《観察③》
「あ、アドレスありました!」
考察に行き詰まりながら、ああでもないこうでもないと意見を出し合っていた石井と俺の横で、発見したUSBの中身を探っていた井上が声を上げた。赤いアルバムと古い姿見に関するそれに相沢恭子の情報が入っていないか。そう言ったのは石井だった。ここで相沢恭子やレイコの情報が出てくれば、俺がさっき駅のホームで考えたアルバムと姿見はレイコの持ち物説が立証されると言ってもいいだろう。
そしてインタビュー同意書や連絡先のまとめを細かく見ていくうちに、相沢恭子の同意書とメールアドレスが見つかった。それらによると、俺に送られてきた音声データなどは恐怖心をテーマとした連載のためのインタビューだったらしいことがわかる。
「ひとまず相沢さんに取材の申し込みメールをしてみます。うまくいったらレイコさんとの関係性とかアルバムや姿見の詳細についてわかるかもしれませんし」
「そうだね。会えるかどうかは別として、いろいろわかりそうだし記事にもできるかもしれない」
そうだ。石井の言うとおり、それが1番の目的だ。話題の都市伝説の真実を解明するなんて、注目を集められること間違いなしだろう。しかもどうやら訳アリのようだし。まずは赤いアルバムと古い姿見の怪異について記事を書き、オカルト・都市伝説特集に掲載してもらう。それから調査を進めて続編として出せば、話題になりそうだ。俄然やる気が出てきた。
と、わくわくしていられたのも束の間だった。その場でメールを打って送信しようとしたが、何度やってもそのアドレスは存在しないと表示される。アドレスを変えたか、消したか。電話番号もダメだった。かくなるうえは家に突撃するしかない。これから行ったら夕飯時になってしまうし、また日を改めるほかなさそうだ。
改めて手元にある情報を吟味してみる。まず、最初に井上が見つけて送ってきたA4コピー用紙数枚の資料と俺が録ってきた山﨑へのインタビューでアルバムと姿見については一旦どうにかなりそうだ。次に相沢恭子の視線についての音声データとその親族・レイコについて。ここの情報が圧倒的に足りない。今あるものの中から考察できることには限界がある。関連もなさそうだ。……本当に?
「神社だ」
「神社? 何が神社なの?」
「ほら、『レイコは近隣の●●●社の境内にてイシ』っていう部分、近隣の〜から滲んでちゃんと読めませんけど、境内ってことはこれ神社の話ですよね」
「言われてみればそうですね! 和泉さんよく見つけられましたね」
「つまりはこれ、近隣のナントカ神社の境内で首吊り自殺ってことよね? 『イシ』って漢字で書くとこれでしょ?」
石井がカバンからメモ帳とボールペンを引っ張り出し、「縊死」と書いた。そうだ。間違いない。カタカナでの表記に惑わされたが、そういうことだ。
「原因は精神病『ということになっている』って書き方も気になりますね。この書き方だと違う原因があるとも考えられませんか?」
井上の言うことにも一理ある。原因が精神病ならおそらくそうだと言い切るだろう。また、電話のメモに脚色を加えているとは考えにくい。数箇所簡単な漢字がひらがなであることからも、正確にメモすることを優先していたと推察できる。
「そこも確認したいところですね。コンタクトが取れればいいんですけど」
「同意書にある住所に訪問するのであれば僕も一緒に行きます。車出しますね」
僕、そんなに運転上手じゃないですが。そう言って井上はにやっと笑った。記事を書く前にこっちがお陀仏になるのは勘弁してほしい。異動してきたばかりでまだ大きな仕事は担当していないらしい井上とのスケジュール調整は簡単だった。翌日、相沢家に向かうことがあっさり決まった。
「よかったじゃん、和泉くん。これは大物記事になりそうな予感がするね」
「してみせますよ。あっという間に石井さんを追い抜きます」
「お、言うね〜。楽しみにしてるよ」
石井がわざとらしく会議イスにふんぞりかえる。腕まで組んじゃって、さながらRPGに出てくるボスキャラのような雰囲気だ。だがそれならこっちは腹を括った勇者である。絶対ものにするぞ、と意気込んで再び資料に向かった瞬間に、A4コピー用紙の資料から見つけた。
「めちゃくちゃ●●神社出てきてるじゃん!」
思わずでかい声が出た。ふんぞりかえっていた石井も背もたれから跳ねるようにして体を起こし、資料を覗き込む。
「うわ、なんで今まで気づかなかったんだろう。これはもう偶然じゃなさそうだよね」
「点と点が繋がるってこういうことを言うんでしょうね。どこのどの神社だかはわかりませんが、別々の神社とは考えにくい気がします」
「でもなんか、ここまで薄っすらとでもたしかに繋がっている感じ、ちょっと怖いですね。何かに導かれているみたいで」
ぽつりと井上が呟いた。実を言えば俺もそう思う。そもそも中川と思われる人物が俺に視線についての音声データを送ってきたことから端を発している。俺がそれを石井に相談して、井上と繋がって、中川の資料をもらった。さらに山﨑にインタビューをして、封書が自宅に届いて、今だ。いささかできすぎているように感じる。とはいえもう立ち止まっていられない。石井と井上まで巻き込んでしまっては申し訳ないからいざというときには逃げてもらうとして、俺は自分の身は自分で守れるように頑張るとしよう。
