【次いつ会える?】
それから二ヶ月がたとうとしていた頃、通知がなった。
「…ひなのか」
私は空いている日をいくつかいれた。
しばらくして、返信が来た。
【○月○日に決まったから!】
私はそのメッセージにスタンプを送った。
「…はぁ」
穀人くんに会えるのは嬉しいはずなのに。何なんだろう、この気持ちは。
画面をスクロールしてだいぶ下に出てきた穀人くんとのトーク画面。
最後は五年前で止まっていた。
私は、開く勇気もなくてそっとスマホを伏せた。
飲み会の日、当日が来た。
私は目的地をナビに入れて、夜の地元を走った。
「…ここだ」
車を狭い駐車場に止めて、スマホを見る。
ひなのからメッセージが届いていた。
【ごめん、少し遅れる!先に入ってて!】
ドキドキと音をたてる心臓を擦りながら、居酒屋の扉を開けた。
個室の部屋に案内される。
「こちらです」
「…ありがとうございます」
ついた部屋の扉を開けると、誰もいなかった。
私は肩を落とす。
でも、まだわからない。
鞄から手鏡を出し、こっそりと前髪を直す。
「いらっしゃいませ~!」
店員さんの明るい声が聞こえた。
私はごくっと唾を飲む。鏡を直し、個室の扉を見つめた。
もしかしたら、なんて。
そんなはず、ないのに。
近づいてきた二つの足音が止まり、話し声が鮮明に聞こえた。
ガラガラと個室の扉が開く。
だって今日も、あの二人はーー。
「ごめん、むぎちゃんお待たせ!」
「もう、なのが準備遅いから」
「それはこっくんもじゃん」
一緒にいるんだから。
上着を脱いで、流れるように私の正面に隣通しで腰を掛けた二人。
箸を持つ手に力が入る。
隣通しにならないように、私は座る席を変えようとした。
何回も。
だけど、そんな勇気はなかった。
穀人くんと向かい合わせになれるから良いなんて思っているのに。
近づく二人の距離を見るのは、嫌だ。
届くはずのない距離にため息が出る。
ピコンと誰かの通知音が鳴る。
ひなのがスマホをパッと見た。
「…なに?彼氏?」
ニコニコと返信を返しているひなのに穀人くんがボソッと訊く。
「うん!」
「へー」
穀人くんは手に持ったお酒を一口飲んだ。
私はその会話を聞いて、胸がぎゅっと痛む。
私はそれを誤魔化すように、オレンジジュースに口をつけた。
甘酸っぱい風味が口に広がる。
…苦くなくて、飲みやすい。
「レモンサワーで~す」
店員さんが明るい声でお酒を運ぶ。
「ありがとうございます」
横切ったレモンサワーは穀人くんの前に置かれた。
穀人くんは躊躇する様子なんてなくて、そのまま飲んでいる。
その味を、私は知らない。
あんなに近くにいたのに、なんだか別の世界の人になったみたいだ。
*
『武川穀人です』
中学の頃、席が隣通しで仲が良くなった私たち。
『河田麦菜です』
席が離れても、テストとかで出席番号順に並んだら、絶対にまた隣通しに戻れた。
お互いに仲良くなるのが早くて、話しやすくて、居心地が良かった。
『麦菜だからむぎちゃんね』
『じゃあ私は穀人くんって呼ぶ』
異性から呼び捨てで呼ばれることが多かった私たちは敢えてこう呼ぶことにした。
『むぎちゃん』
って呼ばれるたびに胸が弾む。
君も同じだったら嬉しいななんて思ってたのに。
*
「こっくん、これ食べる?」
「なのが食べたいなら、頼んで良いよ」
穀人くんとひなのは仲良くメニューを見てる。
その二人の声が、ざわざわとした店内の音に書き消されることなく、私の耳に届いた。
ーー私はまだ、再会して君の名前を呼べてないのに。
きっと、気づいてないでしょ。
でも、私はちゃんと気づいてるよ。
「むぎなちゃん」
って君が呼ぶたびに、胸がチクリと痛むの。
飲み干したオレンジジュースは、さっきまで甘かったのに、苦味を感じた。
*
今日もお開きになって、いつもみたいに駐車場に移動する。
どうせ、今日も二人は一緒に帰るんだろうな。
皆の後をついていきながら、そう思う。
すると、前から穀人くんの声が聞こえた。
ひなのと話しているみたいだ。
聞きたくないけど、近くにいるから嫌でも二人の会話が聞こえてくる。
「…今日、むぎなちゃんの車に乗って帰ろうかな」
ボソッと穀人くんが呟いた声が聞こえた。
「…えっ」
私は俯いていた顔をあげる。
胸が少しだけ音をたてた。
だけど、穀人くんはひなのの顔を見てすぐに笑顔で言った。
「冗談だよ」
そのあとの二人の会話は耳に入らなかった。
どうやって解散したのかも覚えていない。
気づいたら私は一人で自分の車に乗っていた。
何分たっただろう。
もう皆、帰ってしまった。
私はやっとの思いでエンジンをかける。
大きなエンジン音と共に、車内には静かな音楽が流れ始めた。
いつも聴いてる失恋ソングが流れる。
聴きたくないのに、今日も飛ばすことができなくて結局聴いてしまった。
『淡い期待をくれるなら、いっそ苦さなんて知らなきゃよかった』
ーーそんなの、わかってるよ。
私はぼやけていく視界を拭う。それでも涙は抗うように静かに流れ続けた。
