《視線についての音声データ》
これは、他者からの視線をひどく気にしている女子大学生にインタビューをした音声データと思われる。差出人不明のメールアドレスから、筆者に送られてきた。送付意図は不明であり、心当たりもない。以下は筆者が音声データを文字起こししたものであるが、インタビュアーの声は不明瞭な男性の声で聞き取りが困難であったため、断念した。収録時期、場所は不明。また、文字起こし部分の後に添付した米印以降は、メール本文の原文ママである。
私、人の視線がすごく気になるんです。物心ついたころには気になっていました。とにかくものすごく見られるんです。人がいるところでは、常に視線を感じています。特に電車は怖いです。私自身が周りを見ないように、本を読んだりスマホを見たり工夫はしているのですが、ふと視線を感じて顔を上げてしまうと全く見知らぬ人と目が合うのです。吊り革に摑まっているときには、窓ガラスに映った隣の人と目が合うこともあるんです。そういう人はたいがい、何を考えているのかわからない目をしています。それでじっと私を見つめてくるんです。
両親が言うには、生まれたその日から人によく見られているそうです。よく赤ちゃんを連れている親御さんってかわいいですね、とか何ヶ月ですか、とか聞かれているじゃないですか。それだけじゃなくて、じっと、ただ見つめてくるだけの人がたくさんいたそうです。幼稚園に入ったころには私も気がついていましたが、本当に小さいころからわざわざ道を戻ってきてまで私の顔を覗き込む人もいたと聞いています。母はそれが不気味で、ベビーカーのひさしをできるだけ下げたり抱っこ紐に入れて帽子を深くかぶらせたり、思いつくことは何でもやっていたけど、あんまり効果があったようには思えないって言ってました。
これでね、私の顔が橋本環奈さんみたいに1000年に1度しか生まれないくらいかわいいとか、時代が違ったらお城を傾けられるくらい美人とかだったらまだわかるんですよ。私、すごく普通じゃないですか。特にこれといった特徴もない顔だし、強いて言えば二重なくらいで、自分の顔に好きなところも嫌いなところもありません。身長だって、平均身長ぴったりなんです。体全体を見ても、めちゃくちゃ普通ですよね。え? 普通が一番ですか? ありがとうございます。そうは言っても、私はその普通のおかげで困っているのですが……。
こっちを見てくる人たちの共通点ですか? うーん、正直ないように感じます。本当に老若男女を問いません。あ、でもなんだか女性には敵意のある視線を向けられることが多いような気はしますね。それこそ他人の視線に気がつきはじめた幼稚園児くらいのころには、その敵意にも気づいていました。同じくらいの歳の子から中学生くらいの子まで、もはや睨みつけるように見てくるんです。母も気になっていたみたいで、何度かそういう子に、何かあった? って声をかけていました。大学生になった今はもう年齢を問わず、女性に冷たい目で見られることが多いんですが……男性はもう無です。何の意味も感じられない視線です。敵意がないだけいいかもしれません。ただまあ、若い女というだけで頭からつま先まで舐めまわすように眺められることは誰にでもあるでしょうから、それはカウントしません。
そうそう、母から気になる話を聞いたことがあります。母は昔、観光バスのガイドをしていて、修学旅行生のガイドをすることが多かったそうなんです。だいたい1クラスくらいの生徒に向けてバスガイドは1人で、観光名所を紹介したり歌を歌ったりするものだったみたいですが、なんとなく目につく子っているものなんですって。そういう子たちは、必ずしもクラスで目立つタイプの子ではなかったし容姿が優れているとも限らなかったと不思議がっていました。この話を、私の大学の先輩で、今高校の先生をしている方にしたことがあるんですが、わかる気がすると言っていました。そうやって、なんでもないのに目立つってこと、あるんですかね。私もそうなのでしょうか。もしそうなら、どうしたら目立たなくなるんですかね。本当に、どうしたらいいんでしょうか。
