枯れ木に花が咲く頃 ――不要と言われた正室の、静かな大逆転――

四月の末に、蝦夷地から使者が来た。

光がそのことを知ったのは、大奥の女中から漏れ聞こえた話によってだった。正式な報告が御台所のもとに届くことはなかった。御台所は政務に関わらない。それが慣例だった。

謎の疫病が蝦夷地の村々を次々と壊滅させているということだった。

感染した者は高熱を出した後、意識を失い、そのまま眠り続ける。何日経っても目を覚まさない。眠り続けるうちに、静かに死んでいく。幕府の医師団が何組も送られたが、原因も治療法も見つからなかった。

光はその話を聞いた夜から、眠れなくなった。

正確には、眠ると夢を見た。

大勢の人間が倒れていく夢だった。野原に、家の中に、道の上に、人が次々と倒れていく。光はその光景を夢の中でただ見ている。何もできないまま見ている。すると遠くから声がした。

お前が行かなければ。

お前が行かなければ。

夢から覚めると、光は汗びっしょりになっていた。三日続いて同じ夢を見た。

四日目に、光は雅吉を呼んで、蝦夷の疫病について調べられる限りのことを調べてほしいと頼んだ。雅吉は驚いた顔をしたが、何も聞かずに頷いた。

翌日、雅吉が資料を集めてきた。光はそれを机に広げて、一人で読み込んだ。

疫病の症状。発生した村の場所。時期。広がり方。

読めば読むほど、光は胸の奥に奇妙な感覚を覚えた。何か、自分の体の中にある何かが、この疫病に反応しているような感じだった。うまく言葉にできない感覚で、光は何度も胸に手を当てた。

その日の夕方だった。

廊下に人の気配がして、光は咄嗟に資料を文机の引き出しに入れた。

障子が開いて、将軍・秀隆が入ってきた。

光は立ち上がろうとした。秀隆が手で制した。

「座っていろ」

秀隆が部屋に入ってくること自体、珍しかった。月に一度の対面の儀は御台所の間で行われるが、秀隆がこうして光の日常の部屋に入ってくることは、六年でほとんどなかった。

秀隆は光の部屋を見回した。質素な部屋だった。余計な飾りがない。文机の上に紙と筆があるだけの、清潔に片付いた部屋だった。

秀隆は何かを言いかけて、止まった。

文机の引き出しが少し開いていた。そこから紙の端が見えた。

「何を調べていた」

「……大したことではございません」

「何を調べていた」

光は少しの間、秀隆の顔を見た。

秀隆と正面から目が合うことは、めったになかった。秀隆はいつも光を見るようで見ていない。光の方を向いていても、どこか違うところを見ていた。

今は、見ていた。

「蝦夷の疫病について、お役に立てることがあるかと思いまして」

秀隆の表情が、わずかに動いた。

「御台所には関係のないことだ」

それだけ言って、秀隆は出て行った。

光は障子が閉まるのを見ていた。

その夜、光が庭に出て祈ると、行灯が一つずつ消えていった。誰も触れていないのに。最後の一つが消えた瞬間、光の髪が白く光った。ほんの一瞬だけ。それから元に戻った。

光は自分の髪に触れた。何も感じなかった。

ただ、体の中の奇妙な感覚が、少し強くなっていた。