと種類が異なる。
どうするかと皆で話し合った際、「もう路銀も貯まりましたから」と藤堂さんが言った。
「……アイドル活動をしなくても、もう大丈夫だと思います。物の怪を野放しにして、応援してくださった皆さんが傷付くのは、本末転倒ですから」
「そうだね。そもそも僕たちだって、洛陽動乱を問いたださないことには、帰る方法だってわかんないもんね。お金稼ぎや物の怪退治はあくまでおまけだし」
「おまけでもねえだろ。普通に危ねえんだし。でも、俺もそろそろ潮時だと思うぜ」
「そうか」
そう言いながら、一旦は俺たちを拾ってくれた社長殿の好意に泥を塗ってないかと一度謝りに行ったが。
その際、俺たちの申し出を、社長殿は腕を組んで話を聞いてくれていた。マネージャー殿はずっと慌てていた。
「そんな! やっと軌道に乗ってこれからどんどん売れていく時期なのに!」
「……うん。本当だったら、君たちは我々が拾った以上、その恩義を返さないといけないと思う」
「ですよね、社長!?」
「だけど、無理矢理続けても、いずかは応援していたファンが気付いてしまう。いわゆる推し活という形で、どんどん推しを増やしていくファンだったら問題ないが、問題はガチ恋勢だ。下手なことを言ってしまえば、君たちはそのファンに焼き殺されかねない」
「……ですが!」
「だから、休止という形を取りなさい。本当に気が向いたときでいい。君たちがアイドルを続けたいと思い立ったときはいつだって連絡をくれていいから。君たちは実直で真面目だけれど、たまにはちゃんと煙に巻くということを覚えたほうがいいよ」
「……! ありがとうございます!」
「あと、君たちのことを最初からずっと応援してくれていたファンがいたこと、忘れないようにね。君たちにとっては、ただいいねを数字にしか見えてないかもしれないけど。いいねひとつ分にはひとり分の人生があるのだから、それだけはくれぐれも忘れないようにね」
そう言われたことは、今でも覚えている。
そして。
「ファ、ファンです……! 初めて動画が上がったときから、ずっと……!」
たまたま物の怪から逃げ回っているのを助けた女人。
俺たちのことを目を逸らさずに真っ直ぐ見つめる彼女。社長殿が言っていたいいねの向こう側の住人に会えるなんて、まさかアイドルを休止するときには思いもしなかったのだ。
それが人数が減り、たった四人だけになった今でも変わらない。
最近、夜だけでなく昼にも見廻りが多くなっていた理由。それは、各地に呪符が貼られるようになったからだった。
食事を済ませ、母屋の皆には既に挨拶を済ませた今も、道場は閉め切ってもなお、四人は灯りを消すことなく、膝と膝を交えて話し合っていた。
円になり、それぞれ真紀子からコピーしてもらった街の地図を見ながら、討論を続けている。
「呪符を貼って回ってるってことは、もうこれはあれだよね。洛陽動乱が各地に根を張ってるってことだ」
沖田の言葉に、藤堂が小さく頷いた。
「いくらなんでもこれ以上は四人での手に余りますが……僕たちの世界に連絡は未だに通じませんし」
「応援呼べねえから、四人で対処するしかないにしてもな……昼間、よりによってつねの通っている学問所にも出やがった」
永倉の言葉に、全員が息を呑んだ音を立てる。それを聞きながら、ずっと近藤は腕組みをしている。
その中、沖田は頬杖を突きながら近藤に尋ねた。
「どうするの、近藤さん? いくらつねちゃんの目がよくって、僕たちだと気付かないところでも物の怪見つけられるからと言っても、あの子は刀を振るえる訳じゃないし、ましてや霊刀なしで祓える訳でもないよ? そろそろここから厄介になることも考えたほうがいいと思うけど?」
「そうか……総司はずっとつね殿を敵視してるように見えたが、心配するほど仲良くなっていたか、それはよかったな」
「別に……あの子は勝手に人のことを可哀想がったり同情したりしないから扱いやすいだけ」
近藤の穏やかで人のいい指摘に、相変わらず天邪鬼な沖田は、ふいっと視線を逸らしてのたまうが、それに藤堂はクスクス笑い声を立てながら頷いた。
「それは気に入っているってことだと思いますよ? 気持ちはわかりますけどね。つねさんはアイドルが好きだと言いながら、僕たちのことをあちこちに触れ回ったりしませんし、勝手に神格化したりしないんで、ありがたいですから」
「歌舞伎役者じゃあるめえし、そこまで神格化されても困るしな。まあ、つねはアイドル好きと言ってる割には、一線はきちんと引いてるからな」
基本的に穏やかな藤堂だけでなく、今日まで本当につねとまともに会話すらできていなかった永倉までそう言うので、沖田は若干醒めた目で永倉を睨んだ。
「なに? 今まで壊れそうで近付けないとか言って、もう誑し込まれたの? いくら女性に対して免疫ないからって、それはいくらなんでも早過ぎじゃないの?」
「違うわっ!? 人間的にいい奴だっつってんだよ。なんでもかんでも恋愛に結びつけんなや」
