耳年齢テスト 20kHz

(案外、訓練すれば戻るものなんだ)
 あれから毎晩耳トレを続け、すっかり二十代の音域まで聞こえるようになった。
 イヤホンを耳にセットし、じっと耳を澄ます。すると空気の揺らぎの向こうに、張りつめた甲高い音がかすかに聞こえてくる。切れそうなピアノ線が触れ合うような、薄い薄いガラスの縁を擦るような、神経に障る音だ。聞いていると肌が粟立ってくる。
 二人はこれを言っていたのか。これが街中で聞こえてきたら確かに不快だ。
 
 この調子で訓練してゆけば、もっと若い世代の音域も聞こえるようになるのでは。
 試しに十代以下の音に挑戦してみたが、不思議なことに十代より下の世代の音になると低音が混じり始める。それまで甲高い一本調子の音だったのが、揺らぎ、途切れ、人の呻きのような不思議な音になる。これはモスキート音とは違うような気がして、動画の録音状況が悪いのかと視聴をやめた。
 他の動画でも試してみたが、一様に十代以下の音域は音が乱れ始める。無理やり聞けば聞けないこともないのだが、急に音が大きくなったりするので逆に耳を傷めそうだ。この音域はYouTubeでは流せない、繊細な領域なのかもしれない。
 だが、手応えは充分。今なら街中のモスキート音をキャッチできるだろう。
 
 年々、お手入れしなければならない箇所が増えてゆく。いつ老眼がくるのだろうとひやひやしていたが、まさか先に聴力を気にするようになるとは思ってもみなかった。
(でも、間に合ったみたい)
 今ならあの神保町の通りを通ったら、きっと私の耳にも聞こえるはず――。聡子は聴力が若返ったことに満足し、職場に向かった。