『2月27日のサカキ』

『サカキカズイ』の「サカキ」は「境木」なのでしょうか。前回の出品はもう見つけることはできなくなってしまいましたが、見た夢の情報を鵜呑みにするなら出品者は同じ人物の可能性が高いように思います。片方は閲覧もできませんが、本部に連絡すれば削除済みの商品もしばらくの期間はログとして残っているでしょう。ですが、違反でもない出品の過去ログを調べて欲しいなんて、申請できるわけもありませんでした。

このぼんやりと気味の悪い出来事は、1週間も経つとだいぶ薄まり、私は気付けばいつのまにかまた普通の日常を送っていました。その頃は「リモート飲み」なんていうのも流行っていて、ひとり暮らしの学生や社会人の多くがそうやって孤独感を紛らわせていたような時期でした。
私も例に漏れず、ある日、大学の同じゼミの同期とリモート飲みをしようという話になりました。聞けば友人も勤務先が出社禁止になり、日々自宅でリモート勤務をしているということでした。ITコンテンツの制作会社勤務のため、それほど業務に支障はきたしていないと本人はずいぶん気楽な様子でした。私の今の仕事を話しているうちに、例の気味の悪い話になりました。

「それって、本当に同じ人のなの?」

友人は言いました。夢の中の女がしていたピンクの手袋にたまたま似ているものを偶然見つけたと言われれば、そんな気もしてきます。夢で見た時点ではマフラーの方に注意が行ってしまっていたので同じ手袋という確証は確かになく、私はうーん…と首を傾げてしまいました。「サカキ」と「境木」、同じ読み方らしい出品物が偶然相次いだことで、夢の中の映像と結びつけてしまったのかもしれません。その日その話はそこ止まりで、あとは同じゼミの友だちの近況を話したり、最近観たオススメの映画の話をしたりでその日のリモート飲み会は幕を閉じました。



あっという間に日は流れ、気づけば10月。私は仕事にすっかり慣れ、巡回業務が板についてきました。始業時間になると勤務開始報告とともに私はいつものように巡回業務にとりかかりました。業務では比較的自由に他のエリアを巡回しても構いませんでしたが、必ず巡回しなければならないカテゴリが週ごとに大体割り振られていて、その週の私の巡回担当エリアはガーデニングと生活家電の2つでした。

私はさっそくガーデニングカテゴリの『手ごわい害虫に!即効性害虫駆除剤』の見出しをクリックして出品削除と警告メールの措置をとり、会社に報告手続きを行いました。どこのフリマサイトもそうだと思いますが、農薬などは特に厳しく取り締まっているアイテムのひとつです。
そのほかにも高山植物の抜き取り苗と思われるものをいくつか見つけ、「要確認」ボタンを押しました。「要確認」ボタンはアルバイトでは判断が難しい場合に押すボタンで、そのボタンを押すことで出品物が一時待機扱いとなり、表向きには「出品物確認中」と表示されてその時点での取引が中断されます。大体が3日以内に社員あるいはほかの専門スタッフがその出品物の違法性や違反かを確認し、「許可」あるいは「不可」の判断を下すのです。植物は海外から持ち込んだ種だったり、保護区域から採取されたものだったり、無許可の改良品種だったりと素人には特に判断が難しいものが多く、私はこのカテゴリの巡回が苦手でした。いくつかある苗木の出品の中でひとつが目に留まりました。

『定期販売:榊』(販売価格:19,886円)

フリマサイトに「定期販売」とはどういうことでしょうか。サムネイルは上から下へ伸びるような榊の葉をアップで写した写真でした。不思議に思い、中を覗くと榊の苗木ではなく、束ねられた切り枝が上下逆さまになった写真が掲載されていました。時々見かけますが、この出品も写真のアップロードに慣れない人が行ったのでしょうか?説明にはこう書かれていました。

「定期的に、榊をお供えいたします。」

お供えするって?どこに?しかも「定期販売」と謳っておきながら、それに関する説明は何も書かれていません。榊一束の値段にしては高すぎるような気がしますから、一か月分とかのまとまった量としての販売でしょうか?それとも代行墓参りのようにどこかにお供えに行ってくれるサービスの販売なのでしょうか?だとすれば、安いのかも……とも考えつつ、とはいえ、もしそうであればこの出品は「取引は物品に限る」と決められているこのフリマサイトでは規約違反です。

そもそも私が想像するような出品なのか、あるいは恐ろしく日本語が不自由な人による誤った書き方の結果なのか、分からないことだらけです。どちらにせよ、「定期販売」という文言は規約に引っかかるであろうことから、私は再び「要確認」ボタンを押し、会社の判断を仰ぐことにしました。その流れで検索サイトで「榊」を調べてみることにしました。

「サカキ(榊・賢木・栄木、学名: Cleyera japonica)
モッコク科サカキ属の常緑小高木。日本では神棚や祭壇に供えるなど神事にも用いられる(※神道)植物。常緑樹のため、さかえる(繁)ことから「繁木(さかき)」とする説もある」

……サカキ!そうです。カタカナを目にしたことで私の心臓が、ドクンと大きな音を立てました。サカキ。サカキカズイ。あの最初の不気味な出品物に付与されていた名前です。私は急いで出品者を確認することにしました。出品は「青森県」からでした。残念なことにあのマフラーがどこからの出品かはもう不明ですが、片方の手袋の出品は沖縄県。全然別の地域です。そして、説明文にある文体も片手の手袋のものとはなんとなく違う人物のような印象がします。友人も言った通り、これは私が勝手にいくつかの情報を関連付けてしまっただけの「気のせい」なのでしょうか?