※インタビュー対象者は、セミロングの黒髪、本人の言うとおり「特にこれといった特徴もない顔」、平均的な体型、都内在住の女子大学生(20代)。すっぴんに見えるぐらいの薄化粧、ベージュのパーカー、ジーパン、古そうなグレーのスニーカー、帆布のトートバッグ。コミュニケーションに難なし。
《視線についての音声データ 追加情報》
また先日、視線についての音声データを送付してきた差出人不明のメールアドレスからメールがあった。本文はなく、写真が3枚添付されていた。1枚目、2枚目はそれぞれ赤い正方形のアルバム、写真を剥がした跡のあるアルバムのページだった。何を意図した写真であるかは不明。3枚目の写真は、あるメールのスクリーンショットだった。メールの内容を、ここに記録する。なお加工により黒く塗りつぶされている部分は原文ママ。
件名:Re:その後について
●●さん
お世話になっております、●●●●です。
ご連絡ありがとうございます。返信が遅くなり、申し訳ありません。
先日インタビューをお受けしてから、誰もいない、自分1人しかいない空間でも視線を感じるようになりました。今までは人のいるところで気をつけていればよかったものですが、ついにここまで来てしまったのかと少々落ちこんでいます。色の濃いサングラスをかけてみてはとのご提案、大変参考になりましたが、余計に目立って人目についてしまうのではないかと不安です。
●●さんも例の赤いアルバムのこと、ご存知だったのですね! 私もオカルトや都市伝説などが大好きなので、とても嬉しいです! いきなりあんな話をしてしまって、頭がおかしいと思われたのではないかと反省していたところです(笑)常に視線を感じている状況で少々気が滅入っているので、何かおすすめのコンテンツをお教えいただけませんか? ●●さんのおすすめなら、きっとおもしろいと思います。
それでは引き続き、よろしくお願いいたします。
●●●●
このメールは、先日のインタビューのインタビュアーと対象者のやりとりだろう。人がいるところ、特に電車を恐れていた対象者の状況は悪化しているように思える。アルバムというのは、添付されていた1枚目、2枚目の写真のことだろうか。相変わらず、送付意図は不明である。
これは、他者からの視線をひどく気にしている女子大学生にインタビューをした音声データと思われる。差出人不明のメールアドレスから、筆者に送られてきた。送付意図は不明であり、心当たりもない。以下は筆者が音声データを文字起こししたものであるが、インタビュアーの声は不明瞭な男性の声で聞き取りが困難であったため、断念した。収録時期、場所は不明。また、文字起こし部分の後に添付した米印以降は、メール本文の原文ママである。
私、人の視線がすごく気になるんです。物心ついたころには気になっていました。とにかくものすごく見られるんです。人がいるところでは、常に視線を感じています。特に電車は怖いです。私自身が周りを見ないように、本を読んだりスマホを見たり工夫はしているのですが、ふと視線を感じて顔を上げてしまうと全く見知らぬ人と目が合うのです。吊り革に摑まっているときには、窓ガラスに映った隣の人と目が合うこともあるんです。そういう人はたいがい、何を考えているのかわからない目をしています。それでじっと私を見つめてくるんです。
両親が言うには、生まれたその日から人によく見られているそうです。よく赤ちゃんを連れている親御さんってかわいいですね、とか何ヶ月ですか、とか聞かれているじゃないですか。それだけじゃなくて、じっと、ただ見つめてくるだけの人がたくさんいたそうです。幼稚園に入ったころには私も気がついていましたが、本当に小さいころからわざわざ道を戻ってきてまで私の顔を覗き込む人もいたと聞いています。母はそれが不気味で、ベビーカーのひさしをできるだけ下げたり抱っこ紐に入れて帽子を深くかぶらせたり、思いつくことは何でもやっていたけど、あんまり効果があったようには思えないって言ってました。
これでね、私の顔が橋本環奈さんみたいに1000年に1度しか生まれないくらいかわいいとか、時代が違ったらお城を傾けられるくらい美人とかだったらまだわかるんですよ。私、すごく普通じゃないですか。特にこれといった特徴もない顔だし、強いて言えば二重なくらいで、自分の顔に好きなところも嫌いなところもありません。身長だって、平均身長ぴったりなんです。体全体を見ても、めちゃくちゃ普通ですよね。え? 普通が一番ですか? ありがとうございます。そうは言っても、私はその普通のおかげで困っているのですが……。