「あ、アドレスありました!」
考察に行き詰まりながら、ああでもないこうでもないと意見を出し合っていた石井と俺の横で、発見したUSBの中身を探っていた井上が声を上げた。赤いアルバムと古い姿見に関するそれに相沢恭子の情報が入っていないか。そう言ったのは石井だった。ここで相沢恭子やレイコの情報が出てくれば、俺がさっき駅のホームで考えたアルバムと姿見はレイコの持ち物説が立証されると言ってもいいだろう。
そしてインタビュー同意書や連絡先のまとめを細かく見ていくうちに、相沢恭子の同意書とメールアドレスが見つかった。それらによると、俺に送られてきた音声データなどは恐怖心をテーマとした連載のためのインタビューだったらしいことがわかる。
「ひとまず相沢さんに取材の申し込みメールをしてみます。うまくいったらレイコさんとの関係性とかアルバムや姿見の詳細についてわかるかもしれませんし」
「そうだね。会えるかどうかは別として、いろいろわかりそうだし記事にもできるかもしれない」
そうだ。石井の言うとおり、それが1番の目的だ。話題の都市伝説の真実を解明するなんて、注目を集められること間違いなしだろう。しかもどうやら訳アリのようだし。まずは赤いアルバムと古い姿見の怪異について記事を書き、オカルト・都市伝説特集に掲載してもらう。それから調査を進めて続編として出せば、話題になりそうだ。俄然やる気が出てきた。
と、わくわくしていられたのも束の間だった。その場でメールを打って送信しようとしたが、何度やってもそのアドレスは存在しないと表示される。アドレスを変えたか、消したか。電話番号もダメだった。かくなるうえは家に突撃するしかない。これから行ったら夕飯時になってしまうし、また日を改めるほかなさそうだ。
改めて手元にある情報を吟味してみる。まず、最初に井上が見つけて送ってきたA4コピー用紙数枚の資料と俺が録ってきた山﨑へのインタビューでアルバムと姿見については一旦どうにかなりそうだ。次に相沢恭子の視線についての音声データとその親族・レイコについて。ここの情報が圧倒的に足りない。今あるものの中から考察できることには限界がある。関連もなさそうだ。……本当に?
「神社だ」
「神社? 何が神社なの?」
「ほら、『レイコは近隣の●●●社の境内にてイシ』っていう部分、近隣の〜から滲んでちゃんと読めませんけど、境内ってことはこれ神社の話ですよね」
「言われてみればそうですね! 和泉さんよく見つけられましたね」
「つまりはこれ、近隣のナントカ神社の境内で首吊り自殺ってことよね? 『イシ』って漢字で書くとこれでしょ?」
石井がカバンからメモ帳とボールペンを引っ張り出し、「縊死」と書いた。そうだ。間違いない。カタカナでの表記に惑わされたが、そういうことだ。
「原因は精神病『ということになっている』って書き方も気になりますね。この書き方だと違う原因があるとも考えられませんか?」
井上の言うことにも一理ある。原因が精神病ならおそらくそうだと言い切るだろう。また、電話のメモに脚色を加えているとは考えにくい。数箇所簡単な漢字がひらがなであることからも、正確にメモすることを優先していたと推察できる。
「そこも確認したいところですね。コンタクトが取れればいいんですけど」
「同意書にある住所に訪問するのであれば僕も一緒に行きます。車出しますね」
僕、そんなに運転上手じゃないですが。そう言って井上はにやっと笑った。記事を書く前にこっちがお陀仏になるのは勘弁してほしい。異動してきたばかりでまだ大きな仕事は担当していないらしい井上とのスケジュール調整は簡単だった。翌日、相沢家に向かうことがあっさり決まった。
「よかったじゃん、和泉くん。これは大物記事になりそうな予感がするね」
「してみせますよ。あっという間に石井さんを追い抜きます」
「お、言うね〜。楽しみにしてるよ」
石井がわざとらしく会議イスにふんぞりかえる。腕まで組んじゃって、さながらRPGに出てくるボスキャラのような雰囲気だ。だがそれならこっちは腹を括った勇者である。絶対ものにするぞ、と意気込んで再び資料に向かった瞬間に、A4コピー用紙の資料から見つけた。
「めちゃくちゃ●●神社出てきてるじゃん!」
思わずでかい声が出た。ふんぞりかえっていた石井も背もたれから跳ねるようにして体を起こし、資料を覗き込む。
「うわ、なんで今まで気づかなかったんだろう。これはもう偶然じゃなさそうだよね」
「点と点が繋がるってこういうことを言うんでしょうね。どこのどの神社だかはわかりませんが、別々の神社とは考えにくい気がします」
「でもなんか、ここまで薄っすらとでもたしかに繋がっている感じ、ちょっと怖いですね。何かに導かれているみたいで」
ぽつりと井上が呟いた。実を言えば俺もそう思う。そもそも中川と思われる人物が俺に視線についての音声データを送ってきたことから端を発している。俺がそれを石井に相談して、井上と繋がって、中川の資料をもらった。さらに山﨑にインタビューをして、封書が自宅に届いて、今だ。いささかできすぎているように感じる。とはいえもう立ち止まっていられない。石井と井上まで巻き込んでしまっては申し訳ないからいざというときには逃げてもらうとして、俺は自分の身は自分で守れるように頑張るとしよう。
