いくつかの資料を確認した。やはり最も気になるのは、廃寺を訪れた肝試し動画だろうか。あの動画のオバケさんの言動は明らかにおかしかった。笑い声は明らかに狂気じみていたし、鷹野上さんも不調を訴えていた。にわかには信じがたいことではあるが、あそこで本当に呪われたとしたら? 馬鹿馬鹿しいと思う。呪いなんて小学生じゃないんだから。けれど可能性があるとしたらこれしかない、という気持ちにもなる。
SNSでも様々な憶測が飛び交っていた。廃寺の動画が無断で切り抜かれ、オバケさんの笑い声が響く様子が日に何度も流れてくる。呪いだなんだと囃し立てている人の大半はファンでもなんでもない、ただの野次馬だった。少しずつ頭角を現し始めたとはいえ、全国区のテレビに引っ張りだこな超人気芸人と比べれば、知名度はまだまだ低かった二人。彼らが亡くなってからここまで注目されるなんて皮肉なものだと思う。
しかしその注目のされ方はまったく気持ちのよいものではなかった。そこに死者を弔う気持ちはまったくない。ホラーコンテンツとして消費しているだけだ。昔からのファンは今の状況を悲しんでいるのが大半だった。こんな注目のされ方してほしくない、亡くなった二人に失礼だ。ぽつぽつとそんな書き込みがあるが、マジョリティの波に押し流され顧みられず消えていく。僕も少なからず憤りを覚えていた。死者に対する冒涜じゃないか。
だが自分自身の行いも他の野次馬と似たようなものではないか? 二人の死の真相を探り、暴こうとしている。きっと褒められたものではないだろう。
僕は感情の整理がつかないまま、自宅で沢木さんに連絡を取った。先日カフェで会ってから三日が経っていた。
「どうしたの、粟田君? あれからどう? ちゃんと食べてる?」
まるで母親みたいだ。僕は苦笑をかみ殺す。
「すみません、少しお願いしたいことがあって」
「……いいよ。粟田君が元気になるなら。なんでも言って!」
なんとも頼もしい声だ。以前に増して張りがあるように感じられる。こちらとしても後ろめたい気持ちを抱かずに済んだ。
「あの、今夜も金縛りの二人についてなんですが……彼らが運営していたチャンネルに出ていた構成作家さんがいるんですけど、伝手はありませんか?」
僕はかいつまんで話をした。あの動画で起きたことが、今回の事件と何か繋がりがあるのではないかということを。
「なるほど……構成作家か。知り合いに詳しい人がいないか、ちょっと聞いてみるね」
後で折り返すから、と快活に言って、沢木さんは電話を切った。先輩を頼るのは申し訳ない気持ちだった。いや、今考えるのはよそう。余計なことを考えると消耗する。それより溜まっていた仕事を片付けなければ。細々とした依頼が溜まっていたのだ。
しかしその時間はものの三十分で打ち破られた。沢木さんからの折り返し電話が来たのだ。スマホはけたたましく鳴り、早く出てくれと言わんばかりにバイブレーションしている。
「粟田君、さっきの話なんだけど」
「もしかして、もう見つけてくれたんですか?」
「うん、なんとか。知り合いからその構成作家の橘って人の連絡先を教えてもらったの。後で送るね」
さすが仕事が早い。どんな仕事においても一番重要なのは人脈だろう。僕は沢木さんに心の底から感謝した。
「すみません、お忙しいのに……本当にありがとうございます。もし何か進展があったら、迷わず沢木さんにお話しますので」
「ありがとう、楽しみにしてる……って言ったら、不謹慎かな」
「いえ、僕も似たようなものです」
ところでさ、と沢木さんは言葉を切る。
「この事件、だんだん私も興味出てきたよ。色々調べてみようかなって思ってるの」
「……大丈夫なんですか?」
「うん、こっちの仕事は落ち着いてきたところだし」
沢木さんの声は弾んでいた。僕の沈黙をどう受け取ったのか「もちろん粟田君の邪魔はしないよ。亡くなった二人の尊厳を傷つける気もない」と弁明めいたことを言う。別に僕は彼女を責めようとしているわけではなかった。
「ごめん、やっぱりやめておいた方がいいかな」
「いえ、そうじゃないんです」
そうではない。嫌な予感がした。僕だけならまだしも、沢木さんまでよからぬことに巻き込まれるんじゃないかという懸念があった。そのよからぬことがなんなのかは自分でも分からない。起きるかもしれないし、起きないかもしれない。
「沢木さん、あの……」
「あ、ごめん。部長が呼んでるから切るね。橘さんの連絡先、後で送るから」