こっちを見てくる人たちの共通点ですか? うーん、正直ないように感じます。本当に老若男女を問いません。あ、でもなんだか女性には敵意のある視線を向けられることが多いような気はしますね。それこそ他人の視線に気がつきはじめた幼稚園児くらいのころには、その敵意にも気づいていました。同じくらいの歳の子から中学生くらいの子まで、もはや睨みつけるように見てくるんです。母も気になっていたみたいで、何度かそういう子に、何かあった? って声をかけていました。大学生になった今はもう年齢を問わず、女性に冷たい目で見られることが多いんですが……男性はもう無です。何の意味も感じられない視線です。敵意がないだけいいかもしれません。ただまあ、若い女というだけで頭からつま先まで舐めまわすように眺められることは誰にでもあるでしょうから、それはカウントしません。
そうそう、母から気になる話を聞いたことがあります。母は昔、観光バスのガイドをしていて、修学旅行生のガイドをすることが多かったそうなんです。だいたい1クラスくらいの生徒に向けてバスガイドは1人で、観光名所を紹介したり歌を歌ったりするものだったみたいですが、なんとなく目につく子っているものなんですって。そういう子たちは、必ずしもクラスで目立つタイプの子ではなかったし容姿が優れているとも限らなかったと不思議がっていました。この話を、私の大学の先輩で、今高校の先生をしている方にしたことがあるんですが、わかる気がすると言っていました。そうやって、なんでもないのに目立つってこと、あるんですかね。私もそうなのでしょうか。もしそうなら、どうしたら目立たなくなるんですかね。本当に、どうしたらいいんでしょうか。
※インタビュー対象者は、セミロングの黒髪、本人の言うとおり「特にこれといった特徴もない顔」、平均的な体型、都内在住の女子大学生(20代)。すっぴんに見えるぐらいの薄化粧、ベージュのパーカー、ジーパン、古そうなグレーのスニーカー、帆布のトートバッグ。コミュニケーションに難なし。
《視線についての音声データ 追加情報》
また先日、視線についての音声データを送付してきた差出人不明のメールアドレスからメールがあった。本文はなく、写真が3枚添付されていた。1枚目、2枚目はそれぞれ赤い正方形のアルバム、写真を剥がした跡のあるアルバムのページだった。何を意図した写真であるかは不明。3枚目の写真は、あるメールのスクリーンショットだった。メールの内容を、ここに記録する。なお加工により黒く塗りつぶされている部分は原文ママ。
件名:Re:その後について
●●さん
お世話になっております、●●●●です。
ご連絡ありがとうございます。返信が遅くなり、申し訳ありません。
先日インタビューをお受けしてから、誰もいない、自分1人しかいない空間でも視線を感じるようになりました。今までは人のいるところで気をつけていればよかったものですが、ついにここまで来てしまったのかと少々落ちこんでいます。色の濃いサングラスをかけてみてはとのご提案、大変参考になりましたが、余計に目立って人目についてしまうのではないかと不安です。
●●さんも例の赤いアルバムのこと、ご存知だったのですね! 私もオカルトや都市伝説などが大好きなので、とても嬉しいです! いきなりあんな話をしてしまって、頭がおかしいと思われたのではないかと反省していたところです(笑)常に視線を感じている状況で少々気が滅入っているので、何かおすすめのコンテンツをお教えいただけませんか? ●●さんのおすすめなら、きっとおもしろいと思います。
それでは引き続き、よろしくお願いいたします。
●●●●
このメールは、先日のインタビューのインタビュアーと対象者のやりとりだろう。人がいるところ、特に電車を恐れていた対象者の状況は悪化しているように思える。アルバムというのは、添付されていた1枚目、2枚目の写真のことだろうか。相変わらず、送付意図は不明である。
