爽やかな風を受け、咲き始めの初夏の花が揺れる夜に宴は開催された。
あれから、忙しなく今日のための準備をしてきた芙月は、緊張した面持ちで会場の端に待機していた。
宴は滞りなく進んでいく。
華やかに着飾った妃たちは、相変わらず無表情な帝を見てうっとりしている。態度がどうであれ、彼の持つ権力、財力は魅力的なようで、その装いと立ち居振る舞いから少しでも目に入れてもらおうと必死なのが伝わってきた。
宴が終盤に差し掛かった頃、賑やかさが少し落ち着いた。妃たちが食事と共に歓談をする中、帝は相変わらずの無の表情で盃を口に運んでいた。
「今回は装飾はないのかしら?」
「私も思いましたわ」
着々と準備を進める芙月の耳に、妃たちの囁き声が届いた。
普通、装飾は全て設置を終わらせて、煌びやかな状態で宴を始める。しかし、今回の装飾は特別演出として、宴の最後の方に披露できるよう桜雅に手配してもらったのだ。
夜が深くなり、落ち着いたところで見てほしいという願いから。
「ご歓談中のところ申し訳ございません。今回は特別に装飾を演出としてご覧いただきたく存じます」
桜雅の発表に会場がひそひそと話だした。
ここからではよく見えないが、帝はどんな顔をしているのだろう。そんな心配がよぎる。
しかし、こごまでくればもう引き返せない。自分と花を信じて実行するのみだ。
「それでは、あちらをご注目下さい」
ざわついていた会場が一気に静まり返る。何十人もの人からの視線をひしひしと感じながら、芙月は準備したろうそくに火を灯し、そっと中庭の池に浮かべた。
一つ、二つ、池の上にぽつぽつと橙色の光が灯っていく。
それと同時に爽やかな、そしてどこかほんのり甘い香りが広がった。
その幻想的な光景に、宴会場に集まった人々は言葉を忘れ。うっとり見惚れていた。
全てのろうそくに火を灯し終えた芙月は、息を吐くとゆっくり立ち上がり池から数歩離れ全体を見た。
池に浮かぶのは、蝋で作られた紫色の蓮の花。花びら一枚一枚も実物のように作り込まれた見事な大輪の蓮がいくつも浮かんでいる。
花の中心部分には炎が灯され、橙色の光が浮かび上がり、ゆらめいていた。
そして、一工夫としてろうそくに薫衣草の香りを染み込ませた。夜風に乗って香りが広がる。
静かな空間でその美しい見た目と香りを楽しんでもらいたいという思いから考えたこの演出。
いや、楽しむのはもちろんだが、帝に花からの伝言を、真実を届けたいと願い作り上げた装飾。
芙月は帝の反応を見る為に後ろを向こうとしたその時――
盃が割れる音が響いた。