それから二ヶ月がたとうとしていた頃、通知がなった。
「…ひなのか」
私は空いている日をいくつかいれた。
しばらくして、返信が来た。
【○月○日に決まったから!】
私はそのメッセージにスタンプを送った。
「…はぁ」
穀人くんに会えるのは嬉しいはずなのに。何なんだろう、この気持ちは。
画面をスクロールしてだいぶ下に出てきた穀人くんとのトーク画面。
最後は五年前で止まっていた。
私は、開く勇気もなくてそっとスマホを伏せた。
飲み会の日、当日が来た。
私は目的地をナビに入れて、夜の地元を走った。
「…ここだ」
車を狭い駐車場に止めて、スマホを見る。
ひなのからメッセージが届いていた。
【ごめん、少し遅れる!先に入ってて!】
ドキドキと音をたてる心臓を擦りながら、居酒屋の扉を開けた。
個室の部屋に案内される。
「こちらです」
「…ありがとうございます」
ついた部屋の扉を開けると、誰もいなかった。
私は肩を落とす。
でも、まだわからない。
鞄から手鏡を出し、こっそりと前髪を直す。
「いらっしゃいませ~!」
店員さんの明るい声が聞こえた。
私はごくっと唾を飲む。鏡を直し、個室の扉を見つめた。
もしかしたら、なんて。
そんなはず、ないのに。
近づいてきた二つの足音が止まり、話し声が鮮明に聞こえた。
ガラガラと個室の扉が開く。
だって今日も、あの二人はーー。
「ごめん、むぎちゃんお待たせ!」
「もう、なのが準備遅いから」
「それはこっくんもじゃん」
一緒にいるんだから。
上着を脱いで、流れるように私の正面に隣通しで腰を掛けた二人。
箸を持つ手に力が入る。
隣通しにならないように、私は座る席を変えようとした。
何回も。
だけど、そんな勇気はなかった。
穀人くんと向かい合わせになれるから良いなんて思っているのに。
近づく二人の距離を見るのは、嫌だ。
届くはずのない距離にため息が出る。
ピコンと誰かの通知音が鳴る。
ひなのがスマホをパッと見た。
「…なに?彼氏?」
ニコニコと返信を返しているひなのに穀人くんがボソッと訊く。
「うん!」
「へー」
穀人くんは手に持ったお酒を一口飲んだ。
私はその会話を聞いて、胸がぎゅっと痛む。
私はそれを誤魔化すように、オレンジジュースに口をつけた。
甘酸っぱい風味が口に広がる。
…苦くなくて、飲みやすい。
「レモンサワーで~す」
店員さんが明るい声でお酒を運ぶ。
「ありがとうございます」
横切ったレモンサワーは穀人くんの前に置かれた。
穀人くんは躊躇する様子なんてなくて、そのまま飲んでいる。
その味を、私は知らない。
あんなに近くにいたのに、なんだか別の世界の人になったみたいだ。
*
『武川穀人です』
中学の頃、席が隣通しで仲が良くなった私たち。
『河田麦菜です』
席が離れても、テストとかで出席番号順に並んだら、絶対にまた隣通しに戻れた。
お互いに仲良くなるのが早くて、話しやすくて、居心地が良かった。
『麦菜だからむぎちゃんね』
『じゃあ私は穀人くんって呼ぶ』
異性から呼び捨てで呼ばれることが多かった私たちは敢えてこう呼ぶことにした。
『むぎちゃん』
って呼ばれるたびに胸が弾む。
君も同じだったら嬉しいななんて思ってたのに。
*
「こっくん、これ食べる?」
「なのが食べたいなら、頼んで良いよ」
穀人くんとひなのは仲良くメニューを見てる。
その二人の声が、ざわざわとした店内の音に書き消されることなく、私の耳に届いた。
ーー私はまだ、再会して君の名前を呼べてないのに。
きっと、気づいてないでしょ。
でも、私はちゃんと気づいてるよ。
「むぎなちゃん」
って君が呼ぶたびに、胸がチクリと痛むの。
飲み干したオレンジジュースは、さっきまで甘かったのに、苦味を感じた。
*
今日もお開きになって、いつもみたいに駐車場に移動する。
どうせ、今日も二人は一緒に帰るんだろうな。
皆の後をついていきながら、そう思う。
すると、前から穀人くんの声が聞こえた。
ひなのと話しているみたいだ。
聞きたくないけど、近くにいるから嫌でも二人の会話が聞こえてくる。
「…今日、むぎなちゃんの車に乗って帰ろうかな」
ボソッと穀人くんが呟いた声が聞こえた。
「…えっ」
私は俯いていた顔をあげる。
胸が少しだけ音をたてた。
だけど、穀人くんはひなのの顔を見てすぐに笑顔で言った。
「冗談だよ」
そのあとの二人の会話は耳に入らなかった。
どうやって解散したのかも覚えていない。
気づいたら私は一人で自分の車に乗っていた。
何分たっただろう。
もう皆、帰ってしまった。
私はやっとの思いでエンジンをかける。
大きなエンジン音と共に、車内には静かな音楽が流れ始めた。
いつも聴いてる失恋ソングが流れる。
聴きたくないのに、今日も飛ばすことができなくて結局聴いてしまった。
『淡い期待をくれるなら、いっそ苦さなんて知らなきゃよかった』
ーーそんなの、わかってるよ。
私はぼやけていく視界を拭う。それでも涙は抗うように静かに流れ続けた。