プツっと途切れる音、それから虚しい電子音が耳に響く。
こんなのはただの杞憂だ。僕は考えを改める。いやな雰囲気がするなんて理由だけで、亡くなった二人の調査をやめたくはなかった。
SNSでも様々な憶測が飛び交っていた。廃寺の動画が無断で切り抜かれ、オバケさんの笑い声が響く様子が日に何度も流れてくる。呪いだなんだと囃し立てている人の大半はファンでもなんでもない、ただの野次馬だった。少しずつ頭角を現し始めたとはいえ、全国区のテレビに引っ張りだこな超人気芸人と比べれば、知名度はまだまだ低かった二人。彼らが亡くなってからここまで注目されるなんて皮肉なものだと思う。
しかしその注目のされ方はまったく気持ちのよいものではなかった。そこに死者を弔う気持ちはまったくない。ホラーコンテンツとして消費しているだけだ。昔からのファンは今の状況を悲しんでいるのが大半だった。こんな注目のされ方してほしくない、亡くなった二人に失礼だ。ぽつぽつとそんな書き込みがあるが、マジョリティの波に押し流され顧みられず消えていく。僕も少なからず憤りを覚えていた。死者に対する冒涜じゃないか。
だが自分自身の行いも他の野次馬と似たようなものではないか? 二人の死の真相を探り、暴こうとしている。きっと褒められたものではないだろう。
僕は感情の整理がつかないまま、自宅で沢木さんに連絡を取った。先日カフェで会ってから三日が経っていた。
「どうしたの、粟田君? あれからどう? ちゃんと食べてる?」
まるで母親みたいだ。僕は苦笑をかみ殺す。
「すみません、少しお願いしたいことがあって」
「……いいよ。粟田君が元気になるなら。なんでも言って!」
なんとも頼もしい声だ。以前に増して張りがあるように感じられる。こちらとしても後ろめたい気持ちを抱かずに済んだ。
「あの、今夜も金縛りの二人についてなんですが……彼らが運営していたチャンネルに出ていた構成作家さんがいるんですけど、伝手はありませんか?」
僕はかいつまんで話をした。あの動画で起きたことが、今回の事件と何か繋がりがあるのではないかということを。
「なるほど……構成作家か。知り合いに詳しい人がいないか、ちょっと聞いてみるね」
後で折り返すから、と快活に言って、沢木さんは電話を切った。先輩を頼るのは申し訳ない気持ちだった。いや、今考えるのはよそう。余計なことを考えると消耗する。それより溜まっていた仕事を片付けなければ。細々とした依頼が溜まっていたのだ。
しかしその時間はものの三十分で打ち破られた。沢木さんからの折り返し電話が来たのだ。スマホはけたたましく鳴り、早く出てくれと言わんばかりにバイブレーションしている。
「粟田君、さっきの話なんだけど」
「もしかして、もう見つけてくれたんですか?」
「うん、なんとか。知り合いからその構成作家の橘って人の連絡先を教えてもらったの。後で送るね」
さすが仕事が早い。どんな仕事においても一番重要なのは人脈だろう。僕は沢木さんに心の底から感謝した。
「すみません、お忙しいのに……本当にありがとうございます。もし何か進展があったら、迷わず沢木さんにお話しますので」
「ありがとう、楽しみにしてる……って言ったら、不謹慎かな」
「いえ、僕も似たようなものです」
ところでさ、と沢木さんは言葉を切る。
「この事件、だんだん私も興味出てきたよ。色々調べてみようかなって思ってるの」
「……大丈夫なんですか?」
「うん、こっちの仕事は落ち着いてきたところだし」
沢木さんの声は弾んでいた。僕の沈黙をどう受け取ったのか「もちろん粟田君の邪魔はしないよ。亡くなった二人の尊厳を傷つける気もない」と弁明めいたことを言う。別に僕は彼女を責めようとしているわけではなかった。
「ごめん、やっぱりやめておいた方がいいかな」
「いえ、そうじゃないんです」
そうではない。嫌な予感がした。僕だけならまだしも、沢木さんまでよからぬことに巻き込まれるんじゃないかという懸念があった。そのよからぬことがなんなのかは自分でも分からない。起きるかもしれないし、起きないかもしれない。
「沢木さん、あの……」
「あ、ごめん。部長が呼んでるから切るね。橘さんの連絡先、後で送るから」
プツっと途切れる音、それから虚しい電子音が耳に響く。
こんなのはただの杞憂だ。僕は考えを改める。いやな雰囲気がするなんて理由だけで、亡くなった二人の調査をやめたくはなかった。
