おばさんに教えられた住所に到着すると、思いのほか立派なマンションでびっくりした。新宿に近いところに住んでいるとは聞いていたが、大江戸線東新宿駅から徒歩で10分圏内、裕福なファミリー層が購入しそうな真新しいマンションだ。
「え、聡子こんな所に住んでたんだ」
「そうなのよ、二年前くらいだったかしら。ずっと家賃を払い続けるくらいだったら買ったほうが得だなんて言ってね」
八幡の、聡子の実家を思い出す。かなり年期の入った戸建てで、二階の聡子の部屋と台所以外はすべて畳敷きだった。聡子の部屋は辛うじて洋室だったが、壁は鶯色の土壁で、聡子はずっと白い壁紙の部屋に憧れていた。自立して、せっかく理想の城を手に入れたのに、なぜ死んでしまったのだ……。
おばさんが慣れない手つきで鍵を差す。合鍵は、聡子がマンション購入時におばさんに渡していたらしい。
「……こんな立派なところに住んでいたんだ、聡子」
「〇〇ちゃんはここには遊びにきたことがなかったの?」
「お互い仕事が忙しくって、会う時は外でご飯食べるくらいだったから」
今時の女性は忙しいものね、とおばさんがしみじみと言う。私は胸のうちで「私は仕事がなくて暇なんだけどね」とこっそり返す。
玄関から細い廊下を抜け居室のドアを開けると、八畳ほどのリビングと、それに隣り合って小さな寝室があった。入ってすぐの右手側にキッチンスペースがあり、部屋の中央に向かって流し台が設置されていた。いわゆるカウンター式キッチンだ。
室内は、すでに大きな家具はなくなっていた。
「ここにくるのは二回目なの。一度では片づけきれなくて」
「そうなんだ」
聡子の生活の欠片が垣間見え、不思議な気分になる。ほんの数日前までここで生活していた人間が、もうこの世にはいない。どうして、という疑問ばかりが浮かんでくる。どうして死んだりしたのだろう。やっぱり自殺ではないのでは――。
ノートパソコンとタブレットをIKEAの袋に詰めながら、まだ聡子の魂はここにいるのだろうか、なんて考える。もし自分が死んだとしたら、たとえ友人とは言え他人にパソコンやスマホを持っていかれるのは嫌だ。死んでもなお、自分のプライベートを勝手に覗き見られることは耐えがたい。これを機に突然死してしまった場合の後始末を真剣に考えよう。
(悪用はしないから)
心の中で聡子に断り、IKEAのバッグを肩に提げる。おばさんも、おおかたの片づけを終えたようだった。
(……ただちょっと、あんな死に方をした理由を探らせてもらうかも)
嫌だったら言ってよ、と聡子の部屋に問いかけてみる。当然返事などあるはずもなく、寂しさがより一層押し迫ってくるだけだった。
ぅわん、と耳元を蝿が掠めていった。
不快は羽音に、思わず耳元で手を振り回す。
「どうしたの?」
「なんか、……たぶん虫」
空気の入れ替えのために窓を開けていた。おばさんが「そろそろ帰ろうか」と窓を閉める。
「え、聡子こんな所に住んでたんだ」
「そうなのよ、二年前くらいだったかしら。ずっと家賃を払い続けるくらいだったら買ったほうが得だなんて言ってね」
八幡の、聡子の実家を思い出す。かなり年期の入った戸建てで、二階の聡子の部屋と台所以外はすべて畳敷きだった。聡子の部屋は辛うじて洋室だったが、壁は鶯色の土壁で、聡子はずっと白い壁紙の部屋に憧れていた。自立して、せっかく理想の城を手に入れたのに、なぜ死んでしまったのだ……。
おばさんが慣れない手つきで鍵を差す。合鍵は、聡子がマンション購入時におばさんに渡していたらしい。
「……こんな立派なところに住んでいたんだ、聡子」
「〇〇ちゃんはここには遊びにきたことがなかったの?」
「お互い仕事が忙しくって、会う時は外でご飯食べるくらいだったから」
今時の女性は忙しいものね、とおばさんがしみじみと言う。私は胸のうちで「私は仕事がなくて暇なんだけどね」とこっそり返す。
玄関から細い廊下を抜け居室のドアを開けると、八畳ほどのリビングと、それに隣り合って小さな寝室があった。入ってすぐの右手側にキッチンスペースがあり、部屋の中央に向かって流し台が設置されていた。いわゆるカウンター式キッチンだ。
室内は、すでに大きな家具はなくなっていた。
「ここにくるのは二回目なの。一度では片づけきれなくて」
「そうなんだ」
聡子の生活の欠片が垣間見え、不思議な気分になる。ほんの数日前までここで生活していた人間が、もうこの世にはいない。どうして、という疑問ばかりが浮かんでくる。どうして死んだりしたのだろう。やっぱり自殺ではないのでは――。
ノートパソコンとタブレットをIKEAの袋に詰めながら、まだ聡子の魂はここにいるのだろうか、なんて考える。もし自分が死んだとしたら、たとえ友人とは言え他人にパソコンやスマホを持っていかれるのは嫌だ。死んでもなお、自分のプライベートを勝手に覗き見られることは耐えがたい。これを機に突然死してしまった場合の後始末を真剣に考えよう。
(悪用はしないから)
心の中で聡子に断り、IKEAのバッグを肩に提げる。おばさんも、おおかたの片づけを終えたようだった。
(……ただちょっと、あんな死に方をした理由を探らせてもらうかも)
嫌だったら言ってよ、と聡子の部屋に問いかけてみる。当然返事などあるはずもなく、寂しさがより一層押し迫ってくるだけだった。
ぅわん、と耳元を蝿が掠めていった。
不快は羽音に、思わず耳元で手を振り回す。
「どうしたの?」
「なんか、……たぶん虫」
空気の入れ替えのために窓を開けていた。おばさんが「そろそろ帰ろうか」と窓を閉める。
