それから2週間ほどは、変な夢を見ることもなく、日々、淡々と過ぎていきました。月をまたぎ、いつものように巡回業務を行っていると、ある出品が私の目を捉えました。
『境木さん:スエードの手袋(右手)』(販売価格:7,393円)
12分ほど前の出品で、サムネイルには商品ではなく、可愛らしい猫の写真が設定されていて、白い文字で「境木さん専用」と書かれていました。
フリマサイトの購入は基本的には早い者勝ちです。ですが値下げのやり取りなどを交わし合意が取れた場合に、他の人の購入を意識的に控えさせるための策として「●●さん専用」と書いた写真をサムネイルに指定することが通例化していました。こんな季節外れにスエードの手袋、しかも右手だけの出品とは、絶対に売れなさそうなのに出品するんだなと感心しながら、興味本位でその出品ページをクリックしました。
開くとコメント欄にはそのような値下げのやりとりはおろか、何の会話も残っていませんでした。SNSか何か別の場所で値下げ交渉でもしたのでしょうか。
サムネイル以外の写真を見てみると、そこにあったのは、サーモンピンクの手袋。縁にはフワフワの毛があしらわれています。そう、まさにあの夢の中の女性がしていたのと同じ手袋が右手分だけ出品されていたのです。
商品の説明文にはこう書かれていました。
「境木さんの左手だけ持っている方に見つけてもらえますように!」
下には商品を見つけやすくするためか「#SAKAKI」とハッシュタグがつけられていました。なんとなく違和感がありよく見ると、「I」がひとつ足りないことに気づきました。そこまできて、思いました。もしかして商品のタイトルは「サカイキさん」ではなく「サカキ」と読むのかもしれない。私は震える指で、出品者の情報をクリックしました。出品場所には沖縄県と書かれていました。すぐに先週見つけた「サカキカズイのマフラー」を探しました。しかしどこを探しても「サカキカズイのマフラー」は見つけることができなかったのです。
気味悪さを打ち消そうと私はキッチンに行き、コーヒーメーカーにフィルターを設置しました。冷蔵庫の中からコーヒーの粉を取り出して大匙2杯をそこに入れ、スイッチを押します。冷蔵庫の上にあるデジタル時計は午前2時49分を指していました。
部屋中をコーヒーのいい香りが充たし、コポコポとコーヒーの落ちる音が響き渡りました。
淹れたてのコーヒーをすすった途端、思わずキッチンのシンクに吐き出しました。熱かったからではありません。見るとそこにはドロッとした塊がありました。夏場に飲み物を放置したときに沈殿する澱のようなものでした。数年使ってきたコーヒーメーカーの中の汚れが何かの拍子に出てきたのでしょうか。気味の悪さに不快さが重なり、その夜は少し気分が沈みました。
『境木さん:スエードの手袋(右手)』(販売価格:7,393円)
12分ほど前の出品で、サムネイルには商品ではなく、可愛らしい猫の写真が設定されていて、白い文字で「境木さん専用」と書かれていました。
フリマサイトの購入は基本的には早い者勝ちです。ですが値下げのやり取りなどを交わし合意が取れた場合に、他の人の購入を意識的に控えさせるための策として「●●さん専用」と書いた写真をサムネイルに指定することが通例化していました。こんな季節外れにスエードの手袋、しかも右手だけの出品とは、絶対に売れなさそうなのに出品するんだなと感心しながら、興味本位でその出品ページをクリックしました。
開くとコメント欄にはそのような値下げのやりとりはおろか、何の会話も残っていませんでした。SNSか何か別の場所で値下げ交渉でもしたのでしょうか。
サムネイル以外の写真を見てみると、そこにあったのは、サーモンピンクの手袋。縁にはフワフワの毛があしらわれています。そう、まさにあの夢の中の女性がしていたのと同じ手袋が右手分だけ出品されていたのです。
商品の説明文にはこう書かれていました。
「境木さんの左手だけ持っている方に見つけてもらえますように!」
下には商品を見つけやすくするためか「#SAKAKI」とハッシュタグがつけられていました。なんとなく違和感がありよく見ると、「I」がひとつ足りないことに気づきました。そこまできて、思いました。もしかして商品のタイトルは「サカイキさん」ではなく「サカキ」と読むのかもしれない。私は震える指で、出品者の情報をクリックしました。出品場所には沖縄県と書かれていました。すぐに先週見つけた「サカキカズイのマフラー」を探しました。しかしどこを探しても「サカキカズイのマフラー」は見つけることができなかったのです。
気味悪さを打ち消そうと私はキッチンに行き、コーヒーメーカーにフィルターを設置しました。冷蔵庫の中からコーヒーの粉を取り出して大匙2杯をそこに入れ、スイッチを押します。冷蔵庫の上にあるデジタル時計は午前2時49分を指していました。
部屋中をコーヒーのいい香りが充たし、コポコポとコーヒーの落ちる音が響き渡りました。
淹れたてのコーヒーをすすった途端、思わずキッチンのシンクに吐き出しました。熱かったからではありません。見るとそこにはドロッとした塊がありました。夏場に飲み物を放置したときに沈殿する澱のようなものでした。数年使ってきたコーヒーメーカーの中の汚れが何かの拍子に出てきたのでしょうか。気味の悪さに不快さが重なり、その夜は少し気分が沈みました。
