「それで?莎夜香はどうしたいのよ」
夜も更けて、莎夜香は寝台に寝転がりながら同じ布団の上で寄り添うナギと話をしていた。
「う〜ん……」
一生懸命、考えようとしているのだが。少し前にカナエが運んできてくれた夕飯が美味しすぎて、お腹がいっぱいで。
気を抜くと眠ってしまいそうだった。
「ねぇ、ナギ。力の抑制って難しい?」
「そうねぇ。健康に悪いわね。体質も関係あるのよ。莎夜香の場合、慣れても体調を崩してしまうことが多くなると思う。無害ではないの。そのくらい危険だから、あたしはおすすめしない。それにあいつに従うことなんてないでしょ。もー、さっさと逃げちゃいましょうよ!」
「ん〜」
「まさかここにいたいの?あの陰気野郎と愛のない生活送るの?」
「ナギ。閣下のことそんなふうに呼ばないの」
「いいじゃない、どうせ聞こえてないんだから」
「ナギ、私ね、閣下の苦痛を和らげることができてよかったと思うの。『癒されてる』って言われて嬉しい気持ちにもなったわ。それから、閣下って私に敬語を使うのよね。呼び方も「あなた」で。なんだかぎこちなくて慣れてないように思うときもあるけど。それも嬉しいと思えるわ」
聆ノ国で冷遇されていた頃は「おまえ」と呼ばれ、皆が無作法で乱暴な言動や態度で莎夜香に接した。
「閣下が……緇綺様が魔性の毒というもののせいで辛い思いをしていることもわかったし。私より寂しさを抱えてることも感じた」
「あなたより?」
「そうよ。だって私にはナギがいてくれたから。離宮ではほかの神獣たちや神霊虫たちも優しかった。だから、私はそんなに寂しくなかった。今もそうよ」
「あいつのそばにいてあげたいの?」
「もう少しだけ……ここに居ようかな。だってお布団は気持ちいいし、お腹いっぱい食べられるし。とりあえず、準備した逃亡用の荷物は押し入れの奥へ仕舞うわ」
えへへ、と微笑む莎夜香を見つめ、ナギは小さなため息をつきながら言った。
「そう……。まぁ、逃亡はいつでもできるしね。気が変わったら言いなさいよ。でも、それなら力を抑えるより、いい案があるわ」
「え、どんな?」
「莎夜香も結界を扱えるようになればいいのよ。巫女の結界は、準備とか張り方も、閣下のものとは違うけど、効果は絶大よ。閣下の結界さえいらないくらいにね」
「……それって、じゃあ私が結界を扱えるようになれば、緇綺様の苦痛も一つ減ることになるよね?」
「そうね、あいつが危険な魔性力を高めて扱う結界より、清浄性のある巫女の結界の方がいいと思うのよね。明日、閣下に話してみたら?」
「うん!ナギ、ありがとう!あなたってほんとに頼りになるね!大好き!」
莎夜香はナギをぎゅっと抱きしめた。
「うぐぐっ。ちょ……!苦しいからっ。も〜、大好きとか、言う相手違うんじゃないの?」
「え?ナギでなかったら誰に言うのよ?」
「……そうね、莎夜香は慣れてないものね。異性に対する特別な感情とかに。年齢のわりに、そういうことには疎いんだから……」
「ねぇ、なにブツブツ言ってるの?聞こえないよ?」
「あー、もうなんでもない。神獣の独り言よ。眠いんでしょ、早く寝なさい」
「はぁ〜い。おやすみ、ナギ……」
「おやすみ、莎夜香」
莎夜香はなんだか安心し、あっという間に眠りについた。
♢♢♢
翌朝。朝食を運んできたカナエに、莎夜香は緇綺との面会を願った。
「お屋敷の結界の件で話したいと伝えてくれる?」
「はい、お伝えはしますが……。実は坊ちゃん、昨夜から夕飯も食べずに霊術を行う部屋に引き籠もっているんです」
カナエの話では、一度その部屋に入ると食事もせずに何日も部屋から出てこないという。
「それって、よくあるんですか?」
「あの部屋に籠るのは久しぶりです。前回は使用人が妖獣のせいで怪我をしたときがあって。それからすぐでした、引き籠ったのは」
「もしかして、屋敷の結界強化に関係あるのですか?」
カナエは頷いた。
「おそらくあると思います。術や結界のことは私たち屋敷の使用人にはよくわかりませんが。皆、心配してますし、お食事だけでもとってもらいたいです」
「カナエさん、今から私、行ってみます。温かい朝食、せっかく運んでもらったのにごめんなさい。すぐにその部屋まで案内してもらえますか?」
「はい、わかりました」
カナエはほっとした様子で言った。
「食事は温め直すことも出来ますから。奥様がいらっしゃれば、緇綺様も部屋から出てきてくれるかもしれませんね」
莎夜香はカナエの案内で、緇綺がいるという部屋へ向かった。
