名前だけでも忘れてください

・今夜も金縛り 2021/07/12 ××劇場の漫才録画文字起こし

(出囃子)
オバケと鷹野上、舞台袖から登場。センターマイクを境にオバケが向かって左、鷹野上が右に立つ。
鷹野上:どうもー! 鷹野上と申します!
鷹野上、マイクの位置を低くしオバケに合わせる。
オバケ:オバケですー
(間)
オバケ・鷹野上:僕たち今夜も金縛りです!
鷹野上:はぁい、名前だけでも覚えていってくださいねー。ところでオバケ君、肝試しって知ってる?
オバケ:誰に聞いてんの? こんな名前の人が肝試しを知らないわけないでしょう
鷹野上:ごめん、聞き方悪かったな。肝試しの本質って知ってる?
オバケ:本質? 何それ。急に腹立つセミナー講師みたいなこと言い始めて……知らないです
鷹野上:それはな、一緒に行った女子と仲良くなるためのイベントってこと
オバケ:絶対に違う。霊に失礼だろそれは
鷹野上:お願いしますお幽霊さん! いい具合なホラー感出してあの子とお近づきにならせてください!
オバケ:お幽霊さんて!
鷹野上:そんなびっくりしなさんなおオバケさん
オバケ:呼び方! まあ僕と幽霊、名前からして仲間みたいなもんだからいいか
鷹野上:仲間? え、じゃあ交流とかあるの? 月一で公民館集まってさあ、お菓子食べながら来月の地域の清掃会はあの墓場で! みたいな
オバケ:自治会じゃないんだよ
鷹野上:幽霊自治会。回覧板とか回すのかな。あ~しまった今月の集まり第三土曜に変更だったすっぽかしちゃった~!
オバケ:心霊を馴染みよいものにしないでくれる?
鷹野上:まあそれはさておき。暗闇の中、肝試ししてる時に一番怖いの何か分かる? それはな、無言
オバケ:まあね、無言は嫌だな。真っ暗で話すことも憚られるくらいの恐怖が……
鷹野上:うーわ、一緒に来た女の子と話すこと全っ然ないどうしよう!
オバケ:気まずさ由来の無言! そんなの趣味の話とかすればいいんじゃないの
鷹野上:確かに! あのさ、趣味とかある?

鷹野上、虚空の女子に向かって話しかける

鷹野上:へ~読書、いいね! 何読むの? うん、うん……カントの純粋理性批判!? ……へえ~…………
オバケ:あーあ、また無言になっちゃった
鷹野上:しゃべることないの本当に怖い……
オバケ:誘う前にリサーチしといてくださいよそこは
鷹野上:あともう一つ怖いのはね、人数数えたとき
オバケ:数えるなよ。絶対よくないことしか起きないから。決まってんのよそれは
鷹野上:ほら、四人で来たはずなのに「あれ、五人?」みたいな
オバケ:古典! それ一人幽霊のやつだ!
鷹野上:あ~ダブルデートなのに一人余る! こっわ!

鷹野上、自分の腕を擦る。

オバケ:恋愛至上主義すぎない? もっと着目すべきところがあるでしょ?
鷹野上:まあ古典ってやっぱ大事よ。でもさ、逆も怖いよな
オバケ:逆?
鷹野上:四人で来たはずなのに三人しかいない
オバケ:それは普通に事件! 警察に電話して! すみませんお巡りさん肝試ししてたら一人とはぐれてしまいました崖から落ちたかもしれません! いやもしかして幽霊に連れていかれたのか?!
鷹野上:さっき女の子一人帰っちゃった~!

鷹野上、号泣。

オバケ:純粋理性批判の子帰って来てあげて! ごめんねこんなしょうもない肝試しより哲学的思想に耽りたいのは分かるけどお!
鷹野上:でまあ結局肝試しで一番怖いのはさ
オバケ:まだやる? 一番怖いの多くない?
鷹野上:帰りの車で点呼する瞬間
オバケ:数えるなって言てってんのに
鷹野上:だって心配だろ
オバケ:何を
鷹野上:ちゃんと来た人だけ帰ってきてるか
オバケ:当たり前じゃん
鷹野上:でもな、四人で来て四人で帰っても
オバケ:うん
鷹野上:その四人が同じ四人とは限らないだろ
オバケ:……あ、急にガチのホラーを持ち込んでいらっしゃいます? やめてやめて!

オバケと鷹野上、無言で客席をじっと見る

鷹野上:今日も多いですね
オバケ:え? あ、はい。ありがたいですね
鷹野上:……多いですよね
オバケ:何回言うの?
鷹野上:お客さんたちも最初と最後で同じ人かどうかは分からないから
オバケ:分かるでしょ? チケット座席指定制だから。ダメですよ、違う人と入れ替わりとかしたら
鷹野上:1、2、3、4……

鷹野上、客の人数を数える

オバケ:だから数えるなって。古典から脈々とダメだって証明されてるんだって
鷹野上:これ女子多いから余るなあ人数的に
オバケ:お客さんはデートしに来たんじゃないですよ?! どんだけカップル作るつもりなの! 合戦か!
鷹野上:1、2……

鷹野上、自分とオバケを数える。しきりに首を捻る。

オバケ:いや二人! 二人よどう見ても。数えるまでもなく。最初からそうだったでしょ?
鷹野上:まあ肝試しはね、楽しんだ者勝ちですから
オバケ:急にまとめるな
鷹野上:怖くても、いなくても、いる気がしても
オバケ:言い方
鷹野上:最後は彼女を作って帰りましょう
オバケ:いい加減にしろ
オバケ・鷹野上:どうも、ありがとうございました



・トリオ『ちょっと不平等』練習撮影動画

昼間、どこかの石階段前。三人が拍手しながら画面内に入ってくる。

不病(ふびょう):どうも、不病です
平堂(びょうどう):平堂です!
浮等(ふどう):浮等と申しますー
不病・平堂・浮等:僕たち、ちょっと不平等ですー!
不病:突然なんですけど、僕ちょっとやりたいことがあるんですよ
浮等:ほお、どした?
不病:あのお、実は、ちょっとやりたいこと……
平堂:…………
不病:……ごめん、飛んだ
浮等:……よっしゃ、じゃあもう一回頭からやるか
平堂:いや、ちょっと待って。は? なんでこんな最初で飛ぶかな。っつか芸人なんだからアドリブでなんか面白いの出そうとか思わなかった?
不病:いやあ、はは……
平堂:何を笑ってんの? 全然面白くないんだけど
浮等:まあまあまあ! しゃあないって忘れるのは。
平堂:こういうの何回目? やる気ないって思われても仕方ないでしょ
不病:……ごめん
平堂:ごめんじゃなくてさあ……はあ……最近多いって。勘弁してほしいわ。こっちがせっかくネタ書いてきてもさあ! 意味ないだろこれじゃ! なあ!
不病:……ごめん……本当にごめん……
浮等:…………
平堂:ちっ……、もう一回最初から

重苦しい空気のまま練習再開



・ワンピースの女

薄汚れた服を着た女が無表情でこちらをじっと見ている。およそ五秒ほどでブラックアウト。出典不明。