「はいはい。それは永倉さんもそうでしょ? 僕は一般的な指摘をしただけだから」
相変わらずの身内間のぐだぐだとした会話の応酬に、近藤は微笑みながら聞いていた。
「でもそうだな……本当のことを言ってしまえば、この松井道場を出て行ったほうが、つね殿には迷惑をかけないかもしれないが、我々は再び拠点を失うし、洛陽動乱を追い詰めるのには一歩足りないのは間違いないだろう」
「どうするおつもりですか?」
藤堂の問いに対して、近藤は笑顔で答えた。
「それならいっそのこと、もう一度我らの存在を誇示したほうがいいのではないかと思ってな」
「それって……」
「社長殿と話をしようと思う」
これで、拠点の確保、洛陽動乱の捕捉、どちらも叶うかもしれないが。
肝心の彼等を一度は引き取ってくれたつねの意見は、なにひとつ聞いていなかったのである。
****
物の怪退治というものは、どうしても穢れが生じる。
それが原因で、新撰組が京の安寧のために物の怪を倒したとしても、疎まれることはあっても感謝はされなかった。
洛陽動乱は彼等に好かれこそしなかったものの、彼等と敵対する新撰組を好ましいとも思われなかったのだ。
だから、世界を移動してしまい、物の怪の存在しない世界に辿り着いてしまい、そこでアイドルという、自分たちの世界で言うところの歌舞伎役者としてデビューした途端に、ここまで好かれることになるなんて思わなかった。
ずっと武術に励んでいたのだから、舞踏を習って、それを真似ることは、上手いか下手かはともかくそこまで悪くはなかったが、肝心の歌はなかなか上達しなかった。
こんなことする意味あるのか? そもそもそれは路銀稼ぎに都合がいいのか? この世界だと新撰組の羽織を着ていると勝手にコスプレ扱いされるから、いっそのことコスプレイヤーという名目でお金を集めたほうがいいのでは?
そんな話は何度も出たが。
特に閲覧数の増えない動画を上げている中、いつも誰かひとりが必ずいいねを押してくれることに気付いた。
「物好きがいたんだね」
総司は相変わらず素っ気ないことを言ったが、誰かひとりでも見てもらえるというのは、京での治安維持をしていた頃から、確実に必要なことだった。
やがて、それが他のサイトで流され、瞬く間に有名になったとき、最初からずっといいねを押してくれていた人の存在が見えなくなってしまった。
ずっと応援してくれていたはずなのに。
そんな相手は、どの世界にいてもなかなか得がたいものだというのに。
ライブをして、皆が喜んでくれた。その中で、ライブの活動と同時に、だんだん物の怪が増えていくのに気付いた。物の怪はこの世界にいるものと、俺たちの世界にいるものだと種類が異なる。
どうするかと皆で話し合った際、「もう路銀も貯まりましたから」と藤堂さんが言った。
「……アイドル活動をしなくても、もう大丈夫だと思います。物の怪を野放しにして、応援してくださった皆さんが傷付くのは、本末転倒ですから」
「そうだね。そもそも僕たちだって、洛陽動乱を問いたださないことには、帰る方法だってわかんないもんね。お金稼ぎや物の怪退治はあくまでおまけだし」
「おまけでもねえだろ。普通に危ねえんだし。でも、俺もそろそろ潮時だと思うぜ」
「そうか」
そう言いながら、一旦は俺たちを拾ってくれた社長殿の好意に泥を塗ってないかと一度謝りに行ったが。
その際、俺たちの申し出を、社長殿は腕を組んで話を聞いてくれていた。マネージャー殿はずっと慌てていた。
「そんな! やっと軌道に乗ってこれからどんどん売れていく時期なのに!」
「……うん。本当だったら、君たちは我々が拾った以上、その恩義を返さないといけないと思う」
「ですよね、社長!?」
「だけど、無理矢理続けても、いずかは応援していたファンが気付いてしまう。いわゆる推し活という形で、どんどん推しを増やしていくファンだったら問題ないが、問題はガチ恋勢だ。下手なことを言ってしまえば、君たちはそのファンに焼き殺されかねない」
「……ですが!」
「だから、休止という形を取りなさい。本当に気が向いたときでいい。君たちがアイドルを続けたいと思い立ったときはいつだって連絡をくれていいから。君たちは実直で真面目だけれど、たまにはちゃんと煙に巻くということを覚えたほうがいいよ」
「……! ありがとうございます!」
「あと、君たちのことを最初からずっと応援してくれていたファンがいたこと、忘れないようにね。君たちにとっては、ただいいねを数字にしか見えてないかもしれないけど。いいねひとつ分にはひとり分の人生があるのだから、それだけはくれぐれも忘れないようにね」
そう言われたことは、今でも覚えている。
そして。
「ファ、ファンです……! 初めて動画が上がったときから、ずっと……!」
たまたま物の怪から逃げ回っているのを助けた女人。
俺たちのことを目を逸らさずに真っ直ぐ見つめる彼女。社長殿が言っていたいいねの向こう側の住人に会えるなんて、まさかアイドルを休止するときには思いもしなかったのだ。



