名前だけでも忘れてください

不病:いた! あれ見てみ
浮等:あはは、一人できょろきょろしてる
不病:絶対ドン滑りだって。一人でトリオ漫才できるわけないもん

(舞台袖の暗がりから二人は顔だけ出している。客席に座る講師は渋い顔)

不病:今日さ、川村が照明やる番だから、スポットライトちょっとずらしてって頼んでおいた
浮等:おいおい、マジ?
不病:あんまりやるとあれだし、センターから五センチだけ。微妙に外れるはず……ほらほらほら、もう暗い。川村、いい仕事するなあ
浮等:今度一杯奢ってやんなきゃな
不病:声も通らないように、さっきピンマイクの電池も切れかけのにしておいたし
浮等:あーあ、やりづらそう。これ、俺らは怒られないよな?
不病:僕ら二人で実技受けるって先生には言ってあるし。周りはもちろんみんな知ってる。分かってないのはあいつだけだよ。ざまあみろ

(平堂の視線が泳ぐ。講師が苛立たしげに貧乏揺すりを始める)

不病:……あいつ、そろそろ気づいてるかな。さすがにこれだけやったら自分の身分が分かるよね?
浮等:気づいても言わないんじゃない? プライド高そうだし笑

(舞台袖のモニターに映る平堂の顔は、口角だけが上がっている。笑っているように見えるが、目は動いていない)